2025年開始の東京都による第四期間の排出権取引、非化石証書の利用可否や電力会社の排出係数反映など各種内容が変更
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2025年03月17日
一般社団法人エネルギー情報センター

東京都では日本政府に先駆けて2010年から排出権取引を開始しており、2025年からは節目の第四期間となり、これまでの運用経験等から様々な変更が行われています。電力関連では、非化石証書の利用が可能となるほか、電力会社の排出係数が勘案される内容となっており、本記事では変更の大枠を見ていきます。
東京都は2019年5月、Urban20東京メイヤーズ・サミットで、2050年にCO2排出実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」を実現することを宣言しています。また2050年ゼロエミッション東京の実現に向けて、2030年までに温室効果ガス排出量を50%削減(2000年比)する「カーボンハーフ」を掲げています(図1)。
その中の対策の一つとして、キャップ&トレード制度があります。2010年から始まったこの制度は、大規模事業所(燃料、熱、電気の使用量が、原油換算で年間1,500kL以上の事業所)にCO2排出量の削減義務を課すものであり、オフィスビル等をも対象とする世界初の都市型キャップ・アンド・トレード制度です。

図1 2050東京戦略について 出典:東京都
また本制度は日本においては、東京都から始まった仕組みではありますが、今後は日本全体に広まっていく可能性があります。概要についてはこちらの記事に整理しておりますが、2027年度から本格運用される予定の「排出量取引」制度への参加を義務づけることなどを盛り込んだ関連法の改正案を、2025年25日の閣議で決定しました。「GX=グリーントランスフォーメーション推進法」の改正となり、二酸化炭素の排出量が年間10万トン以上の企業に対して、2026年度に企業ごとの排出枠など制度の詳細を固め、徐々に広がっていく見込みです。
また本記事では、排出権取引について日本においては最も運用実績があり、仕組みとして洗練が進められている東京都のキャップ&トレートにつき、2025年度から第4計画期間が始まり、抜本的にルールが変更となります。本記事ですが、第3計画期間から第4計画期間への変更点や重要な部分を整理していきます。
第四期間では削減義務率が27%から50%に変更
現状では世界共通の目標として、1.5℃目標達成に向けて、2030年までに世界全体の温室効果ガス排出量を「半減以下」にすることに向け各種政策等が進められています。一方で東京都においては、2030年までに温室効果ガス排出量を2000年比50%削減、エネルギー消費量を2000年比50%削減、再エネによる電力利用割合を50%程度とすることを掲げています。
東京都においては、2010年から大幅削減に向けた転換始動期として、キャップ&トレード制度が始まりました。その後、5年毎に目標期間を定め、それらの期間を節目として各種制度改革が行われてきました。2025年は第四計画期間が開始した年となり、第三計画期間とは再エネ調達手法の多様化に対応する等の変更が行われます。
また削減義務率については、27%又は25%から、第四期間においては2030年を目標に50%又は48%に設定されます(図2)。これによって、大規模事業所においては2030年を目標として更なる省エネや再エネ等の導入が必要となり、義務達成に向けて環境対策が進められていく事が期待されます。

図2 第3計画期間と第4計画期間の差異について 出典:東京都
またキャップ&トレードの対象事業者に変更があります。第三期間では共有部を保有しており「住居の用に供する専有部を所有する者」であれば対象でしたが、第四期間では対象外となります(図3)。ただし、東京都の排出権取引では後述しますが各種評価制度などもあるので、それらのメリットを得るためには、「所有事業者等届出書」を東京都に提出することによって、当該事業所の義務対象者となる選択も可能です。

図3 義務対象者について 出典:東京都
電力会社の排出係数が反映されるように変更
第三計画期間までは、どちらかというと省エネの取り組みが評価されており、低炭素電力事業者という一部の例外を除き、いずれの電力会社から電力を購入した場合でも排出係数が固定(0.489 t-CO2/千kWh)されていました。つまり、温室効果ガスの排出量が多い電力会社から電力を購入した場合も、排出量が少ない電力会社から購入した場合であっても、いずれも係数は固定査定ました。
ただ実際の電気の排出係数は、異なるエネルギーミックス(石炭、天然ガス、原子力、再生可能エネルギーなどの割合)を使用しているため、小売電気事業者別に排出係数が異なります。そのため、第四期間からは、排出係数の低い電力メニューの利用によって、削減義務達成に利用することが可能となります(図4)。
なお、残差メニューの排出係数は都制度では使用せず、都が公表する排出係数を使用(東京都環境局HPに掲載)することとなります。一方で都市ガスの排出係数については、国が公表する排出係数を使用する形になります。
また、電気の使用について第三計画期間では、昼夜の区分けが存在しましたが、第四計画期間からは「一般送配電事業者の電線路を介して供給された電気」のみとシンプルになります。

