蓄電池×エネルギーマネジメント 第3回

2024年04月15日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

蓄電池×エネルギーマネジメント 第3回の写真

EVと並んで蓄電池と大きな関わりのある「エネルギーマネジメント」にテーマを絞って、蓄電池の今と未来を全6回に渡ってご紹介していきます。

執筆者:一般社団法人エネルギー情報センター
理事 江田健二

富山県砺波市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)に入社。エネルギー/化学産業本部に所属し、電力会社・大手化学メーカ等のプロジェクトに参画。その後、RAUL株式会社を起業。主に環境・エネルギー分野のビジネス推進や企業の社会貢献活動支援を実施。一般社団法人エネルギー情報センター理事、一般社団法人CSRコミュニケーション協会理事、環境省 地域再省蓄エネサービスイノベーション委員会委員等を歴任。

記事出典:書籍『2時間でわかる 蓄電池ビジネスの未来: ウィズコロナ時代に拡大する20兆円市場に注目せよ!』(2020年)

太陽光発電の「卒FIT」と蓄電池

先ほど、住宅用太陽光発電の「2019年問題」(卒FIT)を背景に、2017年度から蓄電池の販売台数が伸びたとお話ししました。家庭用蓄電池の市場においては、この「2019年問題」が重要なキーワードとなります。2019年問題とは何かというと、2019年11月以降、太陽光発電の固定価格買取期間が満了する人が大量に出てくることを指しています。「太陽光発電でつくった電気のうち、余った分を10年間同じ金額(固定金額)で買い取りますよ」という余剰電力買取制度(FIT)が始まったのが2009年11月で、それからちょうど10年経つというわけです。この固定買取期間が満了することを「FIT(固定価格買取制度)を卒業する」という意味で「卒FIT」とも呼ばれているのですが、卒FITの対象者は約56万件ともいわれています。

ではなぜ「卒FIT」が問題になるかというと、2019年11月以降、売電価格がいくらになるかが未決定であり、しかも、売電価格は当初いわれていた24円/kWhを大幅に下ると予想されているからです。ちなみに、卒FIT後の売電価格は各電力会社が自由に設定するとのことです。こうした買取価格の下落は、FITによる売電収益に期待していた人々にとって大打撃です。しかも、電力会社から買う電気代はさらに上昇する可能性が高いと見られており、今後、太陽光発電は「売る」よりも自分たちで「使う」方が得になるといわれています。

こうした背景があり、太陽光発電システムと蓄電池は、これまでの電力会社への売電を中心とした使い方から、「蓄電池を使って自宅で消費する使い方へシフトしていく」と思われます。そこで電気を貯めて効率的に使える蓄電池の重要性にさらに大きな注目が集まっているのです。

さらに、太陽光発電設備を設置してから10年経つと、多くのパワーコンディショナーが買い替えの時期となります。そこで、パワーコンディショナーの買い替えタイミングに合わせて蓄電池を交換、または新規購入しようと考える人が急増すると見られています。

卒FITを機に、家庭用蓄電池のニーズが今後さらに高まると当時に、今後、蓄電池を活用した新しいビジネスが生まれてくるのではないでしょうか。

スマートハウス関連企業の取り組み

ここで、スマートハウスの分野で様々な新しい製品・サービスを展開している企業の事例を紹介しておきましょう。注目したいのは、拙著『エネルギーデジタル化の最前線2020』でも取り上げている大和ハウス工業と積水化学工業、そしてネコリコです。

大和ハウス工業はコネクテッドホームの自社ブランド「ダイワコネクト」を2018年より提供しています。コネクテッドホームとは、家電製品、空調設備、照明、防犯設備などがIoTによって統合的に接続され、モバイル端末等でそれらを制御できる仕組みを備えた住宅のことです。

ダイワコネクトには、例えば声でシャッターやカーテンをコントロールできるといったシステムが搭載されていますが、今後は建物と居住者の健康にフォーカスした機能を追加していく方針とのことです。

また同社は蓄電池や家庭用燃料電池「エネファーム」の設置提案を積極的に行っています。エネファームは、節電のメリットだけでなく、災害時に発生する停電対策としても有効です。同社が推奨する蓄電池が1台あれば、災害停電時でも家庭にある主な家電製品を約20時間利用することができるといいます。また1台の蓄電池に加えてエネファームを設置することで、10日間の給湯暖房が可能になるそうです。

