系統用蓄電池は、いつから「前提」になったのか【第1回】前提化が生まれた三つの流れ
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一般社団法人エネルギー情報センター

ここ数年、系統用蓄電池という言葉が特別なテーマとしてではなく、電力分野の議論の中で自然に登場する場面が目立つようになりました。再エネ拡大や需給調整、市場制度、投資環境など、異なるテーマを扱う会議や資料の中で、蓄電池が前提として語られること自体、もはや珍しくありません。 議論の入り口は補助金、価格差、市場、系統運用などさまざまですが、気づけば、かつて導入の是非や実証が主題だった蓄電池は、最初から存在する前提条件のように扱われ始めています。 本稿では、この前提化を形作っている要素の重なりを並べながら、背景を見つめ直すところから始めます。
1. 同時に語られる複数の文脈
蓄電池をめぐる会話を観察すると、異なる話題が同じ言葉のもとで同時に展開されている形が見られます。いずれも「系統用蓄電池」という同じ対象を指していながら、見ている角度は必ずしも一致していません。
(1) 角度によって変わる輪郭
ある場では、再エネの出力抑制対策として取り上げられ、別の場では容量市場や需給調整市場における収益機会として語られることがあります。脱炭素目標を支える社会インフラという文脈で登場することもあります。
制度の文脈では、市場設計や政策目標を構成する一要素として現れ、運用の文脈では需給調整や周波数維持といった系統運用上の選択肢として言及されます。投資の文脈になると、IRRやペイバック期間を伴う事業性資産として扱われます。同じ対象でも、どの文脈から眺めるかによって輪郭は変わります。
(2) 文脈の重なりが生む構造
社内での検討でも、複数の文脈が混在したまま議論が進んでいることは珍しくありません。事業開発部門は収益性を、技術部門は系統影響を、経営層では政策的意義が論点になりやすい。情報が不足しているわけではなく、判断軸が揃っていない状態が生まれています。
たとえば、経営層が脱炭素目標への貢献として導入を位置づける一方で、事業部門は投資回収年数を、技術部門は系統接続条件を優先事項として捉えています。同じ資料を前にしていても前提が揃っていなければ、合意が形成されたように見えて、実行段階で認識のズレが表面化することがあります。
この重なりは単なる情報量の増加とは性質が異なります。文脈の違いが判断基準の違いを生む、そうした構造として作用しています。
2. 合流した三つの流れ
蓄電池が前提として扱われるようになった背景には、少なくとも三つの流れが重なっています。これらは異なるタイミングで進みながら、ここ数年で一つの場に合流しました。
(1) 再エネ大量導入という構造変化
第一の流れは、再生可能エネルギーの大量導入です。
太陽光発電の導入量は2024年度末時点でACベース約73GWが確認されており、昼間の発電余剰と夕方以降の供給不足という時間的なギャップが顕在化しました。
九州では2018年以降出力制御が継続的に実施され、北海道でも近年は実施日数が増加しています。2023年度以降は再エネ出力制御量の増加が全国規模で確認されており(図1)、2024〜2025年度も高水準で推移しています。
発電量が需要を上回る時間帯には電力が余り、需要が伸びる夕方には供給が足りない。この時間的なズレを火力電源の柔軟運用だけで吸収するのは難しいとされる局面が広がっています。そうした中で、余剰電力と需要の時間差に関連して、蓄電池への言及が見られるようになりました。

図1 全国の再エネ出力制御量の推移(2021年度〜2025年度)
出典:資源エネルギー庁「再エネ出力制御の実施状況」(2025年12月時点)
(2) 市場制度の整備と収益機会の形成
第二の流れは、市場制度の整備です。
容量市場、需給調整市場、卸電力市場の整備により、蓄電池は複数の収益機会を組み合わせて扱われるようになりました。
需給調整市場は2021年以降段階的に開設され、蓄電池の調整力提供が制度上の対象となりました。容量市場では初回オークションで約14,137円/kWの約定価格が示され、蓄電池を含む新規電源の収益前提として参照されています。
現在では複数市場から収益を得る「収益スタッキング」という考え方が浸透しつつあります。一次・二次・三次調整力での調整力提供、卸市場での価格差活用、容量市場での供給力確保。これらを組み合わせた事業化が検討の俎上に載っています。
(3) 技術コスト低下と実績の蓄積
第三の流れは、技術コストの低下と導入実績の蓄積です。
世界的な電池需要の拡大に伴い、リチウムイオン電池価格は長期的に低下傾向をたどってきました。
系統用蓄電池システムのコスト構造についても、2022年度の約6.0万円/kWhから2024年度の約6.8万円/kWhといった推移が整理され、PCSや工事費などの内訳を含め、具体的な前提条件として共有されています(図2)。
金融機関や投資家の議論においても蓄電池が並んで語られるようになり、インフラ投資の文脈で取り上げられています。技術面と金融面の双方から検討の対象となり、事業計画の中に組み込まれる機会が拡大しています。国は2030年に10GW規模の導入を見込んでおり、電源構成の一要素として想定されています。

