非化石証書(再エネ価値等)の下限/上限価格が引き上げ方向、脱炭素経営・RE100加盟の費用対効果は単価確定後に検証可能となる見込み

2025年10月17日

一般社団法人エネルギー情報センター

主任研究員 森正旭

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9月30日の国の委員会で、非化石証書の下限/上限価格の引き上げについて検討が行われています。脱炭素経営の推進を今後検討している企業等は、引き上げ額が確定した後にコスト検証を実施することが推奨されます。また本記事では、非化石証書の価格形成について内容を見ていきます。

日本の脱炭素経営を推進してきた非化石証書

非化石証書とは、電気のうち「非化石電源で発電された部分(非化石価値)」を数値化し、取引可能な形で証明する制度です。電力は物理的に混ざり合って流通するため、どの電気が再エネ由来かを区別することは難しいです。そこで、再エネや原子力など非化石エネルギーによる発電量を「非化石価値」として切り出し、証書として取引できるようにしたのがこの制度です。非化石証書を利用することで、小売電気事業者や企業は「CO2排出の少ない電気を供給している」あるいは「再エネ電気をできる限り努力して使っている」と示すことができます。

なお日本における環境価値取引制度は、2000年代初頭から段階的に整備されてきました。最も早期に導入されたのが「グリーン電力証書制度」と考えられます。これは2001年ごろに当初は民間主導で始まった仕組みで、再エネで発電した「環境価値」を証書化し、企業や自治体が購入することで「実質的に再エネ電力を使用した」とみなす制度です。

電気自体は通常の電力会社から供給されますが、証書の購入によって再エネ導入を間接的に支援できる点が特徴でした。現状のようにITや制度が成熟していなかったこともあり、グリーン電力証書は市場取引ではなく、発行団体ごとの個別販売でしたが、当時としては日本初ともいえる「環境価値の見える化」の仕組みでした。再エネの開発は広大な土地や専門的な知見、費用面の大きな負担もあり、限られた企業しか再エネを推進できませんでしたが、貨幣と同様に価値を取り出し取引可能とすることで、多くの企業が「脱炭素経営」に参画できるようになりました。

次に登場したのが「J-クレジット制度」です。これは2013年に「国内クレジット制度」と「J-VER(Verified Emission Reduction)」を統合して国主導で創設されました。再エネ導入や省エネ、森林吸収などによるCO2排出削減量をクレジット化し、企業がカーボン・オフセットや温対法・省エネ法の報告、カーボンニュートラル宣言などに活用できます。J-クレジットは実は電力とは直接関係せず「温室効果ガス削減量」を証明するカーボン価値であるのに対し、グリーン電力証書は「電気の由来(再エネ電力)」を示す点が異なる点といえます。両者は対象も用途も異なりますが、いずれも「環境価値を可視化し、経済的インセンティブを付与する」点では共通しています。

凡そ同時期に、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)が2012年に導入されると、再エネで発電された電気は国が定めた価格で電力会社が買い取り、電気と環境価値が分離されることとなりました。この環境価値を活用するために、政府は2017年11月28日に開催した電力・ガス基本政策小委員会の制度検討作業部会において、非化石証書を売買する「非化石価値取引市場」を2018年5月上旬に開設する方針を明らかにしました(図1)。

図1 国内における証書・クレジット 出典:経済産業省

このようにして、2018年度に「非化石価値取引市場」が創設され、ここで発行・取引される証書が「非化石証書」となります。現状の国内におけるクレジットにおいて、最も後発となり、これまでの課題から新しい知見も組み込まれ、非常に多くの企業が脱炭素経営やRE100を推進するきっかけを作り、また大きな支えとなっている現状で主軸の証書となります。社会的なESG推進の流れが後押しした面もあると考えられますが、グリーン電力証書やJクレジットよりも安価な価格帯で調達可能なことが、多様な企業等が脱炭素経営に踏み切る足掛かりを作りました。

その後、2020年代に入ると、企業のRE100対応やESG経営の拡大により、「どの発電所で、いつ発電された電気か」を追跡できるトラッキング付き非化石証書が導入された。これにより、非化石証書はグリーン電力証書に近い「再エネの特定性」を持つようになり、国内企業の再エネ利用証明として更なる主流化が進みました。

