日本発!次世代ペロブスカイト太陽電池:フレキシブル発電が都市を変える 実装課題と産業戦略【第2回】 — 耐久性・封止・量産(ロールtoロール、封止樹脂の要諦)/コスト学習曲線と標準化(NEDO等)/素材・装置のサプライチェーン再構築

2025年10月29日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

日本発!次世代ペロブスカイト太陽電池:フレキシブル発電が都市を変える 実装課題と産業戦略【第2回】 — 耐久性・封止・量産(ロールtoロール、封止樹脂の要諦)/コスト学習曲線と標準化(NEDO等)/素材・装置のサプライチェーン再構築の写真

前編では、ペロブスカイト太陽電池の特性と政策的背景、そして中国・欧州を中心とした世界動向を整理しました。 中編となる今回は、社会実装の要となる耐久性・封止・量産プロセスを中心に、産業戦略の現在地を掘り下げます。ペロブスカイト太陽電池が“都市インフラとしての電源”へ進化するために、どのような技術と制度基盤が求められているのかを整理します。特に日本が得意とする材料科学と製造装置技術の融合が、世界的な量産競争の中でどのように差別化を生み出しているのかを探ります。

1. 実装課題の核心:耐久性と封止技術の確立

ペロブスカイト太陽電池は、軽くて曲げられるという特性を持つ一方で、湿気や酸素に弱いという課題があります。特に日本のように高温多湿な環境では、封止性能と耐久性の確保が実用化の鍵となります。

NEDOの「ペロブスカイト太陽電池開発プロジェクト(2023〜2026年度)」では、JIS等で用いられる85℃/85%RH・1000時間級の加速試験や光照射劣化・封止界面評価を念頭に、実用条件に耐える封止系の確立を進めています。封止樹脂のガス透過率低減や光・湿度・温度ストレス下での安定性評価など、業界標準に沿った性能向上が目標とされています。

近年とくに注目されているのが、フッ素系バリアフィルムと有機−無機ハイブリッド封止材の組み合わせです。積水化学工業やAGC(旧旭硝子)などが、ガス遮断性と透明性を両立した多層構造フィルムを開発しており、建材一体型BIPV向けにも応用が進んでいます。これにより、外壁・窓・車体といった多用途化に耐える封止系の確立が現実味を帯びてきました。

さらに、積水化学工業は2025年4月、沖縄県宮古島市でフィルム型ペロブスカイト太陽電池の耐候性実証を開始しました。高温多湿・塩害環境という厳しい条件下で、長期の封止安定性を検証する国内初の大規模実証として注目されています。

これらの取り組みは、封止信頼性と量産適性を同時に確立するための実証フェーズとして、今後のペロブスカイト太陽電池の社会実装に向けた重要なステップといえます。

画像1:設置完了したフィルム型ペロブスカイト太陽電池(宮古島)
出典:積水化学工業「フィルム型ペロブスカイト太陽電池の小規模実証研究開始について」(2025年4月16日)

2. 量産技術の進化:ロール・トゥ・ロール(R2R)の要諦

量産の中心となるのが、ロール・トゥ・ロール(R2R)製膜技術です。これはフィルム状の素材に連続してペロブスカイト層を形成し、「塗布 → 乾燥 → 封止 → 巻き取り」までを一貫ラインで行う方式です。
大量生産と安定品質を両立できることから、実装段階を支える中核プロセスとして注目を集めています。

東芝・パナソニック・カネカ・リコー・積水化学など、国内主要企業がそれぞれ独自プロセスを開発しており、インクジェット塗布やスロットダイ方式による精密な膜厚制御のほか、封止材との同時ラミネート技術も進化しています。これにより、工程短縮やコスト低減の実証が相次いで報告されています。

さらに、小森コーポレーション(Komori)も印刷技術を応用した薄膜コーティング装置の開発を進めており、ロールコーティングやスリットダイ塗布などの技術を活用して、ペロブスカイト太陽電池の量産化を見据えた試作生産ラインを拡充しています(2025年5月ニュースリリースより)。
​​印刷・電子・化学といった異業種連携が進むことで、R2R量産技術は新たな製造産業領域として形成されつつあります。


画像2:小森コーポレーション(Komori)のペロブスカイト薄膜形成の高精度コーティングとラミネート一体化を実現する装置
出典:小森コーポレーション「ニュースリリース」(2025年5月8日)

現在、R2R(ロール・トゥ・ロール)量産設備の整備が段階的に進められており、国内では実用化を見据えた投資拡大が続いています。
NEDOのグリーンイノベーション基金「次世代型太陽電池の開発」(総額約498億円規模)とも連動し、2030年度までに200〜300MW規模の量産化構想が各社で進行中です。
こうした動きが、フィルム太陽電池を『都市に貼る電源』として社会に浸透させるための基盤となっています。

3. コスト学習曲線と標準化への動き

量産化の進展により、ペロブスカイト太陽電池も既存のシリコン系と同様に、学習曲線(Learning Curve)に沿ってコストが低減していきます。

NEDOの「太陽光発電開発戦略2025」では、2025年に20円/kWh、2030年に14円/kWh、2040年には10〜14円/kWhのシステム価格目標を設定しており、R2R(ロール・トゥ・ロール)技術による高スループット化が、この達成を後押ししています。

一方で、量産製品の信頼性を確保するためには、国際標準化(IEC/JIS)対応が欠かせません。
2024年以降、日本主導でIEC TC82など国際標準化活動が進行中であり、封止性能の評価手法や環境ストレス試験(光・湿度・熱サイクル)の共通基準策定が進められています。

IEC TC82を中心に耐久・封止評価法の国際標準化が進行しており、国内関係機関(JEMA・JET等)との連携のもとで試験法の整備が進められています。これにより国内企業がグローバル市場で品質認証を取得しやすくなる見通しです。

4. 素材・装置サプライチェーンの再構築

ペロブスカイト太陽電池の社会実装を支えるもう一つの柱が、素材と装置の“つくる力”の再構築です。
シリコン型とは異なり、導電層や封止材、製膜装置など、これまでにない新領域が産業競争の舞台になっています。

封止材では、積水化学工業など国内大手が高透過・耐湿性を両立する多層バリアフィルムを開発しており、AGCや三菱ケミカルなども関連技術を展開しています。湿気や紫外線に強く、外壁や車載用途などにも応用できる樹脂構造の最適化が進んでいます。

導電層や電極材料の分野では、JX金属やレゾナック(旧・昭和電工マテリアルズ)が低抵抗・高透明の導電膜(SnO₂、ITO、Agナノインクなど)を展開。
一方、装置面ではSCREENやオムロンなどの企業が持つコータ・ドライヤ、検査・制御技術の転用が進み、製膜・ラミネート工程の自動化や品質モニタリング体制の整備を開発し、生産効率と品質の両立を図っています。

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