図2 蓄電池システムコストの推移(用途別)
出典:資源エネルギー庁 審議会資料を基に三菱総合研究所作成
3. 前提化の影で生じているもの
前提として扱われるようになったことで、逆に見えにくくなったものがあります。蓄電池を導入する目的が、制度対応なのか、収益確保なのか、将来リスクへの備えなのか。その整理が行われないまま検討が進むことも少なくありません。
(1) 手段の選択と残る問い
補助金の締切、市場ルールの変更、他社の動向。需給調整市場の入札条件見直しやFIP移行案件の増加、容量市場の落札価格の変動など、関連情報が次々と流れ込みます。補助金申請に合わせたスケジュール検討、接続容量の確認、接続検討の長期化や系統混雑の話題、アグリゲーターとの役割分担の整理。検討は前に進んでいる一方で、「なぜ導入するのか」という問いが整理されないまま、手続きや設計の議論が先行する場面も見られます。
情報が増えるほど判断が難しくなる。この感覚は、検討が進んだ現場ほど共有されています。
(2) 構造的な不透明さ
これは単なる情報不足では説明しきれません。制度の変更が投資の前提を書き換え、系統状況が運用の優先順位を変える。複数の要素が同時に影響し合う中で、全体像を捉え直すこと自体が難しくなっています。
容量市場の入札結果が想定と異なれば、収益計画だけでなく設備規模や運用戦略にも波及します。接続可能容量が更新されれば、導入時期そのものの見直しを迫られることもある。一つの変化が複数の判断軸に連鎖する構造の中で、何を優先して整理するか自体が問いになっています。
4. 判断の前に置かれる作業
議論に入る前に、文脈の整理から始める動きが見られるようになりました。制度・運用・投資という異なる視点が同時に持ち込まれる中で、社内で使われる言葉の意味すら必ずしも一致していません。
(1) 言葉の定義を揃える
社内で使われる「収益」という言葉が、市場収入を指しているのか、補助金を含めた全体収支を指しているのか、あるいは将来的な調達コスト削減効果を指しているのか。同様に「リスク」という言葉も、市場価格の変動リスクなのか、技術的な不確実性なのか、制度変更による事業環境の変化なのか。立場によって想定する内容は異なります。
こうした言葉の定義をひとつずつ確認する動きが出てきています。「導入するかどうか」という問いの前に、「何を判断しようとしているのか」を整理する。この作業が省略されると、議論は進んでいるように見えながら、異なる前提のまま並行して走り続ける状況が生じます。
(2) 主体的な整理の場面
蓄電池は、流行という言葉だけでは捉えきれない存在として前提に置かれています。その前提をどう扱うかは、各主体が自ら整理する問いとして浮かび上がっています。
今、目の前にある情報がどの文脈に属しているのかを静かに仕分ける作業が進んでいます。この状況は、一過性の関心の高まりというより、複数の流れが重なった結果として捉えるほうが実態に近いかもしれません。
まとめ
系統用蓄電池が議論の前提として扱われるようになった背景には、複数の流れの合流があります。再エネ導入の拡大、市場制度の整備、技術コストの低下。これらが重なり合い、蓄電池が自然に検討の出発点に置かれる状況が形作られました。
こうした変化は、個別の要因というより、構造的な重なりとして現れている側面があります。同時に、制度・運用・投資という異なる文脈が交差することで、判断の整理に難しさを感じる状況も少なくありません。
次回は、この前提に対する期待が立場ごとにどのように並んでいるのかを配置します。政策、系統運用、事業者、投資家。それぞれが見ている時間軸や評価軸の違いを配置しながら、議論が噛み合いにくくなる背景を整理します。
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