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【第1回】AIデータセンター時代のシステム設計:ワット・ビット連携、GX戦略地域、PPA・電源ポートフォリオの実務論点

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

【第1回】AIデータセンター時代のシステム設計:ワット・ビット連携、GX戦略地域、PPA・電源ポートフォリオの実務論点の写真

生成AIの普及に伴い、データセンター(DC)は単なるIT設備にとどまらず、地域の電力インフラ設計そのものを左右する存在へと変わりつつあります。特にAI向けDCは、24時間稼働・高負荷率・増設前提という運用特性に加え、低遅延の要請から都市圏への近接やネットワーク結節点へのアクセスが重視される一方で、脱炭素への対応も必須となっています。結果として、電力の「量」だけでなく「確実性」と「環境価値(非化石証書の移転)」の両立が事業の成否を分けるようになっています。

こうした状況の中で、日本でも制度設計が大きく動いています。具体的には、系統用蓄電池における系統容量の「空押さえ」問題に対して規律強化が議論される一方、国としてはワット(電力)とビット(通信)を一体で整備する「ワット・ビット連携」を掲げ、自治体誘致やインフラ整備を含めた「GX戦略地域」等の枠組みで、望ましい立地へ需要を誘導しようとしています。さらに、需要家側では、脱炭素要請の高まりを受けて、PPAなどを通じた環境価値の調達や、電源ポートフォリオ(再エネ+調整力+バックアップ等)をどう設計するかが、契約論を超えて運用設計のテーマになっています。

本シリーズでは「AIデータセンター時代のシステム設計」を、①ワット・ビット連携、②GX戦略地域、③PPA・電源ポートフォリオの実務論点――という3つの観点から、全3回で整理します。日本の最新の制度設計と接続して、実装するなら何が論点になるかに焦点を当てるのが狙いです。

第1回は、まず全体の前提条件を揃えるために、「ワット・ビット連携」とGX戦略地域が、なぜ今必要とされ、立地と系統の設計をどう変えようとしているのかを取り上げます。DCが「どこに建つか」が「どれだけ早く、どれだけ確実に電力を確保できるか」を左右する時代に、実務者が最初に押さえるべき論点を、見出しと図解を交えて丁寧に整理していきます。

※本シリーズでは、電力システム・制度設計の観点に焦点を当て、立地選定における冷却・熱負荷や、BCP・レジリエンスの観点は扱いません。

第1回:ワット・ビット連携が必要になった理由

  1. 今回の結論
  2. DCの立地選定と電力調達戦略は、電源・系統・脱炭素を一体で設計する経営テーマになった。

  3. 背景
  4. DCは24時間稼働・高負荷率という特性から、電力の「量」だけでなく「どこで・いつ・どれだけ確実に」確保できるかが事業成否を左右する。ところが足元では、発電・蓄電側の接続申込み急増に加え、DC等の大規模需要でも先着的な接続確保や手続き滞留が起き、系統容量の滞留(実質的な「空押さえ」)が顕在化している。

  5. 制度の方向性
  6. 政府は接続規律の強化とあわせて、ワット(電力)とビット(通信・データ基盤)を一体で整備する「ワット・ビット連携」や、GX戦略地域を通じた計画的な系統容量の確保・配分の枠組みを検討している。

  7. 実務への含意
  8. 需要家(DC)側は「どこで」「どの電源を」「どの程度のリスクを取って」確保するかが経営課題となり、小売・発電・蓄電・自治体・系統運用者に新しい役割分担と調整が求められる。


全体図(図0):本稿の図1〜図6の要点を1枚に集約(出典:筆者作成)

図1:空押さえ→接続規律→計画的容量確保(ワット・ビット連携/GX戦略地域)→調達・運用設計の全体像(出典:筆者作成)

1. なぜ今、DCが「電力システムの主役」になるのか

DCは以前から大口需要家でしたが、生成AIの普及で状況が変わりました。AI向けの演算処理が爆発的に増え、DCの電力需要増が社会全体の電力需要の「量」と「負荷特性」の双方に影響を及ぼし始めています。さらに需要家単体で見た時にも「時間」と「脱炭素」の要請が重なり、電力システム側の設計論点が一気に前面に出てきました。

