電力小売全面自由化から10年、数字が語る制度と市場の現実【第1回】数字の区切りに惑わされず、いまの制度と市場を見直す
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一般社団法人エネルギー情報センター

「自由化から10年」という言葉が、各所で頻繁に取り上げられるようになりました。 しかし、制度の導入や市場設計の見直しが今も続いており、電力を取り巻く環境は「完成」に近づくどころか、なお変化の途上にあります。 本稿では、数字がもたらす完了感と、制度・市場の実態との間にあるずれを整理し、“節目”という言葉の意味をあらためて考えます。
1. 数字がもたらす「完了意識」と現実とのずれ
「10年」という区切りは、制度や市場が一定の成熟段階に達したかのような印象を与えやすいものです。しかし、登録事業者数の推移や制度の変遷を具体的に見ていくと、単純な完了感では説明できない構造が浮かび上がります。
ここでは、制度更新の節目と市場構造の変化という二つの視点から、「数字」が生み出す完了意識と現実のずれを整理していきます。
(1)制度更新が示す進行形の自由化
電力小売全面自由化は2016年4月1日に施行され、家庭や商店を含むすべての需要家が供給会社を選べるようになりました。これにより、地域独占的な供給構造は制度として解消されました。
再生可能エネルギー分野では、それに先立つ2012年度にFIT(固定価格買取制度)が導入され、一定期間・一定価格での買取を通じて再エネ導入を急速に拡大させました。
しかし、FITによる導入拡大は市場との乖離や国民負担の増加を招いたため、2022年4月からFIP(Feed-in Premium)制度が導入され、再エネの売電を市場価格に連動させる仕組みに転換しました。
FIPは市場での取引価格に応じてプレミアムを上乗せする制度であり、発電事業者・小売事業者双方の収益構造に影響を与えています。
さらに、2020年度から本格運用された容量市場は、将来の供給力を確保するための新たな制度として設計されました。発電事業者が将来の供給義務を入札により販売し、小売電気事業者が安定供給確保の対価を支払う構造です。これにより、発電投資へのインセンティブを維持しつつ、長期的な供給安定を支える市場メカニズムが整備されました。
こうした制度の変遷は、自由化が単なる「過去の施策」ではなく、政策・市場・技術の変化に応じて常に更新されるプロセスであることを示しています。
(2)市場の流動性と参入・撤退の具体例
制度面に加えて、市場構造も依然として動的です。
資源エネルギー庁の公表資料(図1)によれば、小売電気事業者の登録数は、2016年4月末時点で291者であったのに対し、その後増加を続け、2025年1月末時点では747者となっています。

図1 小売電気事業者の登録数の推移
出典:資源エネルギー庁「電力小売全面自由化の進捗状況(資料3)」(2025年2月28日公表)
この推移は、自由化当初に登録数が急増した後、2022年以降は増加ペースが鈍化し、事業者の撤退や統合を伴う再編局面に入っていることを示しています。登録件数の増減は、単純な「成熟」を意味するものではなく、事業モデルの多様化と退出が同時に進行している実態を反映しています。
実際、東京商工リサーチ(TSR)および帝国データバンク(TDB)の分析によれば、2024年3月時点で新電力の撤退・倒産・廃業は累計119社に達し、自由化以降で最多を更新しました。(出典:帝国データバンク「新電力業界動向調査」2024年3月)
背景には、燃料価格高騰や調達市場の価格急変による収益圧迫があり、特に2022年のJEPXスポット価格高騰期には、多くの小売事業者が調達コストを吸収できず撤退に追い込まれました。
他方で、地方ガス系事業者である静岡ガス&パワーのように、地域性を活かした小売電力事業者が一定の存在感を示しています。また、みんな電力のように再生可能エネルギー比率や環境価値を訴求する事業者も新電力市場に定着しています。
こうした多様なプレイヤーの存在は、市場が単純な縮小ではなく、質的な再編局面にあることを示しています。つまり、数の増減だけでは市場の成熟度は測れず、事業者層の質的再編が進行しているのが実態です。
2. 自由化は「静止画」ではなく「連続映像」として捉える
自由化の10年は、政策・市場・技術が相互に影響を及ぼし合いながら、常に再構築されてきた期間でした。
制度は市場の動きに応じて改定され、市場は制度変更を前提に行動を調整する。こうした往復運動の中で、自由化は単線的な発展ではなく「制度と市場が同時進行で再設計し合う」動的な構造として存在しています。
新制度の導入や価格シグナルの変化は、そのたびに企業行動や投資判断を更新させ、結果として次の制度修正を促す。この循環が続く限り、自由化は「完了」ではなく「継続」として捉えられるプロセスであり、制度と市場は常に影響を与え合う関係にあります。
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