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【第2回】GX戦略地域(DC集積型)の流れと課題

NRTエナジーブリッジ株式会社

代表取締役 成田哲治

【第2回】GX戦略地域(DC集積型)の流れと課題の写真

第2回は、第1回で揃えた前提で、GX戦略地域が目指す官民の工程表を揃える仕組みを整理しつつ、各ステークホルダーの実務の論点まで言及して行きます。

今回の結論

GX戦略地域は、系統容量を計画的に確保・配分を設計する枠組みになりつつある。

背景

第1回で整理した通り、AI DCの拡大は「大口需要の増加」では終わらず、立地=電力システム側の意思決定(どの系統に、いつ、どれだけの需要を載せるか)へ直結する。ところが先着的な申込みの積み上げは、発電側だけでなく需要側でも滞留を生みやすく、工期と投資判断の不確実性を増幅させる。

制度の方向性

政府は「ワット・ビット連携官民懇談会」等で時間軸(短期:足元需要/中期:新たな集積拠点/長期:地方分散・高度化)を明示し、官民での場所の選定とインフラの先行整備をセットで進める方向性を示している。GX戦略地域は、その中期テーマ(新たなDC集積拠点)を制度として前へ進める枠組みと位置づけられる。

公式:ワット・ビット連携の時間軸(短期:足元需要対応/中期:新たなDC集積拠点/長期:地方分散・高度化)(出典:総務省・経済産業省「ワット・ビット連携官民懇談会 取りまとめ1.0」

実務への含意

GX戦略地域の成否は「提案の上手さ」ではなく、実現確度(工程・契約・資金)を揃えられるかにある。特に、(1)公平性(他需要家への影響=系統接続機会への影響をどう扱うか/新しい空押さえを回避)、(2)透明性(系統状況・工期の見える化)、(3)費用負担(地内系統等の負担設計)を、現場が回る手順として落とし込む必要がある。

図1:GX戦略地域は、系統容量・脱炭素・通信基盤・地域実装力を束ね、官民の工程を同期させる「産業クラスター設計」の枠組み(出典:筆者作成)

参考図1-公式:GX戦略地域(データセンター集積型)の目的=DC集積を核とした産業クラスター形成(出典:経済産業省「GX戦略地域の選定に関する公募を開始します」)

1. GX戦略地域は「立地誘導」ではなく「産業クラスター設計」

従来のDC誘致は、土地・冷却・通信・税制などが前に出がちでした。ところがAI DCの規模では、電力インフラ(系統・工期・増強可否)がよりボトルネック化しやすく、後追いでは間に合わないケースが増えます。 2025年12月23日に発表された経済産業省の「GX戦略地域の選定に関する公募を開始します」においても、GX戦略地域制度は「ワット・ビット連携(電力・通信インフラの一体整備)」を促進し、新たな産業クラスターの創設を目指す、と整理されています。

ここで重要なのは、GX戦略地域(DC集積型)が、補助金やPRの枠を超え、実務的には次の論点を束ねる点です。

  1. 系統容量:いつ・どこで・どれだけ容量を確保するか
  2. 脱炭素:脱炭素電源との紐付け/説明要件を満たすこと
  3. 通信基盤:冗長性・地中化・国外アクセス等を含む成立要件
  4. 地域の実装力:許認可、関係者調整、施工力、工期管理

言い換えると、GX戦略地域は「自治体がDCを呼ぶ制度」というより、自治体を介して「官民の工程表を揃える制度」です。

図2:有望地域→GX戦略地域の流れと制度の狙い(先着依存を緩和し望ましい場所へ)(出典:筆者作成)

2.「有望地域→GX戦略地域」と容量確保の扱いの方向性

ワット・ビット連携の議論では、2030年代前半を目指す「新たなDC集積拠点」の整備が中核テーマの一つとされ、選定プロセスを含む検討が進んでいます。総務省・経済産業省のWG資料(2025年11月)では、提案募集結果を踏まえ、まず自治体提出内容を審査し、評価の高い自治体について一般送配電事業者が概算検討を加え、総合審査で有望地域を選定していく、といった進め方が示されています。
また経済産業省は、GX戦略地域制度の公募を開始した旨を2025年12月に公表しており、制度の実装フェーズへ入ったことが読み取れます。

