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飛”(ビ)!電磁民族音楽

発売日:2026年4月6日
出版社:電気書院

執筆者:和田永

飛”(ビ)!電磁民族音楽の写真

ブラウン管テレビが楽器に!? 古い家電を楽器として蘇らせた「電磁盆踊り」は、2025年の大阪・関西万博から日本、世界各地まで民族の垣根を越えて一大ムーブメントに―― 和田永の共創の秘密に迫る自身初の著書。 電気・電波・電子・電磁の波に乗った奇祭の幕が開く――

著者情報

アーティスト / ミュージシャン

和田永氏

物心ついたころに、ブラウン管テレビが埋め込まれた巨大な蟹の足の塔がそびえ立っている場所で、音楽の祭典が待っていると確信する。
しかしあるとき、地球にはそのような場所がないと友人に教えられ、自分でつくるしかないと今に至る。
学生時代より音楽と美術の領域で活動を開始。2009年より年代物のオープンリール式テープレコーダーを演奏する音楽グループ『Open Reel Ensemble』を結成して活動する傍ら、ブラウン管テレビを楽器として演奏する作品『Braun Tube Jazz Band』にて第13回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞受賞。Ars Electronica(オーストリア)やMUTEK(カナダ)をはじめ各国でライブや展示活動を展開。2015年より、役割を終えた電化製品を新たな電磁楽器へと蘇生させ、祭典を形づくるプロジェクト『ELECTRONICOS FANTASTICOS!』を始動させて取り組む。その成果により、第68回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。坂本龍一、高橋幸宏、やくしまるえつこ、七尾旅人、民謡クルセイダーズ、ずっと真夜中でいいのに。をはじめ数多くのアーティストと共演・共作している。
そのような場所がないと教えてくれた友人に偶然再会。「まだそんなことをやっているのか」と驚嘆される。

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目次

  1. まえがき
  2. 巻頭インタビュー 電気と音楽 和田永×若林恵(聞き手)
  3. 第1章 〈電〉との接触
  4.  親玉の目玉
     モーターの死と手の覚醒
     次元超越時空歪曲装置としてのオープンリール
     時折織成
     取扱説明書からの脱皮
     未知なるムカーム
     反転と循環の時間観
     黄昏のマグネシア
     不可触化の技術史観
     誤接続の世界線
     次元超越電気ショック
     視聴覚変転装置としてのブラウン管
     部屋、シンセ化
     秘密のメッセージ
     概念響の不思議
     ブラウン管テレビ祭壇
     タラスコ・シンクロニシティ
     靴下の中の電極
     地デジ化
     Bye Bye Broadcasting
     高次元媒体への旅

  5. 第2章 エレクトロニコス・ファンタスティコス!
  6.  電磁の荒野
     最先端の墓場
     ニコスの卵
     黒電話リズムマシン(Black Teleringer)
     換気扇サイザー(Exhaust Fancilator)
     ボーダーシャツァイザー(Striped Shirtsizer)
     扇風琴(Electric Fan Harp)
     家電音律の旅
     エアコン琴(A/C Harp)
     テレナンデス(CRTelecaster)/テレ線(Telesen)
     バーコーダー(Barcoder)
     ワイルドエンジニアリング
     電磁民族楽器

  7. 第3章 電磁と踊る
  8.  電磁盆踊り
     死語の唄
     アルス・エレクトロニコス
     発電磁行列
     大阪万国博電磁盆踊り
     遊電の民

  9. 巻末インタビュー エネルギーと盆踊り 和田永×若林恵(聞き手)
  10. あとがき
  11. 著者紹介

著者インタビュー

奇才のミュージシャン和田永が奏でる「電磁民族音楽」の旅に出よう!