なお非化石証書は、電源が再エネ(FIT・FIP)か、または原子力などの非化石エネルギーかを示す「非化石価値」をkWh単位で証明するもので、FITに関連するものとして法的に裏付けられています。非化石証書を購入することで、企業等は再エネを応援していることを明確にRP可能となり、また小売電気事業者は自社の販売電力の「非化石比率」を高め高度化法への適応に援用することが可能となります。

このように非化石証書は、日本企業の脱炭素経営の推進を後押ししました。また、各国の証書価格や国内の事情を考慮し、2022年度に抜本的な単価引下げが行われ、利用促進が加速しました。例えば日本はRE100加盟企業数の多さや多様性などが世界トップクラスですが、諸外国からも日本のESG経営について一定の評価を得ることとなりました。全体から見ると影響は小さいですが、S&Pやムーディーズといった格付けにも脱炭素経営はポジティブな影響を与えている部分もあり、日本への投資や応援にもつながることとなり、長期的には国益にも資することが想定されます。

このように非化石証書の引下げ等が国益にもつながった部分もありますが、とはいえ現在、非化石証書の価格帯についてオークションでの約定価格が下限(0.4~0.6円/kWh程度)に張り付く状態が長く続いている等として、下限額および上限額の引き上げを再度検討すべきとの形で経産省の委員会で議論が進められています。現状では引き上げ額などは確定していませんが、下記にて単価設定の流れを見ていきたいと思います。

上限価格撤廃の可能性もあり、再エネ普及と需要家負担の軽減のバランスをとる難しい検討が必要

非化石証書は相対取引ではなくオークションで約定されるため、株式や先物のサーキットブレーカー制度と同様に極端な価格帯とならないよう、上限価格と下限価格が設定されてきておりました。また、下限・上限価格については、国のエネルギー政策と密接に関連しており、主に以下の目的で設定・変更されてきたものと考えられます。

  1. 国民負担(再エネ賦課金)の軽減: FIT証書の売上は賦課金の抑制に使われるため、適正な価格で取引される必要がある。
  2. 市場の安定化: 極端な価格変動を防ぎ、企業などが計画的に証書を調達できるようにする。
  3. 企業の脱炭素経営促進: 企業が脱炭素経営を推進しやすい価格水準に調整する。
  4. 再エネ発電所の価値向上: 環境価値が付帯する再エネ発電所の採算性を高められる水準に調整する。

非化石証書の単価変更については、これまで大きく3回行われています。なお、新電力ネットでは非化石証書の価格推移ページに整理しておりますのでご参考ください。また非化石証書には複数の類型がありますが、話が複雑になるので、ここではシンプルに一般の企業が適用可能なFIT非化石証書について見ていきます。

まず最初のフェーズ1は、制度開始と国民負担軽減の重視(2018年~2021年度)を中心に価格が決定されました。2018年にFIT非化石証書の取引が始まった当初、下限価格は1.3円/kWhと、現在から見ると比較的高めに設定されました。一部の委員からは「最低価格の1.3円/kWhは高すぎるのではないか」といった意見が出ており、小売電気事業者のあいだでは0.5~1円/kWh程度が妥当な水準との見方も当時ありました。

しかしフェーズ1の主な目的は、証書の売上を最大化し、国民が負担する再エネ賦課金を少しでも軽減することでした。FIT制度のコストを証書の価値で回収するという考え方が強く反映されていたものと認識しています。しかし、価格面の障壁等もあり非化石証書の導入があまり進まず、結果として再エネ賦課金の負担軽減効果は非常に限定的でした。

そこでフェーズ2として、再エネ需要家への配慮と市場拡大(2022年度)が実施されました。FIT証書の下限価格を「0.3円/kWh」へ大幅引き下げすることで、RE100を目指す企業など、再エネを必要とする需要家に寄り添った価格帯となりました。

国側としては、再エネ調達コストを懸念する企業に配慮し、証書の購入ハードルを下げることで、市場の取引量を増やし、日本の再エネ利用を加速させることが狙いでした。この変更により、オークションの取引量は飛躍的に増大したことが数字に表れています。また下限価格の引き下げが大きなトリガーとなりましたが、更に上限価格が設定されており予見性が一定担保されていたことも良い方向に進んだ理由の一つと考えられます。

フェーズ3としては、価値の適正化と制度のバランス調整(2023年度~)となります。これによって、FIT証書の下限価格が「0.4円/kWh」へ引き上げされました。0.3円/kWhという価格が、再エネの持つ「環境価値」に対して安すぎるのではないか、という議論が起こったためです。

