政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第5回】社会実装と中長期シナリオ 2030年代のロードマップと日本の戦略
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一般社団法人エネルギー情報センター

これまで4回にわたり、核融合という次世代エネルギーの可能性を、研究・技術・制度の観点からたどってきました。長らく“夢のエネルギー”と呼ばれてきた核融合は、いま確実に社会の現実へと歩みを進めています。 最終回となる今回は、社会実装に向けたロードマップと、日本が描くべき中長期戦略を考えます。 核融合が“希望の象徴”で終わらず、私たちの暮らしに息づくエネルギーとなるために、次の時代に向けた道筋を描きます。
1.2030年代の実証炉・商用炉スケジュール 技術から社会への転換期へ
核融合は研究中心の段階を抜け、いよいよ社会に組み込まれるフェーズを迎えつつあります。
2030年代は、各国が実証炉から商用炉への橋渡しを進める“転換の10年”となる見通しです。
(1).Helical Fusionが示す“事業としての核融合”
日本のHelical Fusionは、ヘリカル方式による研究成果を統合し、商用化を見据えた「Helix Program」を推進しています。この方式は定常運転性に優れ、商用発電に適した構造として高く評価されています。
2025年12月には、Helical Fusionがアオキスーパーと国内初となる核融合電力の売買契約(PPA)を締結しました。これは、供給側の開発と需要側の意思が初めて結びついた事例であり、核融合が実際の市場へ踏み出す大きな一歩です。
冷蔵・冷凍設備など大量の電力を必要とする小売業が、ベースロード電源として核融合を選択したことは、“研究成果が市場価値へと転換した”ことを示す象徴的な出来事といえます。
さらに2030年代には、最終実証装置「Helix HARUKA」による統合実験を経て、原型炉相当の「Helix KANATA」での発電実証を目指す計画が進められています。このロードマップは、経済産業省が改定した「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略(2025年版)」が示す2035年頃までの社会実装スケジュールと方向性を一致させたものであり、民間主導の研究・実証を後押しする政策の流れを具体化するものです。
日本のHelical Fusionが「安定運転性とメンテナンス性」で強みを発揮する一方、米国CFSは高磁場小型炉による経済性追求、英国STEPは国家支援による早期商用化、中国CFETRは大出力化に焦点を置くなど、各国が異なる戦略で競争を進めています。多様なアプローチの中で、日本は“安定運転技術の社会実装”を軸に存在感を高めつつあります。

画像1:Helical Fusionが2030年代の発電実証を見据えて構想する発電初号機「Helix KANATA」のイメージ
出典:内閣府「核融合社会実装タスクフォース」資料(Helical Fusion社提出)
(2).国際市場と安全制度の動向 標準化と社会的信頼の確立へ
世界では、核融合を「実験」から「事業」へと移行させる動きが加速しています。
米国のCommonwealth Fusion Systems(CFS)は、2020年代末に実証炉「SPARC」の建設を進め、2030年代には商用炉「ARC」による400MW級の発電を計画しています。
2025年6月には、GoogleがCFSと最大200MWの電力購入契約(PPA)を締結しました。
2030年代前半の供給を見据えた長期契約であり、AIデータセンター向けの安定した無炭素電源を確保する狙いがあります。核融合電力が実際の市場で取引される初の事例となり、研究開発の成果が「商取引の価値」へと転換した象徴的な出来事です。
さらに同年9月、イタリアのエネルギー大手EniもCFSと10億ドル超の電力オフテイク契約を締結しました。
エネルギー企業と投資家が連携し、核融合を事業として成立させる枠組みが具体化しつつあります。
英国ではSTEP(Spherical Tokamak for Energy Production)計画が進行し、EUのDEMO設計、中国のCFETR計画など、各国が商用炉実現に向けた取り組みを強化しています。
技術競争の時代は終わり、「経済性と市場競争」が新たな焦点となりつつあります。
同時に、安全制度と国際標準化の整備も進んでいます。
IAEAやIECでは、トリチウム管理や遠隔保守、材料評価などに関する国際基準づくりが進行中です。
日本もこれらの議論に積極的に参画しており、研究成果を国際的な標準形成に生かしています。
安全と信頼の仕組みが整いつつある今、核融合は「社会に受け入れられるエネルギー」としての地位を築きつつあります。
2.国際市場・安全制度の動向 ― 標準化と社会的信頼の確立へ
核融合が社会の中で受け入れられるためには、国際的な安全基準と社会的理解の確立が欠かせません。2020年代後半から、各国で制度やルールづくりが進み、核融合は「原子力でも再エネでもない第三のエネルギー」として位置づけられつつあります。
(1).国際規制と安全設計の進展
英国では、国家プロジェクト「STEP(Spherical Tokamak for Energy Production)」が、設計段階から規制当局(ONR)が関与する体制を採用しています。この「Safety by Design(設計段階から安全を組み込む)」アプローチは、完成後の審査に依存しない新しい国際標準として注目されています。
日本でも、環境アセスメントや保安制度の設計に関する議論が進展しており、日本原子力研究開発機構(QST)はトリチウム循環制御や廃棄物最小化設計の技術基準づくりを推進中です。研究と制度設計を同時並行で進める「Co-design型アプローチ」が、次世代エネルギー行政の新たな方向性を示しています。
こうした取り組みは、研究・規制・産業の連携を前提とする次世代エネルギー行政の試金石といえます。
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執筆者情報

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