政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第4回】制度設計・安全規制・地域産業化 社会実装に向けた最新動向
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第1回では核融合の基本、 第2回では国内研究基盤、 第3回では民間企業による産業化の動きを整理してきました。 こうした技術・ビジネス面の進展を踏まえ、2025年後半には「社会実装」に向けた制度づくりや安全規制の検討が政府内や国際機関で動き始めています。国際基準への日本の参画や、地域での研究・産業活動の広がりなど、核融合を社会に組み込むための枠組み形成が進みつつあります。 本稿では、制度・安全・産業の三つの観点から、この転換点の現在地を整理します。
1.制度とガバナンスの最新状況 研究段階から実装段階へ
核融合を将来の電源として位置づけるには、技術開発だけでなく、制度面・産業面の下支えが欠かせません。2025年は、従来の「研究支援中心」から、社会実装を視野に入れた政策形成が一段と進んだ年でした。官民連携の枠組みが整備され、実証炉の検討段階に向けた議論も徐々に広がりつつあります。
(1).政策と制度基盤の刷新 ― 実装段階へ踏み出した2025年後半の転換点
9月には、文科省・経産省・規制委員会・産業界が関わる「実装に向けた合同検討枠組み」が設けられました。立地要件、安全制度、地域連携を横断的に扱う場が位置づけられ、社会実装に向けた論点が政策レベルで正式に取り扱われるようになった点が特徴です。
続く10月には、産業界主導のJ-Fusionが発電実証プログラムの制度化に向けた提案を政府側に示しました。政策の方向性を示す段階から、制度の具体的な運用設計へと踏み込む動きが強まり、官民が制度づくりを協働で進める体制が整い始めています。
そして11月には、内閣府が社会実装を対象とした外部調査を新たに委託しました。立地選定の手順案、技術移転の仕組み、事業化モデルの整理など、実証炉計画に直結するテーマが政策課題として取り上げられ、研究開発中心だった支援構造から、制度形成を実務レベルへ落とし込む段階へ移行したことが明確になりました。
(2)国際競争と産業化ドライバーの加速 ― 商用化レースが本格化した2025年後半
2024年夏から2025年夏にかけて、世界の核融合企業への投資額は26.4億ドル、累計97.7億ドルに達し、研究段階から実証炉・商用炉の開発へ軸足が移りつつあることが、各種調査と報道で示されています。米国や英国を中心に企業への大型資金調達が相次ぎ、核融合が産業として評価され始めていることがうかがえます。
海外では、米国のパイロット炉計画、英国STEPの立地選定の進展、EUにおける安全議論など、商用化を視野に入れた政策議論が広がっています。民間企業の炉設計競争も活発で、国際的な商用化レースは一段と強まっています。
こうした海外の動きは、日本における制度検討や産業化の議論を後押しする外部環境として作用しています。
2.安全規制と標準化 「核融合専用制度」の確立へ
商用炉の実現に向けて最も重要となるのが、「核融合専用の安全制度」をどのように整備するかという点です。既存の原子力法体系では対応しきれない領域があり、トリチウム管理や放射化材への対応など、新たな枠組みの検討が避けられません。2025年後半には、日本が国際的な安全議論の場でもプレゼンスを高めるなど、安全制度整備に向けた議論が一段と進展しています。
(1)安全制度の本格設計が始動 ― 運転・保守まで踏み込む制度へ
2025年春以降、政府内では社会実装を視野に入れた制度の在り方について、省庁横断で検討を深める動きがみられました。研究炉、原型炉、商用炉といった段階ごとに求められる安全要件を整理する議論が進み、トリチウムの封じ込めや放射化材の管理、遠隔保守といった実証炉以降で不可欠となる論点が、制度検討の対象として位置づけられつつあります。
2025年11月時点では、政府内で制度設計に関する取りまとめ作業が継続しており、2026年に向けて具体化を目指す方向性が示されています。企業側にとっても、安全制度の検討状況が見える形になり始めており、実証炉の建設や立地を見据えた準備段階が着実に進みつつあります。
(2)国際標準化と品質保証が加速 ― 日本が基準形成の前面へ
国内で制度検討が進む一方、国際的な安全基準づくりにおいても日本の関与が強まっています。IAEA や IEC では、核融合に関わる安全要件や評価手法を議論する枠組みが継続的に開催されており、日本は QST や JAEA を通じて議論に参画しています。トリチウム管理、中性子照射に伴う材料評価、遠隔保守など、商用炉に密接に関わるテーマでは、日本が長年蓄積してきた研究成果が国際議論の基盤として活用される場面も増えています。
産業界では、J-Fusion を中心に、核融合設備の品質保証に向けたガイドライン案の検討が進んでおり、高温超伝導コイルや真空容器、冷却系といった主要機器を対象に、製造工程や検査方法の整理が進展しています。品質保証は将来のサプライチェーン形成や実証炉のコスト構造に影響するため、産業基盤整備に向けた重要な領域として位置付けられています。
3.系統・市場制度との整合 電力システムとの接続を見据えて
核融合発電を実際の電力市場で運用可能な電源として扱うには、出力特性を踏まえた系統連携ルールや市場制度の検討が不可欠です。2025年は、こうした議論が「研究段階」にとどまらず、「将来の市場参加を念頭に置いた検討」へと進んだことが注目されました。
(1)系統運用への適合 ― 新電源としての安定性と調整力の検討
2025年には、日本が核融合を将来の電源として系統に接続する前提で議論する機会が増えました。
OCCTO(電力広域的運営推進機関)では、次期系統計画に向けた検討の中で、核融合を含む新電源の出力特性を評価する必要性が指摘されており、2026年度に向けて検討項目に取り込まれる可能性が示されています。
実証炉の運転では、材料交換や定期保守による出力停止が避けられず、こうした特性を系統側がどう扱うかが新たな論点になるとみられています。これにあわせて、蓄電池や水素発電との組み合わせによる需給調整の適合性についても議論が始まりつつあり、核融合をどのように電源ポートフォリオに組み込むかが専門家の間で関心を集めています。
核融合が実運用の前提で語られる場面が増えた点は、電力システムの設計そのものを見直す必要性が認識され始めたことを示しており、2025年の重要な変化といえます。
(2)電力市場への参加 ― PPA・長期契約・金融スキームの形成
系統側の議論と並行して、2025年後半には「核融合電力を市場商品として扱う」動きが海外で顕在化しました。
米国の Commonwealth Fusion Systems(CFS)は、2024年末〜2025年にかけて大型資金調達を完了したと公表し、複数の企業と将来の融合電力供給に関する協議を進めていると報じられています(Reuters等の海外報道に基づく)。
このように、電力供給前の段階から PPA(電力購入契約)の枠組み検討が進むのは核融合分野では新しい動きであり、商用電源としての扱いが国際市場で意識され始めたことを示しています。
日本でも同様に、経済産業省が2026年度に向けて「次世代電源の長期供給契約スキーム」に関する検討を進めており、官民出資や税制措置を含む金融支援の可能性が議論されています。これは、核融合を含む新電源へ民間投資を促す仕組みとして、容量市場等とは異なるアプローチを模索するものです。
研究段階ではほとんど語られることのなかった「電力事業としての経済性」が政策議論に正式に組み込まれたことで、核融合は単なる発電技術にとどまらず、市場制度や電力システムの設計に関わる存在として位置づけられつつあります。
2025年は、核融合が電力市場に参加する将来像が、初めて具体的なイメージとして共有された転換点となりました。
4.地域産業化とサプライチェーン 日本型クラスターの形成
核融合は革新的な電源であるだけでなく、地域に製造・研究・保守といった新たな産業を生み出す可能性を持つ“産業創出型エネルギー”でもあります。2025年後半には、民間企業による材料実証や試験拠点の整備に向けた取り組みが相次ぎ、日本独自の核融合クラスターが形成されつつある姿が見え始めました。
(1)民間主導の装置開発・材料実証 ― 核融合産業の核が地域に芽生えた段階
2025年11月には、Starlight Engine 社を中心とする FAST(Fusion Advanced Station for Testing)プロジェクトで、試験設備の概念設計(CDR)が取りまとめられました。FAST はブランケットや熱制御、トリチウムサイクルなどを統合的に検証する試験ステーションとして構想されており、京都フュージョニアリングなど複数の企業・大学が参画しています。試験設備の立地地域では、部材製造や材料評価、計測技術といった関連ビジネスが派生することが想定されており、民間主導の「試験プラント」を核とした地域産業クラスター形成のモデルケースとして注目されています。
民間企業による装置開発も着実に進展しています。Helical Fusion は 2025年10月、核融合炉のキーパーツである高温超伝導マグネットについて、実機規模導体を用いたコイル試験に成功し、最終実証装置「Helix HARUKA」の製作・建設に着手する方針を公表しました。また、同コイルは核融合科学研究所(岐阜・土岐)の大口径高磁場導体試験装置に設置され、吊り上げ作業の様子が公開されています(図1:試験装置への設置風景)。

