スマホでサンマが焼ける日ーコラムー第8回 電力の自給自足「オフグリッド生活」
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2020年11月18日
一般社団法人エネルギー情報センター
電気を自分で発電し、収穫した電気を蓄電池に貯め、自分で使う自給自足生活、オフグリッド生活は送電による電気の無駄を省けます。地域循環で完結するシステムがあまり遠くない未来にできあがるのではないでしょうか。
執筆者:一般社団法人エネルギー情報センター
理事 江田健二
富山県砺波市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)に入社。エネルギー/化学産業本部に所属し、電力会社・大手化学メーカ等のプロジェクトに参画。その後、RAUL株式会社を起業。主に環境・エネルギー分野のビジネス推進や企業の社会貢献活動支援を実施。一般社団法人エネルギー情報センター理事、一般社団法人CSRコミュニケーション協会理事、環境省 地域再省蓄エネサービスイノベーション委員会委員等を歴任。
記事出典:書籍『スマホでサンマが焼ける日 電気とエネルギーをシェアする未来の「新発想論」』(2017年)
スマホでサンマが焼ける日/蓄電池の未来
エネルギーハーベスティングで電気を収穫しても、貯めておくことができなければ意味がありません。貯めることができなければ、せっかく収穫した電気を効率よく使うことができず、その一部は無駄になってしまいます。海で新鮮な魚を釣ってきても、冷蔵庫や冷凍庫がなければ腐って食べられなくなるようなものです。エネルギーハーベスティングやその他の小さな発電所にとって、その冷蔵庫の役割を果たすのが「蓄電池」です。
蓄電池は今かなり進化していて、コンパクト化され性能も良くなっています。アメリカのEV(電気自動車)会社、テスラが販売している「パワーウォール」(新型はパワーウォール2)という比較的安くて高性能の画期的な家庭用蓄電池システムがあるのですが、蓄電池システムはこの先5年、10年で最も技術的イノベーションが起こる分野と言えます。蓄電池はこれからさらにコンパクトになっていって、最終的にはかなり高性能な蓄電池がスマートフォン1台くらいの大きさになるでしょう。
そうなると、今使われている乾電池もいつか終焉の時代がきます。乾電池は、形や大きさなどが多種多様で、一般的な円筒型には単1、単2、単3、単4があり、その他に角型やボタン式、コイン式などがあります。使い勝手において非常に面倒ですし、使い終わった後の処理にも手間とお金がかかっています。よく考えると非常に非効率ですしエコではありません。
しかも一番の問題は、この乾電池にあとどれだけ電気が残っているのかよく分からないという点です。バッテリー切れしてはじめて「ああ、電池が切れちゃった!」と慌てた経験は、みなさんも1度はあると思います。おそらく20年後くらいには、かつて使われていたカセットテープやフィルムがあっという間に消えてしまったように、乾電池も過去の遺物になっているはずです。
今後はEV(電気自動車)が「大きな蓄電池」としての役割を果たすようになりますが、みんながみんなEVに乗るわけではないでしょうから、そう考えるとやはり一番身近でコンパクトなスマートフォンが蓄電池機能を搭載していく可能性は大いにあります。今後スマートフォンは、コンピュータであり通信機器であり、カメラであり、音楽・映像視聴機器であり、サイフであり、発電装置、蓄電池でもある、といったように、すべての機能がさらにスマートフォンに集約されていく時代になりそうです。
今のテクノロジーをもってすればスマートフォンを蓄電池化させるのは技術的には可能です。あとはもう市場の問題でしょう。その市場にニーズ、盛り上がりが起こればテクノロジーはそれに合わせて進化し、普及するものです。太陽光パネルも、FIT(太陽光発電など再生可能エネルギーの普及を図るため、再エネで発電された電気を電力会社に一定期間、固定価格で買い取ることを義務づけた制度)などで太陽光発電が普及したために、一気にパネルの価格が安くなったのと同じです。
太陽光といえば、ソーラー発電のシステムもスマートフォンに組み込まれるかもしれません。そうなると、天気のいい日にピクニックに出かけて、スマホで発電・蓄電した電気を使って、火やガスの使用が禁止されている場所でもバーベキューができたり、屋上やバルコニーでサンマが焼けてしまう、といった日が来るかもしれませんね。
電力の自給自足「オフグリッド生活」とは
以前のコラムで電気を送る、送電技術や考え方について話しましたが、そもそも「送電線にたよらない」という選択肢もあります。それが最近よく耳にする「オフグリッド」(電力会社などから電気が送られてくる送電線と繋がっていない状態)であり、そうしたライフスタイルを実践する「オフグリッド生活」です。オフグリッド生活は、まさに自給自足。これほど無駄のないことはありません。これから徐々にこうしたライフスタイルが広がっていく可能性があります。
オフグリッド生活は、日本よりも海外で広がりを見せていて、実際に大規模発電所の送電網から電気を買わない家庭が増えています。太陽光発電システムを導入して電気を買わなくても済む家庭や、自分たちで発電した電気を蓄電池で貯めておいて使いたいときに使う、という家庭が増えてきています。これからは自分たちで電気を作って自分たちで使って、さらにシェアする、ということが当たり前の時代になると思います。それは後述する「技術大国がエネルギー大国になる」時期よりも、もっと早い段階で来るでしょう。なぜかというと、それは今からやろうと思えば誰でもすぐにできてしまうからです。太陽光発電や風力発電などのエネルギー効率がもう少し上がって、蓄電池の性能がもう少し上がれば実現してしまうことなのです。
オフグリッドは、単に、無駄に資源を使い環境を汚染する大規模発電の電気を使わないからエコだ、というだけでなく、送電による電気の無駄を省くという意味でも大きな価値があると考えられています。近年増えている地方自治体主導の地産地消型の電力事業に、プラスこういう個々人のオフグリッド的なライフスタイルへのシフトが同時進行すれば、本当に完全な地産地消の電力システム、地域循環で完結してしまうシステムが、あまり遠くない未来にできあがってしまうのではないか、という気がします。
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執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
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