【第2回】電気主任技術者の人材不足とは? 〜人材育成の最前線、業界と行政が進める具体策〜
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2025年04月30日
一般社団法人エネルギー情報センター

電気主任技術者をめぐる人材不足の問題は、再生可能エネルギーやEVインフラの急拡大と相まって、ますます深刻さを増しています。 こうした状況に対し、国や業界団体は「人材育成・確保」と「制度改革」の両面から対策を進めており、現場ではすでに具体的な動きが始まっています。 第2回となる今回は、人材不足に対し、業界や行政がどのような対策を講じているのか、具体的な施策を、実例を交えながら、詳しくお伝えします。
1.協会主導で進む「入口支援」の強化
技術者不足の深刻化を受けて、各地の電気管理技術者協会では新たな人材の確保に向けた情報発信や支援活動を強化しています。
代表的な取り組みのひとつが、東京電気管理技術者協会※1による「入会希望者説明会」です。
この説明会は、電気主任技術者免状※2の取得者を対象に、業務内容や開業までの流れ、報酬モデルなどを紹介するもので、近年は異業種からの参加者も増加しています。
とくに注目されるのは、実務経験に不安を抱える人への丁寧なサポート体制です。説明会では、ベテラン技術者が実務経歴証明書の作成方法や日々の働き方など、現場のリアルをわかりやすく紹介。加えて、現職の会員による体験談や質疑応答の時間も設けられ、参加者の理解を深めています。
東京協会では、こうした説明会を月1回のペースで定期開催しており、毎回満席となるほどの高い関心を集めています。
これらの取り組みにより、「誰でも挑戦できる」環境を可視化し、人材の新規参入を後押しする体制が着実に整えられつつあります。
※1 東京電気管理技術者協会:東京都内の電気保安業務に従事する電気管理技術者によって構成される団体。技術者の育成や会員支援、情報提供などを行う。
※2 電気主任技術者免状:経済産業省が交付する国家資格。一定規模以上の電気設備の保安監督に必要とされ、第一種〜第三種まで3段階がある。

図1 東京電気管理技術者協会による「入会希望者説明会」
出典:電気主任技術者制度について 令和5年10月26日 産業保安グループ 電力安全課
2.現場で育て、支える仕組みづくり
人材の確保と並んで重要なのが、現場における育成と定着支援です。
(1)ペア点検や同行指導制度
全国の電気管理技術者協会や保安法人では、実務未経験者や開業間もない技術者に向けた育成スキーム※3の整備と共有が進められています。とくに注目されているのが、ベテラン技術者によるペア点検や同行指導制度です。
この仕組みでは、新人が報告書作成や顧客対応、トラブル時の初期対応など、現場ならではのノウハウを実地で学ぶことができるため、「見て学ぶ」だけでは得られない実践的な知識と判断力が身につきます。
とくに都市部では、こうした支援が体系化されており、未経験者でも安心して業務を始められる体制が整いつつあります。
また、これらの実地指導を単なるローカルな取り組みとせず、業界全体でモデル化し、標準化して共有していくことが次のステップとされており、育成の地域格差を縮小する動きも見られます。
※3 育成スキーム:新人技術者や未経験者を段階的に育てるための教育・指導体制。現場同行や講習制度などを含む。
(2)「保安管理業務講習」制度
こうした現場支援の一方で、経済産業省は「実務経験の壁」を緩和するため、令和3年3月の告示改正を通じて「保安管理業務講習」制度を整備しました。
これは、第三種電気主任技術者の免状を取得していれば、所定の講習を修了することで主任技術者※4として選任される道が開かれるもので、現場経験が浅くても、講習と現場実習を通じて段階的にスキルを身につけられる仕組みです。
実際には、協会や保安法人が講習修了者の受け入れ先となり、「育てながら任せる」体制をとることで、即戦力化への橋渡しが進んでいます。
若年層や異業種からの転職希望者にも活用が広がっており、「働きながら学べる」という安心感から、新たなキャリアとしての関心も高まっています。実際、これまでの講習受講者のうち約6割が20〜30代とされており、将来の中核人材となる層の育成にもつながっています。
※4 主任技術者:事業用電気工作物の保安監督を担う国家資格者。設備の点検や安全管理を行い、法令で選任が義務付けられている。