目的としては、 再び再エネ賦課金の負担軽減という側面に光を当て、環境価値をより適正に価格へ反映させるために、下限価格が引き上げられました。引き上げの水準については2022年のアンケートを元に検討が行われました。非化石証書の利用等のある約220者に送付したところ、153者より回答があった形です(図2)。

全体の大枠としては、非化石証書を利用する側は引き上げに消極的であり、再エネ普及を推進したい団体等は引き上げを望む形となりました。例えば、「FIT証書の最低価格について、引き上げる方向性ついて異論なし。アンケートにおいて小売や需要家からは基本的には引き上げに反対する意見が出ると思うが、意見が出たことをもって方向性を覆す必要はない。」とする意見があった一方、「当面は非化石証書などによる再エネ利用の普及、拡大を図ることを優先し、価格は市場原理に沿ったものであることが望ましいと考えています。(政策的な価格引き上げには賛同いたしかねます。)」といった意見など、非常に多様な意見が寄せられました。

慎重な検討の結果としては、2023年度のオークションからは0.4円/kWhとなりました。0.5円/kWhとする方が良いという意見も比較的多く、0.4円のに意見と分かれましたが、市場創設から2年足らずでの水準の変更となり、現状の価格水準を基準に証書の購入計画などを立てている事業者も存在すると考えられるため、急激な制度変更による影響も極力抑制しながらの対応が求められるとしています。

そのため、アンケートにおいても比較的その値上げの幅として許容性も高いと考えらえれる幅をとりつつ、電源側への影響も鑑み、最低価格を+0.1円/kWhとなる0.4円/kWhとし、2023年度のオークションから適用することとなりました。

このように、非化石証書の価格、特に多くの企業が利用するFIT証書の下限価格は、「国民負担の軽減」と「企業の再エネ利用促進」という2つの要請のバランスを取りながら、時代背景に合わせて見直されてきた歴史があります。

図2 最低価格の値上げに対する許容性 出典:経済産業省

このような流れで非化石証書の価格帯は推移してきましたが、高度化法への対応用の非FIT非化石の価格も含めた価格変更は下記図の形です。高度化法は、小売電気事業者が非化石電力への対応を促す制度となりますが、上限価格が2021年から4円/kWhから1.3円に引き下げられたことが、大きな変更点といえます。FIT証書とのバランスを取りつつ、小売電気事業者が義務を達成するための調達コストが過度に高騰しないよう、比較的狭いレンジで価格が設定されました(図3)。

図3 非化石価値取引市場における上下限価格の推移 出典:経済産業省

FIT非化石証書、PPA促進等の観点から引き上げの方向性

非化石証書の価格帯についてですが、まずはFIT非化石証書については、約定量は着実に増加しているものの、これまで全ての入札で売入札量が約定量を大幅に上回っており、約定加重平均価格は下限価格(0.4円/kWh)近辺に張り付いている状況です(図4)。

図4 再エネ価値取引市場(FIT証書)取引量推移 出典:経済産業省

こうした取引状況に対しては、FIT証書の市場価格は環境価値の価格指標として事実上機能しているといった指摘があります。これは脱炭素経営を進める上で予見性が高まるのでメリットにもなりますが、一方で需給が今後逼迫しても上限価格が設定されており、結果として、需要家が中長期のPPAを締結するインセンティブが阻害されているといった指摘もあります。

そこで、下限価格(0.4円/kWh)については、こうしたPPAマーケットへの負の影響や、FIT証書が再エネ賦課金に支えられたもので、証書収入はその低減に充てられている点に鑑み、価格水準の引上げについて早急に検討されるべきではないか、とされています。また、上限価格(4.0円/kWh)については一部ですが極端な事例となりますが撤廃も含めた議論が進められているところです。

補足として各国の再エネ証書の価格帯ですが、各々のエネルギー事情により国によって大きく異なりますが、例えば環境先進国と言われるドイツやEU域内でも利用できるGO (Guarantee of Origin) は非化石証書と近い性質を持ち2025年上期で0.07円/kWh程度と、日本の非化石証書より利用しやすい価格帯です。その他にはI-RECでは例えばタイは0.2円、インドネシアは0.14円程度、中国のGECは0.11円程度と安価な国もある一方、米国カリフォルニア州などは非常に高額で4.05円/kWh程度となり、また英国(REGO)も2.7円と高額で目立ち、各国によって幅が広いです。また同じ国であっても制度によって価格は異なり、EU域内によるEU-ETSでは2024年で約3円となっています。

