エネルギー革命の中心を担う蓄電池 第4回

2023年11月23日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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今注目を集める「リチウムイオン電池」について、その概要を全4回にわたってご紹介します。

執筆者:一般社団法人エネルギー情報センター
理事 江田健二

富山県砺波市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)に入社。エネルギー/化学産業本部に所属し、電力会社・大手化学メーカ等のプロジェクトに参画。その後、RAUL株式会社を起業。主に環境・エネルギー分野のビジネス推進や企業の社会貢献活動支援を実施。一般社団法人エネルギー情報センター理事、一般社団法人CSRコミュニケーション協会理事、環境省 地域再省蓄エネサービスイノベーション委員会委員等を歴任。

記事出典:書籍『2時間でわかる 蓄電池ビジネスの未来: ウィズコロナ時代に拡大する20兆円市場に注目せよ!』(2020年)

蓄電池ビジネス・産業の市場動向

ここで少し、蓄電池をビジネス・産業という視点から全体像を見ておきましょう。

経済産業省の蓄電池戦略プロジェクトチームによると、現在、世界における電池の市場規模はおよそ5兆円で、2020年には20兆円に達すると見込まれています。国は、将来世界シェアの5割を日本企業が獲得することを目標としており、国家レベルで蓄電池産業の発展を後押しすると表明しています。蓄電池産業は今後の日本の成長を支える重要産業として認識されているのです。

特にリチウムイオン電池については、今後さらにEV等の車載用電池や家庭用蓄電池としての用途の拡大が見込まれており、メーカー各社もこぞって研究開発を推進しています。

日本は、もともと電池の製造を得意としており、2000年代には蓄電池生産量において高い世界シェアを誇っていました(2007年当時、NAS電池で100%、自動車用ニッケル水素電池で74%、民生用リチウムイオン電池で57%)。最近は、中国、韓国メーカーやアメリカを中心とするベンチャー企業の進出によって国家間、メーカー間の競争激化に拍車がかかっています。

蓄電池に関連する産業は、原材料の開発・輸入から、部材メーカー、蓄電池メーカー、EV、住宅、家電、デジタル機器、再エネ関連事業など関連サービス事業者も幅広いため、今後も非常に大きな経済効果が見込めるでしょう。

利用シーン・市場別に見る蓄電池産業

次に利用シーン(環境)別に見た蓄電池産業について見ておきましょう。

蓄電池の利用シーンは次世代自動車の動力源としての利用や、負荷平準化、再生可能エネルギーの安定化、電力貯蔵としての利用など多岐にわたります。また使用シーンに応じて求められる蓄電池のタイプや性能はそれぞれ異なるため、大きく「電力系統用」「需要側定置用」「次世代自動車用」の3種類に分類して市場を捉えることが重要となります。

「電力系統用」蓄電池

電力系統の安定化に活用されている蓄電池です。これを使うことで、電力の需給バランスを改善したり、再エネの導入可能な量を増やしたりすることが可能となるので、再エネの普及拡大にともない、さらに導入が進むと見られます。経済産業省も、電力系統用の大型蓄電池システムに関連する実証実験を推進しています。

「定置用」蓄電池

現在、蓄電池市場で最も成長が見込まれている分野が定置用蓄電池(据え置き型の蓄電池)です。東日本大震災以降、国内では定置用リチウムイオン電池への注目が集まっており、世界に先駆けて新たな市場が形成されつつあります。ただし、現時点では導入にかかるコストが非常に高額であるため、
一般層へ浸透するまでには至っていません。今後、各種法制度の整備や自治体による補助金制度により、さらなる需要が生まれることが期待されています。

「次世代自動車用」蓄電池

EVに代表される次世代自動車用蓄電池の市場拡大にも期待が寄せられています。この分野における研究開発は世界に先駆けて日本で開始されたことから、今のところ車載用蓄電池については日本企業が高いシェアを確保しています。国も新車販売台数に占めるEVとPHVの割合を拡大することを目標に掲げており、今後の市場拡大が期待されます。

様々な分野に広がる蓄電池のビジネスチャンス

ビジネス視点で見ると、蓄電池産業は蓄電池メーカーだけにとどまらず、今後様々な分野で大きなビジネスチャンスを有しているといえます。蓄電池ビジネスに関連してくる分野・業界は多岐にわたりますが、主なものだけ挙げても次のような分野があります。

  1. 自動車業界 ➝ EV用蓄電池など
  2. 電力&エネルギー業界 ➝ 電力系統用蓄電池など
  3. 再エネ関連 ➝ 太陽光発電システム用蓄電池など
  4. 住宅関連業界 ➝ スマートハウス用蓄電池など
  5. モバイル機器、デジタル機器業界 ➝ スマートフォン用蓄電池など
  6. ドローン関連業界 ➝ ドローン用蓄電池など

蓄電池は、これから私たちの日常生活、自動車産業、住宅産業、再生可能エネルギー、防災などなどビジネスと産業・社会全体と密接に関係してきます。蓄電池は今や特定の業界・分野だけに必要とされている技術ではありません。蓄電池技術は、産業の垣根を越えたデジタル化社会(産業ボーダーレスな社会)において、今後ますます横断的、縦断的に活用されていくでしょう。

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