ここで重要なのは、「選定プロセスの途中で他の大規模需要が先着で容量を押さえる」事態をどう抑えるかです。制度趣旨は先回りにありますが、実務は「要件」「名義」「期限」「費用負担」「取消し」を設計できなければ、逆に新しい空押さえになり得ます。

図3:GX戦略地域の実装で詰まる3点:公平性・透明性・費用負担(出典:筆者作成)

参考図3-公式:局地的な大規模需要(DC等)に対する系統対応の論点(出典:資源エネルギー庁「次世代電力系統WG」資料「局地的な大規模需要に対する規律確保について」)

3. 実務で詰まる3点:公平性・透明性・費用負担

GX戦略地域は正しい方向性でも、実装で詰まると逆効果になります。論点は大きく3つです。

3-1. 公平性(他需要家への影響(接続機会)をどう扱うか)

  1. 評価軸:なぜその地域が優先されるのか(政策目的に沿う軸が必要)
  2. 期限と条件:自治体経由の先行協議が「席取り」にならないよう、ルールを明確化(「条件」「期限」「取消し」を含む)
  3. 需要計画の縮小時対応:容量の減量や契約変更、返却ルールを明確化(曖昧な運用は自治体・DC事業者・周辺需要家間で摩擦や接続機会の課題を招きやすい)

3-2. 透明性(系統状況の情報公開)

WG資料でも、電力インフラ要件の整理や、概算検討の進め方が示されています。実務では「空容量」「増強要否」「概算工期」「ボトルネック」の見える化が、立地の無駄と手戻りを減らします。

3-3. 費用負担(地内系統整備を誰が払うか)

大規模需要対応で、ローカル(地内)系統の整備費用負担は投資判断を左右します。 需要家・自治体・広く託送料で負担する利用者の切り分けが曖昧だと、案件は止まりやすい(=工期リスク)一方で、負担を需要家に寄せ過ぎると、立地誘導が働かず、政策目的との整合が崩れ得ます。結局のところ、ここは「公平性」と一体で設計し、説明可能性(ルールの明確さ)を確保する必要があります。

図4:連携の役割分担(5者モデル)(出典:筆者作成)

4. 実現確度を作る:ステークホルダー別のチェックリスト

GX戦略地域の成否は、「提案書の出来栄え」ではなく、実現確度――すなわち工程(いつ何が決まるか)・契約(誰が何を約束するか)・資金(誰がどこまで負担できるか)を、関係者の間で整合させて前に進められるかにあります。以下では、ステークホルダーごとに、最初に押さえるべき実務上の要点を整理します。

4-1. DC事業者(需要家)

DC事業者にとって最初の要点は、立地の要件定義を「順番に」ではなく同時並行で行うことです。具体的には、土地・通信・系統・脱炭素を一体の要件として早期に固め、どれか一つが欠けてプロジェクトが止まる事態を避ける必要があります。加えて、接続協議においては「いつ」「何が」「どの条件で」確定するのかを工程表に落とし込み、系統増強や手続き滞留による工期リスクを変数として管理します。さらに、脱炭素の説明は後追いにせず、証書・PPAの組み合わせや将来の時間粒度(24/7 CFE等)を見据えて、選定基準に耐える形で道筋を明文化しておくことが重要です。

4-2. 小売電気事業者(新電力含む)

小売電気事業者は、単に電力を供給する主体ではなく、プロジェクト全体を前に進める実務のハブとしての役割が大きくなります。求められるのは「売電提案」ではなく、接続・調達・証憑(環境価値)・運用を一体として設計し、関係者間の調整を含めて推進するプロジェクト支援型の提案です。特に、DC案件では与信や継続性の評価がボトルネックになりやすいため、与信・担保・長期契約条件を後出しにせず早期に提示し、途中で止めない設計にしておく必要があります。また、自治体・需要家・一般送配電・電源側の論点は言語が違うため、小売がそれらを共通工程表に翻訳して統合する役割を取りに行くことが、案件形成上の競争力になります。