EU-ETSに相当するものとして日本ではGX-ETSがありますが、非化石証書は利用できない方向性となっています。GX-ETSではJクレジットがEU-ETSに近しいものと想定され、価格帯も似たような形となっています。

このように国や制度によって事情が異なりますが、例えば日本の近年の大きな動きとしてはGX-ETSがあります。GX-ETSの大枠としては、scope1が主軸となり、scope2は取引対象には含まれないですが、⽬標値及び実績の公表が必要といった形になる見込みです。非化石証書はscope2のためGX-ETSでは使用用途が限られる、もしくは利用できない可能性も現状検討されている状況ですが、国側では「GX-ETSの制度設計の議論状況と調整しながら、どういった価格が適切なのか議論を深めるべき」といった意見もあり、日本は今後どのような方向性で脱炭素化を進めるのか今後の検討に期待が寄せられます。

また非化石証書は現状では売り札が多い状況ですが、売買比率を見ると2024年度は凡そ20%程度で80%近くが余っていたのに対し、非化石証書が比較的安価であることも後押しし、2025年度は売買比率が約68%と急上昇しています。この調子でいけば、下限額の引き上げ額が大きくない場合は、近いうちに100%を超えることが想定され、何もせずとも下限価格を上回ることになると想定されます。

また非化石証書の特性上、FITが原資となっているので特に2032年以降は売り札の減少が想定され、逆に非FITが増えてくると考えられます。これらを踏まえると、下限価格を引き上げずとも、結局のところ近いうちにFIT価格は市場の原理に従い、需給の関係で上昇することが見込まれます。

なおコーポレートPPAについては、自然エネルギー財団の調査によると2020年は1件が確認されたのみとなっていますが、2021年は15件、2022年は30件、2023年は57件、2024年は97件と、1年毎に2倍程度に増加しています。このように、現状の非化石証書の価格であってもPPAの件数は事業者の努力により着実に伸びており、全くビジネスができないフィールドという訳ではないようです。またPPAのほかにも、再エネ全体も伸びており、電源種別や設置環境等にもよりますが、グリッドパリティを達成しつつある状況です(図5)。

今後も増加が見込まれ、またビジネスとしてのマーケットも醸成されつつあり、非化石証書の引き上げによって更にPPAにインセンティブを与えるかは議論の必要がありそうです。また、再エネPPAの促進をあまりに強く行いすぎると、火力発電の開発の意欲を損なう可能性もあると考えられ、火力発電の業界も含めた電力業界の需給全体を見たバランス調整が必要になると考えられます。

一方で、再エネ電源の主力化にはPPAは非常に重要な要素であり、非化石証書や再エネ市場のみではなく、エネルギー業界を俯瞰して今後の検討が進められることが望ましいです。誰でも簡単にPPA事業を始めて儲けられるというよりも、綿密に準備をして多くの事業努力を行った企業が、その対価としてPPAのチャンスを得られるような内容になることが期待されます。

図5 再エネ導入量の増加 出典:経済産業省

また非化石証書の価格引き上げによってPPA等を促進し、更に再エネが増えることは望ましいことではある一方、出力制御が課題となっています。晴天で気温の穏やかな日など、電気が余りやすい時間帯では、せっかく発電した電力は捨ててしまい無駄となっています。特に九州エリアは再エネが潤沢である一方出力制御も5%近くと多く、日本全体で案分しても約2%程度となります(図6)。過去の再エネが少なく系統余力が大きく、大量導入できていた時期と異なり、現状は系統の余力が潤沢とは言えず、むしろ蓄電池やDRなどを考慮した非化石証書の検討とすることで、電力業界に資する価格形成が実現すると考えられます。

図6 再エネ出力制御の実施状況等 出典:経済産業省

非FIT証書は売買比率が高まってきた傾向、1877%を超える売り札が足りない時期もあり、下限のみならず上限価格の調整が重要な局面

非FIT非化石証書については、足下の取引状況を見ると、約定価格が上限価格となっている回もあるが、これまで多くの入札で売入札量が買入札量を上回り、約定価格は下限価格(0.6円/kWh)に張り付いている状況にあります(図7)。

