スマホでサンマが焼ける日ーコラムー第17回 テクノロジーの発達で電力需要が増える

2021年07月02日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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電力コストの低下やテクノロジーの発達・普及で世界の電力需要はさらに増えていくと予測しています。マイニングビジネス、ロケット開発など進歩発展への追求が電力の需要をさらに生み出していくと考えられます。

執筆者:一般社団法人エネルギー情報センター
    理事 江田健二

富山県砺波市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)に入社。エネルギー/化学産業本部に所属し、電力会社・大手化学メーカ等のプロジェクトに参画。その後、RAUL株式会社を起業。主に環境・エネルギー分野のビジネス推進や企業の社会貢献活動支援を実施。一般社団法人エネルギー情報センター理事、一般社団法人CSRコミュニケーション協会理事、環境省 地域再省蓄エネサービスイノベーション委員会委員等を歴任。

記事出典:書籍『スマホでサンマが焼ける日 電気とエネルギーをシェアする未来の「新発想論」』(2017年)

人口が減るのに電気使用量が増える理由って?

これから日本は人口減少に向かっていきます。ということは、電気の使用量、電力需要もそれにともなって減っていくのでしょうか。ある試算によると、今後日本国内の電力消費量は、人口減少や省エネなどによりマイナスに転じていくだろうという予測もあります。では電気の需要が増えなければ、ここまで話したように発電システムが多様化して発電量が増えても、せっかく作った電気が余ってしまう、つまり余剰電気が増えてしまうのでしょうか。そうなると、私がここまで話してきた「無駄がなくなる世の中」と反対に、無駄が生じる社会になってしまいます。

ですが、私は今後日本のみならず世界の電力需要はさらに増えていくと考えています。その理由は2つです。一つは電気代、電力のコストが下がるためです。すべてのものはコストが高ければ自然と需要が減り、コストが下がれば需要が増えます。水道水も非常にコストが低いからこそ、多くの人は普段あまり水道代を気にせず水を使っています。インターネットも最初は通信量が高かったのが、今のように安くなったのでこれだけ普及したのです。

紙も、100年前、200年前はきっと非常に高くて、ごく一部の地位・身分の人や知識人しか手にすることができなかったはずです。今は1枚1円もしません。それによって需要が増えて本の文化や教育などが発展し、様々な仕事も増えました。それと一緒で、コストが下がれば今までそれを使えなかった人が使えるようになるのです。

電気も同じです。車もガソリン車だと人によっては月1万~2万円くらいをガソリン代に使っています。これが電気自動車だと月数百円ですむということになれば、みんな電気自動車に乗るようになるはずです。そうなると電気自動車が急速に普及していくでしょう。電気が安くなって電気の使用量、消費量が増え、それにともなって発電システムも発達して発電量も伸びていく。発電量が増えればさらに発電コストが下がるので使用量が増える、という好循環が生まれるのです。

今はまだ、発電コストが下がらないので使用量も増やせないのです。今後、太陽光発電など再生可能エネルギーが普及し、分散型発電によって「消費量が増えることで地球環境が悪くなるわけでない」という社会になれば、ますます電力需要は増えていくはずです。

もう1つ、今後電力需要が増えるだろうと考える理由があります。それは、これからのIoTを中心としたテクノロジーの発達、AI(人工知能)やスパコン(スーパーコンピュータ)の進化、普及により、電気エネルギーを必要とするマシン、デバイスが無限に増えていくと予測されるからです。

以前のコラムにも述べたように、IoT化が進むことによって、現在の約3000倍のモノがインターネットにつながるようになります。ということは、電気を必要とするモノも3000倍に増えるということです。また、ロボットやAI搭載型の新しい機器、ウェアラブル端末など、今まで存在しなかった新しい電子機械も増えていくでしょう。それらが個々にどれほど電力を消費するものなのかは分かりませんが、地球上に電気エネルギーを動力とするマシンが膨大に増えていくことは確かです。

ドローンは今後急速に普及するマシンの中でもかなり電気をくうモノの一つですが、一方でこれから日本が世界をリードしていける分野であろうと期待されているスパコンも非常に電気量がかかるものの一つです。今後こうしたスパコンが世界的に増えていけば、それにともなって電力消費量も大きく増加していくでしょう。

今後ドローンやスパコンのような機器がさらに進化発展していくためには、電力コストがもっと下がる必要があります。今は電気代が高くて実現できないこと、実用化に向けて開発が進まない製品がたくさんあります。電気代が安くなれば、そうした製品の実用化が一気に進む可能性があるのです。

電気飛行機、ビットコイン、宇宙開発で増える電力需要

今までこういうものを作りたい、でもそれは電気代がかかるから無理だと言われていたもの、電気代が高いことによって縛られていることが実はたくさんあるのです。たとえば人間が乗れるドローンはすでに開発が実現していて、技術的には作るのは簡単なのに、肝心の電気代がかかるために実用化できないという問題があります。

3Dプリンターを使ってこんな製品を作りたいけれども、そのためには3Dプリンターを何十時間も回さなくてはならず、電気代がかかり過ぎて無理……、という場合でも、電気代がほぼゼロになればもっと多種多様なモノを作ることができます。農業の分野で言えば、IT農業として注目されている植物工場。電気代が安くなればもっと多くの植物工場を作ることができ、農業も発展するでしょう。

ちなみに今、多くの日本企業が海外に工場を置くのは、人件費が安いからだけではなく、日本の電気代が高い、現地の光熱費が安いからという理由もあるのです。またビットコイン(仮想通貨)の世界では、仮想通貨を新たに発行するための「マイニング(採掘)」というものがあります。マイニングは自分のコンピュータに計算をさせて新たにビットコインを生成・入手する方法ですが、金などの採掘になぞらえて「マイニング(採掘)」と呼ばれています。

今、このマイニングが新しいビジネスとして注目を集めていて、日夜ビットコインの採掘に励んでいる人たちが世界中、特に途上国に増えています。ただマイニングには莫大な電気代がかかります。コンピュータの稼働やサーバーの冷却にかかる電気代です。もし電気代がタダであれば世界中でマイニングができて世界中で仮想通貨がもっと普及するはずです。ちなみに、今アイスランドでマイニングビジネスが盛んなのですが、その理由として、アイスランドは寒くてサーバー冷却にかかるコストが安くてすむからということがあるようです。

もっと大きな視点で見ると、飛行機やロケット開発の分野でも電力コストが重要になってきます。先日、NASAとボーイングが電気飛行機を共同開発中というニュースが出ていましたが、分散型発電の活用で電気代が安くなれば、オイルなど化石燃料を使わず電気だけで飛ぶ旅客機が出てきても不思議ではありません。

またロケット打ち上げには、ロケットエンジンの燃料費だけでなく、莫大な電力コストがかかります。これからの宇宙開発には電力・エネルギーの低コスト化が必須課題です。また、日本の小惑星探査機「はやぶさ」は電気ロケットエンジンを使用していますが、将来、宇宙空間の様々な面で電気エネルギーが主流になっていくでしょう。EV(電気自動車)とロケット開発を同時に行っているイーロン・マスクあたりは、おそらく電気エネルギーシステムの宇宙開発への利用を真剣に考えているのではないでしょうか。

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