図1 試験用の高温超伝導コイルを、核融合科学研究所の大口径高磁場導体試験装置に設置するため吊り上げている様子(岐阜県土岐市・NIFS)。
出典: Helical Fusion(PR TIMES, 2025年10月27日)
さらに、液体金属ブランケット試験装置「GALOP」を核融合科学研究所敷地内に搬入し、材料メーカーや計測機器メーカーと連携した試験体制を整備しています。こうした動きは、材料開発から加工・評価試験までを国内で循環させるサプライチェーンが立ち上がりつつあることを示しており、核融合関連設備の開発・実証・保守を支える“産業エコシステム”の萌芽として位置づけられます。
(2)人材育成と地域連携 ― 大学・産業界・自治体が結びつく新たな循環モデル
2025年秋には、文部科学省と経済産業省を中心に、核融合の将来を担う人材育成に向けた取り組みが進みました。JT-60SA(茨城・那珂)や LHD(岐阜・飛騨)など国内の大型装置を活用し、プラズマ制御や材料評価、遠隔保守といった商用炉に直結する技術を体系的に学ぶ環境づくりが進展しています。
大学、産業界、自治体が連携して人材が地域をまたいで循環するモデルを志向している点も特徴で、将来の商用炉立地地域での雇用や技術拠点形成にもつながる取り組みです。核融合を軸にした地域産業化の動きは、研究中心の段階から「地域発の産業集積」に広がる兆しを見せています。
こうした多層的な人材育成の枠組みは、政府資料でも整理されており(図2)、ITER国際スクールや Fusion Science School(FSS)、企業インターンシップなど、人材の裾野を広げる取り組みとして位置づけられています。

図2 大学間連携・国際連携を活用した核融合人材育成の体系
出典:内閣府「フュージョンエネルギー早期実現のための人材育成」
まとめ
2025年は、核融合が研究中心の段階から社会実装を見据えた体制へと大きく踏み出した一年でした。制度づくり、国際基準、民間企業の実証が同時に進み、実用化へ向けた基盤が形になり始めています。こうした積み重ねにより、核融合が“将来の可能性”として語られてきた段階から、政策や産業の議論の中でより具体的に扱われる局面が近づきつつあります。
次回の第5回(最終回)では、こうした動きを踏まえ、核融合発電の社会実装に向けた中長期シナリオと、日本が取るべき戦略を整理します。
執筆者情報

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