蓄電池×エネルギーマネジメント 第1回

2024年03月06日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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EVと並んで蓄電池と大きな関わりのある「エネルギーマネジメント」にテーマを絞って、蓄電池の今と未来を全6回に渡ってご紹介していきます。

執筆者:一般社団法人エネルギー情報センター
理事 江田健二

富山県砺波市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)に入社。エネルギー/化学産業本部に所属し、電力会社・大手化学メーカ等のプロジェクトに参画。その後、RAUL株式会社を起業。主に環境・エネルギー分野のビジネス推進や企業の社会貢献活動支援を実施。一般社団法人エネルギー情報センター理事、一般社団法人CSRコミュニケーション協会理事、環境省 地域再省蓄エネサービスイノベーション委員会委員等を歴任。

記事出典:書籍『2時間でわかる 蓄電池ビジネスの未来: ウィズコロナ時代に拡大する20兆円市場に注目せよ!』(2020年)

エネルギーマネジメントと蓄電池

前回までは、蓄電池ビジネスの肝となるEVを中心としたスマートモビリティについてお話ししました。今後EVが私たちの生活や社会にどのような影響を与え、恩恵をもたらすのかがご理解いただけたと思います。

今回は、EVと並んで蓄電池と大きな関わりのある「エネルギーマネジメント」にテーマを絞って、蓄電池の今と未来を見ていきたいと思います。

皆さんは「EMS(エネルギー・マネジメント・システム)」という用語をご存知でしょうか。EMSはエネルギー管理システムともいわれており、ICT(情報通信技術)を用いて、家庭やオフィスビル、工場などのエネルギー(電気・ガス等)の使用状況を把握・管理・最適化し「省エネ」を行うシステムのことを指します。

ここでいうエネルギーマネジメントとは、もう少し広義に「電力を創る、蓄える、活用する」という意味に捉えていただければと思います。

蓄電池の社会的役割には「余った電気を貯めておく」「電力系統の安定をはかり、再エネ導入を促進する」「ピークカット、ピークシフトに役立てる」「防災に役立てる」があるとお話ししました。ここでスポットを当てるのは、主にこれらの事柄です。

蓄電池は再生可能エネルギー分野、特に太陽光発電の領域において、ますます重要性が増しています。一方で蓄電池は、災害による停電の時など非常時のバックアップ電源として役立ちます。特に東日本大震災をきっかけに、蓄電池は以前にも増して注目されるようになりました。蓄電池が、再エネ、住宅、防災など私たちの生活において今後どのような可能性を秘めているのか、また公共サービスや産業界において、蓄電池システムがどう活用されているのか、ここではそのあたりを様々な側面から順番に見ていきたいと思います。

普及が進む「家庭用蓄電池」

最初に、エネルギーマネジメントの分野で使われている蓄電池について簡単に説明しておきます。この分野で活用されている蓄電池は、大きく「家庭用蓄電池」と「産業用蓄電池」に分けられます。まず家庭用蓄電池について解説しておきましょう。

家庭用蓄電池は、後ほど詳しく説明するスマートハウス「ZEH(ゼッチ)(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」などで使われたり、災害が起こったり停電した時など、家庭における非常時のバックアップ電源として活用されている蓄電池です。

この家庭用蓄電池は、さらに「定置式蓄電池」(据え置き型)と「移動式蓄電池」(ポータブル型)に分けられます。定置式蓄電池はスマートハウスの主要機器として使われています。種類は様々ですが、主に急速充電できるリチウムイオン電池が使われています。主な国内メーカーは、シャープ、パナソニック、京セラ、オムロンなどです。

家庭向け定置式蓄電池の本体価格は、基本的に蓄電容量の大きさに比例しますが、数十万円程度のものから数百万円するものまで様々です。購入・導入を考える際には、本体価格はもちろんですが、蓄電容量や工事費用なども考慮しつつ選ぶ必要があります。

家庭での使用電力量に対して蓄電容量が少ないと、使用可能時間が少なくなってしまう上、蓄電回数が増えるので本体の劣化が早まります。しかし蓄電容量が大きくなると、本体価格も導入費用も高くなります。導入にあたっては、実際に普段どれくらい電気を家庭で使用しているのかをしっかりと調べ、どれくらいの容量がある蓄電池が必要なのかを検討することが大切です。

また定置式蓄電池には、モニタリング機能や太陽光発電との連携機能、売電している間は放電を行わない機能など、多種多様な機能が搭載されています。当然機能が多いほど価格は高くなるので、必要な機能を検討することも大事です。

次に移動式蓄電池(ポータブル型)ですが、主な用途は停電時など「緊急時の一時利用」です。東日本大震災時にもスーツケースのように持ち運べる移動式蓄電池が活躍しました。ただ移動式蓄電池は非常用電源には適していますが、日常的に使う蓄電池(定置式蓄電池)に比べると容量が小さいことがデメリットです。

多くの移動式蓄電池は定置式蓄電池よりも低価格です。最近では、ネット通販などでも軽量で超小型、比較的安価な蓄電池が販売されています。また複数台接続することで容量を増やせる機種も登場しています。

家庭用蓄電池は本体価格が高額な上、設置に多額の費用を要することから、これまであまり普及が進みませんでした。しかし東日本大震災後に家庭用蓄電池の導入を支援する補助金制度がスタートし、これを契機に販売台数が大きく伸びました。ところが、2015年度をもってこの補助金制度が廃止された結果、2016年度には需要が急減。その後、後述する住宅用太陽光発電の「2019年問題」(=卒FIT)を背景に再び販売台数が伸びました。今後も太陽光発電システムと組み合わせた蓄電池導入が増加すると期待されています。

家庭用蓄電池はまだまだ高額ですが、国は電力の自家消費を推進していますから、今後、企業努力や補助金等によって、さらに安くなっていくと予想されます。

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