一方、積水化学工業は、大容量ソーラー、蓄電システム、コンサルティングHEMSを搭載した同社独自のスマートハウス「スマートハイム」を提供しています。また同社では、スマートハイムの独自コンサルティングHEMS「スマートハイム・ナビ」を提供。このHEMSは、複雑なエネルギー状況を簡単に把握でき、ムダをラク&効率的に発見でき、効果的なアドバイスまで受けられる、というものです。

積水化学工業が目指しているのは、住宅そのものの性能向上に加えて、省エネ設備、太陽光発電システムを搭載し、光熱費ゼロ、エネルギー収支ゼロ、電力不安ゼロの「3つのゼロ」を目指した高性能住宅です。さらにEVを活用したV2Hのシステムも強化し、災害に強く、エネルギー自給率100%の住宅の導入と新製品を次々と展開しています。

ネコリコは2018年に、中部電力とインターネットイニシアティブ(IIJ)が共同出資で設立した会社です。同社は「家と話すように暮らす」をコンセプトに掲げ、暮らしを便利で快適にするIoTプラットフォームの提供を行っています。

同社が提供する主力サービスは「necolico HOME+」(ネコリコホームプラス)。登録者の部屋の環境状態をLINEメッセージでお知らせしたり、LINEから家電を操作できるサービスです。このサービスの特徴は、温度や湿度など生活環境に関するデータをもとに最適な生活環境を考察して、利用者へのLINEメッセージにより暮らしをより良くする点にあります。インターフェースにLINEを用いることで、家と会話しながら快適な環境を創出することができます。今後は蓄電池制御を含めたエネルギーマネジメントも視野に入れた取り組みを行っていくとのことです。

はてなブックマーク

執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センターの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。

企業・団体名 一般社団法人エネルギー情報センター
所在地 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F
電話番号 03-6411-0859
会社HP http://eic-jp.org/
サービス・メディア等 https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET

関連する記事はこちら

電力情報サービス「QUICK E-Power Polaris」の特徴や今後の展開についての写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2024年04月19日

新電力ネット運営事務局

電力情報サービス「QUICK E-Power Polaris」の特徴や今後の展開について

QUICK社が提供する電力情報サービス「QUICK E-Power Polaris」は電力事業者向け情報をオールインワンで収集・可視化・分析できます。今回は「QUICK E-Power Polaris」の特徴や今後の展開についてについてご紹介します。

蓄電池×エネルギーマネジメント 第3回の写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2024年04月15日

新電力ネット運営事務局

蓄電池×エネルギーマネジメント 第3回

EVと並んで蓄電池と大きな関わりのある「エネルギーマネジメント」にテーマを絞って、蓄電池の今と未来を全6回に渡ってご紹介していきます。

エネルギーデジタル化の最前線 第22回の写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年08月21日

新電力ネット運営事務局

エネルギーデジタル化の最前線 第22回

積水化学工業(大阪市北区)は年間約10,000棟の戸建てを供給する大手ハウスメーカーだ。住宅そのものの性能向上に加えて、省エネ設備、太陽光発電を搭載し、光熱費収支ゼロ、エネルギー収支ゼロを目指した高性能住宅を展開している。さらに、蓄電池やV2Hといった蓄電技術を強化し、災害のレジリエンスを高め、昼も夜も電気を自給自足できる住宅を目指す。今回は積水化学工業の取り組みを紹介する。

エネルギーデジタル化の最前線 第21回の写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年07月16日

新電力ネット運営事務局

エネルギーデジタル化の最前線 第21回

前編から引き続き、大和ハウス工業(本社大阪市)のIoTに対する取り組みを紹介する。(後編)

エネルギーデジタル化の最前線 第20回の写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年06月20日

新電力ネット運営事務局

エネルギーデジタル化の最前線 第20回

コネクティドホームや、蓄電池やエネファームを組み合わせることで、より災害に強い住宅を実現するなど、エネルギーデータを活用した先進企業として、大和ハウス工業を紹介する。(前編)

 5日間でわかる 系統用蓄電池ビジネス ビジネス屋と技術屋が一緒に考える脱炭素