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経営に活かす生成AIエネルギー論 日本企業の伸びしろを探せ

発売日:2025年4月6日
出版社:日経BP 日本経済新聞出版

執筆者:岡本浩、高野雅晴

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生成AIの登場により、エネルギー産業は「単なるインフラ」から「価値創造のプラットフォーム」へと劇的な進化を遂げようとしています。本書は、その変化を「MESH(メッシュ)」というフレームワークで鮮やかに描き出した一冊です。

本書は、生成AIとエネルギーを単に並列的に論じる書でなく、その本質は、MESH(Machine-learning Energy System Holistic)という特殊な概念を軸に、エネルギー・デジタル・社会・経営を「編み直す」ことにあります。生成AIはその中核的な触媒であり、目的ではなく手段として位置づけられている点に、本書の最大の特徴と価値があると考えられます。

多くの生成AI関連書籍が「業務効率化」「人手不足対策」「競争優位の獲得」といった短期的成果に焦点を当てる中で、本書は一段深いレイヤーに踏み込んでいる印象です。すなわち、生成AIがもたらす電力需要の増大、データセンター集中、地域インフラへの影響といった「エネルギー制約」を前提に、企業経営を再設計する必要性を真正面から論じています。この問題意識こそが、MESHという思想につながっていきます。

MESHとは、電力ではなくデータを運ぶワット・ビット連携に近しいものですが、エネルギーを単なるコストや制約条件として扱うのではなく、デジタル技術・社会システム・地域資源と結節させることで、より綿密に新たな価値創出の基盤(ハブ)として再定義する考え方です。著者たちは、生成AIの進展によって、従来は分断されていた「電力」「情報」「産業」「地域」が再び結びつく局面に入ったと捉える。そして、この結節点を戦略的に設計できるかどうかが、日本企業の「伸びしろ」を左右すると指摘しています。

MESHの視点に立つと、生成AIは単なる業務支援ツールではなく、エネルギー需給の最適化、分散型電源の制御、地域データの活用、サプライチェーン全体の再設計を可能にす構造変革装置という価値の側面が見えてきます。本書では、再生可能エネルギーとデータセンター立地の関係、スマートグリッドとAI制御、地域単位でのエネルギー×デジタル統合といったテーマが繰り返し取り上げられるが、これらは基本的にはMESHという一本の軸で貫かれています。

また、MESHは大企業向けの壮大な構想にとどまらない。地方自治体や中堅・中小企業にとっても、地域資源(再エネ、人材、データ)を束ね直すための実践的な思考フレームとして機能し得ることが、ある程度の具体事例を通じて示されている。ここに、本書が単なる未来予測や理念書ではなく、現実の経営に接続された書籍である理由があります。

興味深いのは、著者たちがMESHを「完成形のモデル」として提示していない点です。むしろ、企業や地域ごとに異なるMESHが存在し得ることを前提に、経営者自身が設計者になることを促しています。この関係性の整理は、生成AIを過度に神格化しがちな風潮への健全なアンチテーゼとも言えるのではないでしょうか。

著者の岡本浩氏はスマートグリッドの専門家として電力システムの未来に長年関わってきた人物であり、高野雅晴氏はIT専門家としてDX(デジタルトランスフォーメーション)や生成AIのビジネス適用に精通しているようです。本書は、この二人の専門性の融合により、「AI時代の経営戦略」における独自の視座を提示しています。さらに、AI研究の第一人者である東京大学・松尾豊教授やDX専門家の西山圭太氏との鼎談も収録されており、まさに「エネルギーの物理的制約」と「AIの無限の可能性」を架橋する一冊となっています。

一方で、本書は決して読みやすさだけを優先した構成ではないように見受けられます。エネルギーシステムやインフラの議論には専門性があり、MESHという概念も直感的に理解できるまでには一定の思考負荷を要します。しかし、それは裏を返せば、軽薄なAI礼賛ではなく、腰を据えて経営の構造転換を考えるための書であることの証左とも言えます。

総じて本書は、生成AIを「使うか、使わないか」という二元論から読者を解放し、「どのようなMESHを自社は構築すべきか」という、より本質的な問いへと導く一冊です。エネルギー制約が強まる時代において、生成AIを真に経営に活かすとはどういうことか。その答えは、ツール選定ではなく、MESHという構想力の中に答えがあるかもしれません。本書は、その出発点を与えてくれる、稀有な経営書です。

本ページの書評作成者

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一般社団法人エネルギー情報センター

主任研究員 森正旭

上智大学地球環境学研究科にて再エネ・電力について専攻、卒業後はRAUL株式会社に入社。エネルギーに係るITを中心としたコンサルティング業務に従事する。その後、エネルギー情報センター/主任研究員を兼任。情報発信のほか、エネルギー会社への事業サポート、また法人向けを中心としたエネルギー調達コスト削減・脱炭素化(RE100・CDP等)の支援業務を行う。新電力ネットの運営全般に係る統括責任者、また個人やご家庭の方への情報発信媒体として「電気プラン乗換.com」の立ち上げを行い、コンテンツ管理を兼務。

企業・団体名 一般社団法人エネルギー情報センター
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社団HP http://eic-jp.org/
サービス・メディア等 https://price-energy.com/
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