出典:電気主任技術者制度について 令和5年10月26日 産業保安グループ 電力安全課
(3)試験制度改革による「受験機会の拡大」
また、電気主任技術者や電気工事士の人材確保に向け、近年、試験制度の柔軟化と受験機会の拡大が進められています。中でも注目されるのが、試験回数の増加とCBT方式(Computer Based Testing)の導入です。
たとえば、第三種電気主任技術者試験は2022年度から年2回実施へと拡大。さらに2023年度からはCBT方式も導入され、全国約200会場・25日間の中から希望日を選んで受験できるようになりました。従来の筆記試験(約60会場)とあわせて、より柔軟な受験スタイルが可能となり、働きながらの受験にも対応しています。
これらの改革により、実際に受験者数は増加傾向にあり、再生可能エネルギーやEVインフラの拡大で高まる保安人材ニーズへの対応にもつながると期待されています。

出典:電気主任技術者制度について 令和5年10月26日 産業保安グループ 電力安全課
3.スキルに応じた評価と報酬制度の整備
主任技術者の人材確保・定着を進める上で、スキルと報酬が適切に結びつく評価制度の整備も欠かせません。
電気主任技術者は同じ資格を持っていても、対応する設備の規模・種類や、トラブル対応の判断力、保安体制の構築力などによって業務内容と責任の重さが大きく異なります。
にもかかわらず、これまでは「どこで働いても同じような待遇になりがち」という課題があり、それがモチベーションの低下や長期的な定着の障壁となっていました。
こうした状況を踏まえ、経済産業省は現在、以下のような取り組みを進めています
-
スキルレベルに応じたキャリアパスの明示
- スキルマップの整備と可視化
- 報酬水準に関するベンチマーク情報の収集・共有
これにより、経験や能力に応じた公正な評価と報酬が実現されれば、主任技術者の職業としての魅力向上と人材の定着促進が期待されます。特に若年層や転職希望者にとっては、「成長が見える仕事」として、将来設計の明確化にもつながる重要なポイントといえるでしょう。
4. 多様性と発信力で広げる人材の裾野
電気主任技術者の人材確保に向けて、業界全体では従来の枠組みにとらわれない多角的なアプローチが進められています。女性や地方在住者、若年層など、多様な人材の活躍を促進すると同時に、他業界との連携や積極的な広報活動により、職種としての魅力発信も強化されています。
(1)女性や地方在住者の活躍推進
これまで電気主任技術者は、男性中心・フルタイム勤務のイメージが強い職種でした。しかし近年では、非常勤で働く女性技術者や、地方に移住して地域密着で保安業務に従事する技術者など、多様な事例が各地の協会から発信されています。特に地方では技術者不足が深刻化しており、柔軟な働き方の推進は地域インフラの維持にも貢献する重要な取り組みです。
(2)若年層への教育・連携の強化
将来の担い手育成を目的とし、若年層へのアプローチや教育機関との連携も活発化しています。たとえば、工業高校や専門学校への出前講義、大学とのインターンシップ連携、学生向けの施設見学やキャリア説明会の開催などが全国で展開されています。特に高校生に対しては、資格取得後の独立やキャリアパスを具体的に提示することで、「将来の選択肢のひとつ」としての認知が広がっています。
(3)他業種との連携による職域の拡大
電気主任技術者のスキルは、スマート保安、EVインフラ、災害対応など幅広い分野で活かされています。最近では、IT企業や自治体、建設・金融分野との協業によって、業務の高度化・多様化が進行中です。たとえば、ITベンダーとの共同による遠隔監視システムの開発や、自治体と連携したEV充電インフラ整備、レジリエンス強化プロジェクトへの技術支援などが代表例です。これにより、主任技術者の業務が「社会インフラ全体に関わる仕事」として再定義されつつあります。
(4)業界全体で進む魅力発信
こうした実務の広がりと並行して、社会的認知度を高めるための広報活動も強化されています。業界横断で運営される情報発信サイト「Watt Magazine」では、現場技術者のインタビューや職場紹介を通じて、実際の業務ややりがいをわかりやすく発信。これまでに累計100万回以上閲覧されるなど、入職促進に一定の成果を上げています。

図3「Watt Magazine」
出典:電気主任技術者制度について
まとめ
電気主任技術者の人材不足という課題に対して、国・業界・地域協会が連携しながら、育成と確保の取り組みを本格化させています。
現場では、未経験者や転職希望者が参入しやすい環境づくりが進んでいます。あわせて、スキルに応じた評価制度や柔軟な働き方の導入など、多様な人材が活躍できる職場づくりも強化されています。
さらに、異業種との連携や広報活動を通じて、電気主任技術者という職種の社会的意義や魅力を広く発信する動きも加速。将来を見据えた持続的な人材確保のため、「育てる仕組み」と「選ばれる職業像」の両立が求められています。
次回は、効率的な保安制度の構築やその制度について詳しくお伝えします。
執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センター
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