ブロックチェーンのウィークポイントと超えるべき3つの壁
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2019年07月08日
一般社団法人エネルギー情報センター
ブロックチェーン固有のウィークポイントとは別にエネルギー業界特有の壁があります。こちらについても越えていかなくては、エネルギービジネスでのブロックチェーンの活用は拡がりません。ここでは、大きな3つ壁を紹介します。
執筆者:一般社団法人エネルギー情報センター
理事 江田健二
富山県砺波市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)に入社。エネルギー/化学産業本部に所属し、電力会社・大手化学メーカ等のプロジェクトに参画。その後、RAUL株式会社を起業。主に環境・エネルギー分野のビジネス推進や企業の社会貢献活動支援を実施。一般社団法人エネルギー情報センター理事、一般社団法人CSRコミュニケーション協会理事、環境省 地域再省蓄エネサービスイノベーション委員会委員等を歴任。
ブロックチェーンのウィークポイント
ブロックチェーンの素晴らしい可能性や最新事例を紹介してきました。しかし、ブロックチェーンも万能ではありません。インターネット以来の大変革と期待される中、ビジネス領域で積極的に活用が進む過程で同時に課題が浮かび上がってきています。
例えば、システムの柔軟な拡張性の担保、データプライバシーの強化、インターネット依存性の解消などです。これらの課題は、そもそものブロックチェーンのウィークポイントであり、エネルギー業界での活用だけに限ったことではありません。
これらの課題を解決するために政府や世界の名だたるIT企業があつまり日々研究を進めています。具体的には、ブロックチェーンをより広範囲なビジネスで活用できるようにと世界規模での研究団体が設立され、数千億円規模での巨額の資金が注がれています。
著者は10年後には現在指摘されている課題の多くは解決していると考えます。なぜならインターネットも通信プロトコルのTCP/IPが誕生してから45年の歳月で信じられないほどの進化を遂げたからです。同じくブロックチェーンのウィークポイントも世界規模での巨額の投資と研究者の努力により日進月歩で解消されていくでしょう。
エネルギー業界特有の3つの壁
ブロックチェーン固有のウィークポイントとは別にエネルギー業界特有の壁があります。こちらについても越えていかなくては、エネルギービジネスでのブロックチェーンの活用は拡がりません。ここでは、大きな3つ壁を紹介します。
1つ目は、規制・ルールの壁です。エネルギー業界は非常に重要な社会インフラであるため、多くの細かな規制やルールが存在します。例えば、電気を販売するには、国に申請を行い小売り電気事業者の免許を取得する必要があります。
加えて、現在の日本では、個人間での電気の売買は認められていません。つまり、ブロックチェーンを活用するかどうか以前に、電気の個人間売買を実現するには、法律やルールを変更する必要があります。
また、ある地域で電気をシェアし合う計画ができた場合「誰が責任をもって管理するのか、どのようにルールで管理するのか」を1から決めていく必要があります。それに加えて、電力会社との調整も必要です。個人間での電気の取引に伴い、電力網の使い方も変化しますので、送電設備を持つ電力会社の協力は絶対に不可欠だからです。
新しいルール作りは、国や地方自治体が音頭を取ることが現実的です。先に海外で様々な規制・ルールの標準が決まり、革新的な社会モデルが生まれてしまうと遅れをとってしまいます。
日本も積極的な参加が必要です。法律や規制・ルールを改変していくためには、実証実験を通して、「こうすればうまくいく」「今のルールをこういうふうに変えていこう」という試行錯誤のプロセスが大切です。不公平感の少ない、多くの人が賛同するルールや制度が整うまでの地道なプロセスは、5年10年20年と続いていくでしょう。
2つ目の壁は、自己矛盾の壁です。実は、ブロックチェーンという仕組みを維持していくには、非常に大きな電力を必要とします。最も電力を使うのは、「マイニング」という業務です。
マイニングは、ブロックチェーンを支える根幹的な作業です。ブロックチェーンで行われた取引のチェックをするイメージです。マイニングを行う企業や個人には、一定のルールに従って、報酬が支払われます。
報酬を得るために世界中で個人や企業がマイニングに参加していますが、コンピューターを使うため多くの電力を消費します。ブロックチェーンを推進するということは、よりエネルギーを使うこととイコールになってしまう、という矛盾が生まれます。
最近の調査では、全世界でマイニングを行うコンピューターが使用した電力は、159カ国が1年間に使用する電力量を上回ったとの報告があります。エネルギーの最適化のためにブロックチェーンを活用することは、自己矛盾しているのではないかとの指摘もあります。
3つ目は、私たちの心の壁です。ある調査では、人々が電気について考える時間は、月に1分程度。1年間で約12分です。この調査データから推察すると、テクノロジーに強い関心がある人は、ブロックチェーンをエネルギーに使ってみたいと考えるかもしれませんが、多くの消費者が興味を持たない限り、ブロックチェーンがエネルギー分野で広がることはありません。
わざわざ新しいことを受け入れて、新しい社会モデルに転換するには、それ相応のニーズが必要です。ブロックチェーンを活用しても生活があまり変わらないのであれば、1年で12分も考えていなかった人からすると、あまり重要な話ではないでしょう。
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執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
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