フィルム型次世代太陽電池の発電効率が、既存太陽電池と同等の15%を実現!実用化に向けた動向とエネルギーハーベスティングの可能性
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2022年02月02日
一般社団法人エネルギー情報センター
昨年末、NEDOが次世代型太陽電池の実用化に向けて6件のプロジェクトを採択したことを発表しました。そこで今回は、次世代型太陽電池の最新事例と、その技術を応用した環境発電(エネルギーハーベスティング)の可能性について考えていきます。
次世代型太陽電池の開発に5年間で200億円
2021年12月28日に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、グリーンイノベーション基金事業の一環として「次世代型太陽電池の開発」の6件のプロジェクトを採択し、着手すると発表しました。採択されたプロジェクトの事業期間は2021年度~2025年度の5年間。予算額は200億円(全体498億円の内数)とのことです。
以下は、「グリーンイノベーション基金事業/次世代型太陽電池の開発」の次世代型太陽電池実用化事業の実施テーマと実施予定先です。
- テーマ:超軽量太陽電池R2R製造技術開発
実施予定先:積水化学工業、東京大学、立命館立命館大学 - テーマ:フィルム型ペロブスカイト太陽電池実用化技術
実施予定先:東芝、東京大学、立命館立命館大学 - テーマ:設置自由度の高いペロブスカイト太陽電池の社会実装
実施予定先:エネコートテクノロジーズ、京都大学 - 高効率・高耐久モジュールの実用化技術開発
実施予定先:アイシン、東京大学 - テーマ:高性能ペロブスカイト太陽電池技術開発
実施予定先:カネカ
これらのプロジェクトでは、耐荷重の小さい工場の屋根やビル壁面など、既存の技術では設置が難しかった場所にも導入することを目指しています。そのために、軽さや建物の曲面などにも設置できる柔軟性を持たせるだけでなく、変換効率や耐久性などの性能面でも既存電池に匹敵する次世代型太陽電池の実用化を掲げています。
発電効率も向上、次世代型太陽光電池とは
そもそも、次世代型太陽光電池とはどのようなものなのでしょうか。現在主流な既存の太陽光電池は以下の写真のように、シリコン(Si)系太陽電池で、大きなパネル(モジュール)が印象的です。
次世代型太陽光電池には、色素増感太陽電池(DSSC)、有機薄膜太陽電池(OPV)、ペロブスカイト太陽電池などの種類があります。
中でもペロブスカイト太陽電池の注目度は高いです。ペロブスカイトは、ペロブスカイト結晶の層等を基板に塗布して形成する太陽電池で、現在一般的に使用されている結晶シリコン太陽電池よりも軽量で厚みを約100分の1にできるほか、折り曲げて多様な場所に設置することも可能です。
2008年に日本(桐蔭横浜大学)で生まれ、2021年秋、量産が始まり研究開発が急速に進み、結晶Si太陽電池が約60年かかって辿り着いた変換効率25%をまだ数mm角の小セルとはいえ、10年あまりで達成したことは、他の太陽電池技術にない速さです。大面積モジュールの性能面では、東芝やパナソニックなど日本企業がリードしていますが、多数の中国企業を含む世界中の企業がそのすぐ後ろから追い上げている状況です。
2021年09月10日、東芝は、新たな成膜法を開発することにより世界最高のエネルギー変換効率15.1%を実現したフィルム型ペロブスカイト太陽電池を開発したと発表しました。同社は、2018年6月にペロブスカイト太陽電池として世界最大サイズのモジュールを開発していますが、この世界最大サイズを維持しながら、変換効率の向上に成功しました。15.1%は、現在普及している多結晶シリコン型の太陽電池のエネルギー変換効率に相当します。
国内に導入されている最新の太陽光パネル
では、国内で導入されている最新の太陽光パネル事例を3つご紹介します。
1.岡山市の旭電業第二本社ビル
2018年9月太陽工業は、旭電業第二本社ビル(岡山市)の東面と南面の全面に、太陽光を透過するシースルー太陽電池パネル合計867枚を設置しました。同パネルを使用したビルでは日本最大級の規模ということです。シースルー太陽電池パネルは従来の窓と同様に屋外への視界を確保しつつ、室内に太陽光を取り込みます。太陽光発電機能に加え、遮熱、断熱、紫外線の99%カット、結露防止などの機能を備えています。
2.国立競技場
カネカは2020年2月4日、結晶系シースルー太陽電池が東京オリンピック・パラリンピックの会場となる国立競技場の天井用建材として採用されたと発表した。今回採用されたシースルー太陽電池は、一般建築物の天窓、窓などの開口部向けに開発されたもの。透明のガラス窓のような意匠を備えながら太陽光発電が可能で、採光性と眺望性を確保できます。
学校法人海城学園サイエンスセンター(理科館)
2021年9月、東京都新宿区の学校法人海城学園では、新たに建築されたサイエンスセンター(理科館)屋上の温室に、室内側から取り付ける内窓として導入されたと報道されました。inQsが開発した無色透明形光発電素子技術(SQPV:Solar Quartz Photovoltaic)を活用した「無色透明発電ガラス(以下:発電ガラス)」で、NTTアドバンステクノロジが販売しているものです。
発電ガラスは無色透明で、両面からの日射に対して発電できます。このため、既存温室の内側に設置しても採光や開放感への影響を与えることなく発電が可能です。また天窓を含め、さまざまな角度からの日射でも発電できるということです。一般のガラスが使える全ての用途に発電と遮熱という機能をつけて利用できます。
生活の中にある小さなエネルギーを取り出し活用していく時代に。エネルギーハーベスティング技術の進化
このように設置自由度の高い次世代型太陽電池の社会実装が進むと、新たな可能性が色々な場所で生まれてきます。その一つにこれまで利用されていなかった生活の中にある小さな発電(エネルギー)を取り出し活用していく環境発電(エネルギーハーベスティング)の進化があると考えています。
そもそも、さまざまなものがインターネットにつながるIoT社会の進展に向けて、周辺環境に存在する光や熱、振動などから発電するエネルギーハーベスティングや、充電を必要としない自立型電源が求められています。中でも、太陽電池は光があればどこでも発電できることから有望視されています。
例えば、アメリカのミズーリ州やフランス・ドイツなどの欧米では、道路の表面にソーラーパネルを敷設し、道路自体が発電をするという取り組みが積極的に進んでいます。フランスの「ソーラーロード」のパネルモジュール自体は厚さがわずか数ミリメートルと極薄でありながら、非常に頑丈にできています。舗装道路の上にそのまま装着できるため、大掛かりな道路工事は必要ありません。
国内では、リコーのEnergy Harvesting事業センターではLEDなど室内など微弱な光でも発電できる電池の開発を進めています。IoT機器や、小型のエッジデバイスへの利用が想定されています。例えばPC用マウスや、テレビのリモコン、超小型の環境センサーも商品化しています。
配線の必要がない超小型の環境センサーを活用して、あらゆる場所に設置して、無線通信ネットワークでつなぎ、データや情報が収集できるようになれば、IoTの活用範囲が広がります。また、電力コストの削減に加え、電力を供給する配線が不要になるので工事コストも抑えられます。大規模な工場や商業施設などの建設や改築など、エネルギーハーベスティング技術を利用したセンサーネットワークの構築が魅力的な選択肢となるでしょう。
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執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
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