図4 第四計画期間の電気の排出係数イメージ 出典:東京都
再エネ設備関連の変更について
再エネ関連の大きな変更点として、まずは第三期間では太陽光発電などを自家消費した場合、その削減効果を1.5倍とする優遇措置が取られていました。ただし第四期間からは、実態に即した正確な排出量を算定する観点から、1.5倍換算することが廃止されます。
また、再エネ電力の内バイオマス燃料については、他の再生可能エネルギーと違い、発電等には燃料が必要となることから特殊なルールが適用されます。大枠としては、持続可能性(ライフサイクルGHGの最小化や資源の安定的な確保や調達)が担保されていることが確認された燃料で発電した電気又は熱以外は、環境価値がない電気又は熱として適用されることとなります。これらの証明については、「ライフサイクルGHGの証明」と「持続可能性の証明」の2種類の資料が必要となってきます。
「ライフサイクルGHGの証明」については、バイオマスのライフサイクルGHG を算定して、国が定めている基準値を下回ることを証明する形となります。また「持続可能性の証明」については、木質バイオマス及び農産物の収穫に伴って生じるバイオマスの場合は、ライフサイクルGHGの証明の他、持続可能性を担保することができると認められる第三者認証などの提出が必要となります。
非化石証書が利用可能に
温室効果ガスの排出量削減においては、証書を用いた取引によって流動性が高まることとなり、日本においては主に非化石証書、Jクレジット、グリーン電力証書が幅広く用いられています。ただ、これまでの東京都の排出権取引においては、グリーン電力証書のみが利用可能となっていました。
一方で、ビジネス市場での売買においてはボリュームが大きいほど適正な取引となり易い傾向もあり、現状での温室効果ガス削減の取引については、FIT制度の環境価値のボリュームおよび再エネ賦課金の国民負担低減等の観点から、「非化石証書」が主流となりつつあります。
そのため、本制度の対象事業者の排出量を上限に、非化石証書(FIT非化石証書及び非FIT非化石証書(再エネ指定))が利用可能となりました。証書のもつCO2削減効果を年度排出量から直接控除できることとなり、証書のもつCO2削減効果は、認証電力・熱量に「都内平均排出係数」を乗じて算定する形となります。また、テナント等事業者が当該事業所のテナント専有部に対して使用した証書についても、当該事業所の年度排出量からの控除に使用可能です。
なお、バイオマス由来の証書については、持続可能性が担保されていることが確認できる燃料由来の電気・熱が対象となります。
また義務達成の達成については、義務よりも大きくGHGを削減できている超過削減している事業者から調達する手段もあります。その点も変更があり、第三期間では基準排出量の50%上限のうち、削減義務量を超過した量をクレジットとして発行可能でした。しかし第四期間からは、基準排出量の65%を上限として超過削減量をクレジットとして発行する形となります(図5)。

図5 超過削減量創出方法の変更 出典:東京都
電化率20%未満の事業所等については削減義務率の緩和措置あり
第四計画期間については、前述の通りで削減義務率が原則50%として設定されています。ただし、人の生命又は身体の安全確保に特に不可欠な医療施設については、削減義務率が2%減少され48%となります。
また第四計画期間に限りますが、電気の原油換算エネルギー使用量の算定期間の平均値が、事業所全体の20%未満である事業所については、削減義務率が3%減少されます(図6)。ただその場合、設備更新計画及び設備の電化が困難な理由を東京都に提出する必要があります。

図6 削減義務率について 出典:東京都
トップレベル事業所認定
東京都では、特に優良な環境負荷低減を実施している事業者について、トップレベル事業所として認定する制度を設けています。第四期間におけるトップレベル事業所認定のメリットとしては下記が挙げられます。
- 東京都のグリーン調達における推奨事項への追加
都が「東京都グリーン購入推進方針」に基づき物品等を調達する際の目安となる「東京都グリーン購入ガイド」において、借上契約の対象となる建築物がトップレベル認定事業所であることが推奨事項に位置付けられる - 金融機関等からの認知・評価の向上
CDPの質問書にてトップレベル事業所認定制度に係る事業者の活動も回答可能
GRESBリアルエステイト評価及びDBJ Green Building認証において、トップレベル事業所認定が有効な認証として認められる - 東京都による広報(令和6年度から拡充)
東京都ウェブサイト上での情報公開内容の充実
東京都デジタルツイン実現プロジェクトにおける事業所の紹介
メディアと連携した広報等 - 認定証・楯、認定ロゴを使用したPR活動
認定事業所のみが使用できる「トップレベル事業所認定ロゴマーク」を企業のパンフレット、HP、広報誌、名刺等で使用可能
また第三期間と異なり、省エネ対策に加え、再エネ利用も含めたゼロエミッション化への取組等が評価されます。これらによって、「トップレベル事業所Diamond」という認定区分が新設され、ゼロエミッション化に向けた省エネ・再エネに加え、更に進んだ環境配慮等を推進している場合に適用されます(図7)。

図7 トップレベル事業所認定の仕組みについて 出展:東京都
テナント等に関する事業者への評価
第四期間についても、テナントに関しては引き続きS~Cの6段階で取組状況が評価される形となっています。また、総合評価が「A」以上となった特定テナント事業所については、優良事業者として東京都が公表することとなっています。ただ変更点として、総合評価が高い事業所以外に、点検表の評価点が高い事業所も公表される形になります(図8)。

図8 テナントの評価区分について 出典:東京都
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執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センター
上智大学地球環境学研究科にて再エネ・電力について専攻、卒業後はRAUL株式会社に入社。エネルギーに係るITを中心としたコンサルティング業務に従事する。その後、エネルギー情報センター/主任研究員を兼任。情報発信のほか、エネルギー会社への事業サポート、また法人向けを中心としたエネルギー調達コスト削減・脱炭素化(RE100・CDP等)の支援業務を行う。メディア関連では、低圧向け「電気プラン乗換.com」の立ち上げ・運営のほか、新電力ネットのコンテンツ管理を兼務。
企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
---|---|
所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
電話番号 | 03-6411-0859 |
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サービス・メディア等 | https://price-energy.com/ |
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