4-3. 発電・蓄電事業者

発電・蓄電事業者に求められるのは、まず「供給する」という意思表示ではなく、供給の確度を設計として示すことです。量(kW/kWh)だけでなく、期間、増設余地、運転制約まで含めて、プロジェクトが止まらない前提を組み立てます。次に、環境価値については、証書・PPA等のスキーム選択と、トラッキングや説明要件を満たす証憑の整備を、契約の前提として先に固めます。さらに、AI DCは24時間稼働で需給運用への影響も大きいため、蓄電池やDR等を活用してピーク時・逼迫時の対応力を確保し、系統制約の緩和に資する柔軟性(調整力)を提供できる形にしておくことが重要です。

4-4. 一般送配電事業者

一般送配電事業者の実務上の焦点は、接続回答の「結果」ではなく、その回答の前提条件を早期に明確化することです。空容量、制約条件、想定需要パターンをセットで提示し、後から前提が変わってプロジェクトが止まるリスクを抑えます。また、増強計画と工期の見える化は投資判断を左右するため、増強要否だけでなく、工事範囲(地内系統を含む場合はその範囲)や標準工期を工程表に反映できる形で提示することが求められます。加えて、混雑時のルールや運用上の制約、需要家側に求められる設備要件(蓄電池やDR等)を早期に整理し、共通工程表へ接続させることが、現場の手戻りを減らします。

4-5. 国/自治体

国と自治体は、制度の枠組みを作る側と、現場実装を推進する側として役割が異なりますが、共通して重要なのは、計画の「絵」ではなく確度を揃えることです。まず、自治体はアンカーテナントとなる主要DC案件について、規模・時期・継続性を把握し、下振れ可能性も含めて現実的な前提を持つ必要があります。その上で、容量確保を先行させる場合は、期限・条件・取消し・返却(減量)といった規律を事前に設計し、他需要家への説明責任に備えます。さらに、系統・通信・許認可・造成・施工といった要素を縦割りで持たず、関係者が同じ絵で動けるように、工程表を1枚に統合(共通工程表化)することが、制度の実装可能性を大きく左右します。

まとめ

第2回では、GX戦略地域(DC集積型)を「ワット・ビット連携を実装する枠組み」として整理しました。制度の方向性は、地域の選定と、電力・通信インフラの先行的・計画的な整備を通じて、真に必要な案件が前に進むようにする点にあります。
一方で、その成否は「公平性・透明性・費用負担」を、現場が回る手順として落とし込めるかにかかっています。ルールの明確さ(予見可能性)と、実装可能性(工程・契約・資金)の両立が求められます。

次回の第3回(最終回)は、こうして場所と容量が見え始めた前提で、DCが実際にやらねばならない 「脱炭素調達(PPA・環境価値)と、24時間稼働需要を止めない電源ポートフォリオ」を、実務の設計フレームとして具体化します。

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執筆者情報

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NRTエナジーブリッジ株式会社

代表取締役 成田哲治

大手金融・商社・IT領域での法人営業を経て、2013年より電力・再生可能エネルギー領域に従事。大手新電力および大手電力会社グループで、制度・市場対応を含む事業開発/企画を経験。大手不動産グループとのJVにて、電力調達・環境価値・料金設計に加え、PPA関連の契約実務・運用対応を担当。 現在は、電力制度・市場と脱炭素調達を横断し、調査・戦略から契約・運用設計まで伴走支援。一次情報に基づく調査・分析と資料化を強みに、生成AIも活用しながら意思決定支援のスピードと再現性を高めている。 大切にしている考えは、子育てを通じて芽生えた「次世代に持続可能な社会を」。

企業・団体名 NRTエナジーブリッジ株式会社
所在地 東京都中央区日本橋兜町
会社HP https://www.neb-energy.co.jp/

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