スマホでサンマが焼ける日ーコラムー第7回 電気を収穫する「エネルギーハーベスティング」という発想

2020年11月05日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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周りの環境から採取できる微小なエネルギーを収穫して、電力に変換する技術エネルギーであるエネルギーハーベスティングが普及すれば、効率的に電気を使うことができます。

執筆者:一般社団法人エネルギー情報センター
    理事 江田健二

富山県砺波市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)に入社。エネルギー/化学産業本部に所属し、電力会社・大手化学メーカ等のプロジェクトに参画。その後、RAUL株式会社を起業。主に環境・エネルギー分野のビジネス推進や企業の社会貢献活動支援を実施。一般社団法人エネルギー情報センター理事、一般社団法人CSRコミュニケーション協会理事、環境省 地域再省蓄エネサービスイノベーション委員会委員等を歴任。

記事出典:書籍『スマホでサンマが焼ける日 電気とエネルギーをシェアする未来の「新発想論」』(2017年)

電気もみんなでシェア(共有)する時代に

こうした分散型発電が普及すると、いろいろなメリットが生まれます。一つは電気を送るときに生じるロス(無駄)がなくなるということです。あまり知られていないのですが、電気は電線を通って送られるときに、電線との抵抗によってロスが発生します。山の中の発電所で発電した電気を、電線を使って何百キロも離れた場所に電気を送ると、その途中で水漏れのように少しずつ電気の量が減っていってしまうのです。しかし分散型発電によって電気を使う場所のすぐ近くで発電すれば当然電気の移動距離も縮まるため、これまでのようなロスが大幅に減ります。電力の輸送(送電)がより効率的になるのです。

分散型発電のもう一つのメリットは、急に電気が必要になったとき柔軟に電気の調達ができる、ということです。日本で最も電力需要が高まるのは、夏の甲子園が開催される約2週間だそうです。今までは、1年のうち、このたった約2週間に備えて各地域の大型発電所の設備を準備し、その時期に必要となる電力に間にあうよう発電してきました。しかし分散型発電が普及すれば、各地域または各自で使いたい分を使いたいだけ発電できるので、そうした対応も必要なくなります。しかも、普段の生活で使わずに余っていた電気を蓄電池に貯めておくことができれば、その時期の電気を近所の人同士で融通し合ったりすることも可能です。

こうしたことが可能になれば、大型発電所の設備投資も小さくて済みます。これはある意味で、電力自由化以降に注目されている「仮想発電所」(VPP)的な発想です。最近なにかとVR(仮想現実)技術が話題になっていますが、電力・エネルギーの世界でもこの「バーチャル」(仮想)がキーワードになっているのです。

VPPとは、各地に分散している小規模な再エネ発電や蓄電池、燃料電池等の設備と、電力の需要を管理するネットワーク・システムをIoTを活用して統合制御し、あたかも一つの発電所のように機能させることをいいます。真ん中に大きな電気のプールがあって、そこにみんなが電気を入れて使う人は使ってその入れた電気と出た電気を数値的に合わせるというイメージ、考え方です。VPPは、電力の活用方法をシステム化・効率化する上でも、またエネルギーハーベスティングなどによって作られた電気の有効活用にとっても、これから非常に重要な存在となっていくはずです。

VPPのメリットは、一つ一つでは小規模な発電施設や制御システムでも、それらを最新のIT技術によって連動させることで、電力網の需給バランスを最適化できるところにあります。VPPを活用すると、これまでは電力を使うだけだった消費者が、時には電力供給する供給プレイヤーにもなるということが可能です。消費者が節電や自家発電によって電力消費を減らした分を発電したものとみなして、電力会社が買い取ったり市場で取引したりすることを「ネガワット取引」といいますが、それを制御するのもVPPの使い方の一つです。

電力システムももっと金融と同じような考え方をすれば、電力・エネルギーの効率化が進むのではないかと思います。ただ、今までそれができなかった理由はスマートメーターがなかったからです。これからはスマートメーターの「電気のデジタル化」によって、お互いがどれだけ電気をあげたか貰ったかが分かり、電気を融通し合う、分け合うといった電気のシェアができるようになるのです。電気のデジタル化と分散型発電、VPPの普及などによって「電力・エネルギーのシェア」という新しい考え方、文化が生まれ広がっていくと私は考えています。

電気を収穫する「エネルギーハーベスティング」という発想

「エネルギーハーベスティング」について詳しく説明します。エネルギーハーベスティング技術とは、人やモノの振動、照明の光や熱など、周りの環境から採取できる微小なエネルギーを収穫(ハーベスト)して、電力に変換する技術のことです。「環境発電技術」とも呼ばれていて、世界市場規模は2012年の5億ドルから2020年頃には50億ドル以上に伸びると予想されています。

たとえば歩く、階段を登る、自転車をこぐ、はたまたキーボードを叩くといったエネルギーで発電できたら面白いと思いませんか?実際、イスに座っていて貧乏揺すりをしたときに発電されて、その電気を携帯に充電できるイスが販売されたそうです。これはかなりユーモラスな発想ですが、そうしたちょっとした揺れでも発電できる技術が生まれ始めているのです。また、フィットネスクラブで運動したエネルギーでフィットネスクラブの明かりをつけるとか、子どもがスポーツクラブの運動で発電した分、会費が安くなるとか、いろいろと面白い発想が生まれてきます。

将来、スマートフォンにも発電装置が付いていて、スマートフォンを振るだけで発電できてしまう、というシステムも開発されるかもしれません。また人が話をしている声(音声)を電気エネルギーに変換できる「音力発電」というものを研究開発している会社がありますが、こうしたシステムがスマートフォンに搭載されていれば、おしゃべりしているだけで発電できてしまうわけです。

エネルギーハーベスティングによって得られるエネルギーの量は大型発電システムなどに比べるとそれほど多くありません。ですが今後IoT化で様々な製品が微小な電力を消費することになると、エネルギーハーベスティングで小まめに発電した電気を小まめに上手く使うシステムができればとても効率的ですし、省エネルギーにも貢献できます。

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