・量:特別高圧で数万kW級、かつ拠点が複数に増える(複数エリアで短期間に大規模需要が立ち上がる)。
・負荷特性:24時間稼働で負荷率が高い(ピークだけでなくベースロードを押し上げる)。
・時間:DCそのものの建設・稼働と、系統増強のタイムラインがズレやすい(工期が勝敗を分けるKPIの一つになりやすい)。
・脱炭素:再生可能エネルギー、非化石証書、将来的には24/7 CFE(24時間365日・時間帯別にカーボンフリー電力で賄う方式)を求められる可能性がある。

ここで重要なのは、DCの立地選定が、単なる不動産判断ではなく、「どの系統に・いつ・何万kWを接続するか」という電力システム設計そのものになっている点です。DCは需要施設であると同時に、系統計画・電源開発の起点となる「設計変数」へと位置づけが変わりつつあります。

図2:DCが電力システムを動かす4要素(量/負荷特性/時間(工期)/脱炭素)(出典:筆者作成)

2. 発電設備等で顕在化した「空押さえ」:接続規律の強化

まず、系統用蓄電池など発電設備等の「接続検討」申込みが急増し、事業化確度の低い案件も含めて接続枠が滞留する現象が問題化しています。議論の方向性はシンプルで、接続検討の段階から用地の確からしさを確認する、接続契約の段階では使用権原まで求める――という形で、申込みの質を引き上げる設計へ向かっています。

図3:「接続検討」→「接続契約」:入口規律(用地の確からしさ→使用権原)のイメージ(出典:筆者作成)

参考図3-公式:接続検討申込み時の土地に関する書類提出の要件化(出典:資源エネルギー庁「次世代電力系統WG(第5回)」資料2 発電等設備における系統アクセス手続きの規律強化について)

3. 需要設備(データセンター等)でも同じ課題:接続申込みの滞留

需要設備側でも、結果として系統容量が滞留するという点では似た構造が起きています。ただし、発電側が「事業化確度の低い案件による枠の押さえ」が主な問題であるのに対し、需要側では「計画変更や需要規模の下方修正による未使用容量の発生」が主な問題となります。制度側では、受電地点等の供給条件が整った状態での申込みを促す仕組みについて、検討が進められています。

図4:需要側(DC等)でも起きる滞留:先着申込み→計画変更→容量が滞留する構造(出典:筆者作成)

参考図4-公式:(参考)既存電力インフラの最大限活用に向けた検討:(出典:経済産業省・総務省「ワット・ビット連携官民懇談会取りまとめ1.0」)

4. だからワット・ビット連携:系統容量の確保を「地域選定」で実現

ワット・ビット連携は、電力インフラ(系統・電源・蓄電池)と、通信・データ基盤(DC・ネットワーク)を一体的に整備する発想です。これまでの立地判断では、土地や通信の条件が先行し、電力インフラへの接続可否は後から検討されるケースが少なくありませんでした。並行で検討を進める事業者もありましたが、それでも系統増強のリードタイムがボトルネックとなり、DC稼働時期に間に合わないリスクが残っていました。ところが、ハイパースケーラーと呼ばれる大規模クラウド事業者や、AI用途DCの規模では、電力インフラが後追いでは対応が困難です。結果として制度側は、先着優先だけでは対応しきれない系統接続の課題に対し、有望地域を選定して系統容量を確保する仕組みを計画的に確保・配分する考え方が具体化しつつあります。次回で詳述するGX戦略地域は、その実装の中核です。

図5:ワット・ビット連携の概念(電力インフラ×通信・DCを同時に設計)(出典:筆者作成)

5. 実務で何が変わるか:ステークホルダー別のチェックリスト

本連載の実務的な狙いは、制度の方向性を「To Do」と「設計」に落とし込むことです。

5-1. DC事業者(需要家)

立地の意思決定を「土地+通信+系統+脱炭素」で同時に行う(いずれか1つでも欠けると計画が止まりやすく、手戻りも増える)。フィジカル/バーチャルPPAの形態を整理し、将来的な24/7 CFE対応も視野に入れて、環境価値の移転方法を要件として設計しておく。電源の要件を見据え、蓄電池・DR・運用データを最初から設計に入れる。工期リスクを変数で管理する(系統増強の見込み、契約手続きの滞留、需要の立ち上がり時期)。