こうした取引状況に対しては、政府が決定する需給バランスによって市場で売れ残りが生じる蓋然性が左右されているといった指摘や、FIP交付金から平均市場価格が控除されている中で、PPAを締結しない(又は締結できない)FIP電源は、市場で売れ残りが生じると控除分の収入確保が困難となるといった指摘がなされています。

そこで、高度化法義務の達成手段というその基本的な性格を踏まえつつ、市場での証書の売れ残りを可能な限り減らすための方策(需給バランスの更なる引下げ等)について早急に検討されるべきとされています。

ただ、直近の需給バランスを見ると、再エネ指定の非FITの売買比率は2025年8月で1877.3%、その前の2025年5月22日は1471.65%と、売り札が圧倒的に足りない状況です。そのため、1.30円の上限価格に張り付くことも増えてきています。

そのため、特に今後は非FITに関しては下限価格よりも上限価格の設定がより重要になってくると考えられます。1000%を超えるような需給で上限価格の撤廃を行うと、どこまで価格がスパイクするか不透明で、電力会社全体が混乱に陥ることもあり得なくはないと考えられるので、各電力会社の経営状態なども加味し、一定の蓋然性をもった価格設計が必要になってくると考えられます。特に規模の大きい電力会社は高度化法の影響が大きいので、価格帯によってはお客様への電気代への価格転嫁も必要になり、ひいては日本経済の足かせとなることも考えられるので、慎重な検討が期待されます。

図7 高度化法義務達成市場の取引量推移 出典:経済産業省

脱炭素経営の推進は単価確定後に本格化することを推奨

現時点では非化石証書の下限/上限金額の引き上げ単価は確定していませんが、現状の環境価値の価格をベースに脱炭素経営やRE100・SBT等を検討している方に関しては、値上げ額が確定した後に改めて費用対効果やコストを検証することが推奨されます。そうしなければ、例えば電力利用量の多い業態である場合は、非化石証書の引き上げ額が大きい場合は特に、営業利益が吹き飛び、社員の方々への給料削減や。新規事業・社会意義のある素晴らしい研究開発などの中止等を迫られる可能性も考えられますので、現時点では慎重に脱炭素を考えるべきと思われます。

また既にRE100等に加盟している企業や団体に関しては、一度RE100を表明した以上、脱退は簡単ではないと想定されますので、コスト増加を受け入れる必要があるものと考えられます。以前の0.3円→0.4円の引き上げの際には、国側も市場創設から2年足らずでの非常に短いスパンでの水準変更となることは事業者負担も大きいとしておりましたが、今回どのような結果になるかは現状では不透明な状況です。

本来は、価格予見性の観点からも、国の制度はあまりコロコロと変わらない方が事業者サイドは安心してビジネスを行えるのが実情だと考えます。ただし、SDGsやGX、再エネ推進や温暖化対策など社会全体およびエネルギー業界を取り巻く環境も変化が激しく、今回も短いスパンでの検討が必要となっている状況と考えられます。近年ではAIや量子コンピューターなどが代表的ですが、社会を取り巻く環境は変化を続けており、また政権交代などを含めて社会情勢も変化する中、脱炭素経営に関しても変化に対応していく必要があるものと考えます。

政府や国としては難しい舵取りが必要になってきますが、エネルギー業界や電力インフラを利用する日本企業や国民全体、また脱炭素経営を推進している企業等や、再エネや火力などの発電側の状況も汲み取り、適切な下限/上限価格の設定が実施されることが期待されます。

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執筆者情報

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一般社団法人エネルギー情報センター

主任研究員 森正旭

上智大学地球環境学研究科にて再エネ・電力について専攻、卒業後はRAUL株式会社に入社。エネルギーに係るITを中心としたコンサルティング業務に従事する。その後、エネルギー情報センター/主任研究員を兼任。情報発信のほか、エネルギー会社への事業サポート、また法人向けを中心としたエネルギー調達コスト削減・脱炭素化(RE100・CDP等)の支援業務を行う。メディア関連では、低圧向け「電気プラン乗換.com」の立ち上げ・運営のほか、新電力ネットのコンテンツ管理を兼務。

企業・団体名 一般社団法人エネルギー情報センター
所在地 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F
電話番号 03-6411-0859
会社HP http://eic-jp.org/
サービス・メディア等 https://price-energy.com/

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