2025年6月27日、大阪・関西万博のメインホール「シャインハット」の舞台で、私は仲間とともに「家電」を奏でていた。家電といっても、最新のものではない。ブラウン管テレビや押し込みスイッチ式扇風機など、1970年の大阪万博の時代に普及し、今は役割を終えた家電たちだ。それらを再び万博の場に召喚し、新たな楽器へと蘇らせ、「電磁民族音楽」を奏でていた。
 大型ブラウン管テレビは大太鼓となってドドンと重低音を轟かせ、小型テレビは三味線のような旋律をビビンと鳴らし、非常ベルがジリリと警報音のリズムを刻むなか、扇風機がブオーンと唸り音を響かせた。それらを奏でるのは、長年の活動を通して集まったバンドメンバーたちだ。その生演奏に唄や踊りが加わり、1500人を超える観客とともに、1970年と2025年をつなぐ盆踊り大会を執り行った。

私は何をしている人物か? そのことについて聞かれたとき、いつもどう説明すればよいものか、戸惑ってしまうことが多い。言葉を重ねるよりも、実際に演奏を見てもらうのが何よりも早い。それでも、「そうですね、音楽をやっています」と答えてやり過ごそうとするのだが、だいたい次にくる質問は、「どんな音楽ですか?」である。そこで、本当は「電磁民族音楽です」と答えたいところだが、さすがに怪しいので、「えーと、電気を使った音楽です」と返すと、「シンセやエレキギターですか?」というやりとりへと展開していく。ここでついに諦めて、「いや、なんというか、ブラウン管テレビとかです」と答えると、相手の表情に大量の疑問符が満ち溢れる。そんなお決まりの流れを、これまでに何度も経験してきた。さらに少し説明がトリッキーになってしまうのは、どうやって音を鳴らしているのかという点だ。実のところ、ブラウン管テレビの画面から出ている電磁波を手でキャッチし、身体を通して電気信号をギターアンプに送ることで音を鳴らしている。廃品のバケツを叩いて演奏する、といったものとは違ったクセの強さがある。しかし、僕らにとっては、こうした奏法こそ、「電磁の声を聴く」という行為なのだ。そしてそれは、普段は聴こえていない音との出会いでもある。

小学生のころ、初めて手づくりのラジオをつくって音が鳴ったとき、この空間には、直接聴くことのできない無数の波が溢れていることを実感した。成長するにつれて、その波への理解も少しずつ追いついてきた。それは、電気と磁気の相互作用が生み出す波であり、時間と空間の中を最も速く伝わる性質を持つ。身の周りの電化製品の多くは、こうした電気と磁気が関わり合って動作している。大学生になったある日、ブラウン管テレビに触って音が鳴ったとき、空間の中にある絵が、音として時間の中へ展開していく面白さを感じた。そこで、ビビッときたのだ。ある時代の電化製品は、電磁の声を聴く装置であり、「四次元時空を奏でる装置」なのではないか。その世界に取り憑かれていった。

やがてその考えや発見を、仲間や関わる人びとと共有し、新たな楽器を創作し、奏法を編み出し、音楽を奏でるという活動を、かれこれ10年以上続けてきた。今、僕らの時代には、生活の隅々にまで電磁気が編み込まれている。ラジオを身の周りの電化製品に近づけると、「ブーーン」というノイズが聴こえることがある。それは、都市を駆け巡る「電気のリズム」を反映した音だ。50ヘルツの関東ではGシャープに近く、60ヘルツの関西ではBフラットに近い音程が聴こえてくる。かつての犯罪捜査では、電話音声の背景に鳴る微かな雑音から、犯人の居場所が関東か関西かを割り出したなんていう話も聞いたことがある。工場地帯では、機械の駆動音がある一帯にひとつのハーモニーを生むともいわれる。そう考えると、電化製品に宿る唸りや振動は、〈電〉(電子・電気・電波の根源)という見えない力が編み上げた、現代の調べのようにも思えてくる。

 本書で私が招待したいのは、そんな視点から始まる「電磁民族音楽」への旅である。日常のなかに生じた小さなエラーや疑問を掘り下げていくうちに、思いもよらない発見や気づきが次々と現れてきた。私自身の体験と活動の歩みをたどりながら、その過程で何を見つけ、考えてきたのかを紐解き、みなさんと共有したい。入口はいつもすぐそばにある。じっと観察し、耳を澄ませれば聴こえてくる。そこでは電化製品たちが、電磁のビートに乗って、今、踊り出そうとしているっるっるっるっるっるっる゛る゛る゛る゛る゛る゛る゛る゛〈ポチ!〉 (あ、すみません、エコーをかけ過ぎました。)


2026年 元旦
和田 永

本書「はじめに」より抜粋

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