5-2. 小売電気事業者(新電力含む)

単に電力を「供給する」だけではなく、系統接続支援、PPA・証書調達、需給運用(ヘッジ、DR、蓄電池)を束ねた提案ができるかどうかが差別化の源泉になる。DCの信用・継続性を踏まえ、与信・担保・長期契約の設計が案件獲得の鍵になる。脱炭素の説明に耐える情報(環境価値の移転、将来の24/7 CFEへの移行可能性)を整理し、需要家の設計・資料化を支援する。※本項は主に小売電気事業者の視点で整理するが、PPAの組成・環境価値の移転においては発電事業者も深く関与する。

5-3. 発電・蓄電事業者

接続規律強化で入口が変わる。土地・許認可・事業確度の整理を前倒しする。信用力の高いDC事業者(ハイパースケーラー等)との長期契約は銀行評価の向上につながり得る。ただし、調整力・インバランス・環境価値の責任分界点を契約で明確化することが、ファイナンス成立の前提となる。オンサイトPPAも有効な選択肢であり、電力・環境価値・調整力をセットで提供できれば、付加価値として単価改善の余地が生まれ得る。

5-4. 国/自治体/一般送配電事業者(以下、一送)

GX戦略地域などの枠組みで計画的な容量配分を行う場合、透明性(情報公開)と公平性(他需要家への説明)を同時に満たす必要がある。費用負担(域内の送配電系統整備費、基幹系統への接続費用等)をどう設計するかが、投資判断を左右する。「空押さえ」対策は需要側にも波及する可能性があるため、申込み要件・期限・取消しルールを事前に示す。
※本節では、国(制度設計)・自治体(誘致・実装)・一送(運用)を、役割は異なるが「透明性・公平性・費用負担・申込み規律」という共通論点で整理する

図6:ステークホルダー別のTo Do(需要家/小売/発電・蓄電/国・自治体・一送)(出典:筆者作成)

まとめ

ワット・ビット連携と接続規律の議論は、AIデータセンターという新しい大口需要の急増を受けて、電力システム側がこれまでの個別論点への積み上げ対応を超え、関係者が共通の前提で動けるより体系的な制度設計へと踏み込もうとしていることを示しています。

一方で、この種の規律強化は、手続きの透明性や公平性を高める反面、現場では「何を揃えれば前に進むのか」「どのタイミングで何が確定するのか」という不確実性が残ると、意思決定や投資が滞りやすくなる側面もあります。さらに、需要側(DC等)でも同様の滞留や計画変更が起き得ることを踏まえると、制度側には、ルールの明確さ(予見可能性)と現場が回る手順(実装可能性)の両立が求められます。

次回(第2回)は、こうした課題に対して国が提示し始めている「GX戦略地域」という枠組みに焦点を当てます。自治体が関与しながら、DC集積に向けて系統容量を計画的に確保・配分する仕組みは、ワット・ビット連携を「制度として実装する」うえでの核心となり得ます。制度の狙い、容量確保のプロセス、情報公開と公平性、そして地内系統等の整備費用負担――これらを整理し、実務者が押さえるべき論点を具体的に解説していきます。

著者情報

NRTエナジーブリッジ株式会社

 代表取締役 成田 哲治氏

大手金融・商社・IT領域での法人営業を経て、2013年より電力・再生可能エネルギー領域に従事。大手新電力および大手電力会社グループで、制度・市場対応を含む事業開発/企画を経験。大手不動産グループとのJVにて、電力調達・環境価値・料金設計に加え、PPA関連の契約実務・運用対応を担当。
現在は、電力制度・市場と脱炭素調達を横断し、調査・戦略から契約・運用設計まで伴走支援。一次情報に基づく調査・分析と資料化を強みに、生成AIも活用しながら意思決定支援のスピードと再現性を高めている。
大切にしている考えは、子育てを通じて芽生えた「次世代に持続可能な社会を」。

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EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。

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