系統用蓄電池のアグリゲーションについて|系統用蓄電池ビジネス参入セミナーアーカイブ
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2025年03月26日
一般社団法人エネルギー情報センター

2025年2月26日開催のオンラインセミナー「系統用蓄電池ビジネス参入セミナー」にて、デジタルグリッド株式会社の豊田祐介氏が講演した「系統用蓄電池のアグリゲーション」について、その要約をご紹介します。
デジタルグリッドの紹介
デジタルグリッドは、「電力を生む発電家」と「電力を使う需要家」が電力を直接売買できるシステムを提供するプラットフォーム企業です。グローバル企業、エネルギー関連企業、製造メーカーなど、多くの株主の皆さまにご支援いただいています。
私たちは、電力取引のあり方を変えるデジタルグリッドプラットフォーム事業、調整力の収益を最大化する調整力事業、そしてGX人材の育成を支援する「GX navi」という3つの事業を展開しています。
その中でも、調整力事業の一環として蓄電池の最適運用(アグリゲーター事業)に取り組んでいます。系統用蓄電池の運用を最適化するため、収益最大化のためのアルゴリズムやシステムを開発し蓄電池運用サービスを提供しています。具体的には卸電力市場・需給調整市場・容量市場への入札方針を決定しながら、蓄電池の充放電を適切にコントロールしています。この系統用蓄電池事業については、2022年にライセンスを取得し、2024年から運用を開始しました。アグリゲーターの主な業務は、蓄電池の運用計画を立て、最適な運用を実現することです。その際、分散電源をまとめて効率的に管理することが重要な役割となります。特に、蓄電池をいかに効率よく運用するかがポイントになります。アグリゲーターは、蓄電池の運用から得られた収益に応じて、手数料を受け取るというビジネスモデルが一般的です。
昨年から運用を開始して実感したのは、市場に参入する前の準備が想像以上に大変だということです。各系統用蓄電所の設備(蓄電池・パワコン・EMSなど)が異なるため、それぞれに適した設定を行う必要があります。特に、現在の系統用蓄電池には統一規格がないため、正式運用までの準備には大きな労力がかかります。そのため、アグリゲーターを選ぶ際には、運用計画の立案力だけでなく、各市場に確実に接続できるノウハウや経験を持っているかも重要なポイントになります。アグリゲーターを選ぶ際は、市場ごとに適応できる体制を整えているかを確認することが大切です。
活用する3つの電力取引市場の概要
各市場の今後について話したいと思います。1つ目のJEPX(卸電力市場)では、過去10年の推移を見ても、太陽光が発電する日中の電力価格が下落し続けており、この10年間で約半減しました。太陽光発電の普及が進むにつれ、高値と安値の差も広がる傾向にあります。
ただし、JEPXの価格差はエリアごとに大きく異なります。例えば、東京エリアなどでは、JEPXのアービトラージ(価格差を活用した取引)だけで系統用蓄電池事業の収益を十分に確保するのが難しい年もあります。しかし、長期的に見ると、この価格差は太陽光発電等の普及に伴い拡大する可能性があります。
2つ目のEPRX(需給調整市場)は、電力の需要と供給を一致させるための「調整力(ΔkW)」を取引する市場で、5つの商品が取引されています。系統用蓄電池事業にとって、主要な収益源となる市場です。この市場では、マルチプライスオークション方式が採用されており、落札価格が参加者によって異なるため入札価格の設定が重要なポイントになります。取引は、ΔkWの価格が安い順に約定し、kWhの価格が安い順に発動指令が出される仕組みです。需給調整市場は、エリアごとに募集量に大きな差があることを認識しておく必要があります。例えば、三次調整力②に関しては、FIT電源の調整力が募集目的のため、FIT電源の多い地域である東京電力管内や九州電力管内で募集量が多くなっています。
3つ目の容量市場です。容量市場は、4年後の供給力(kW)を取引する市場で、年に1回入札が行われます。応札した蓄電池は、発動指令電源として参加することが多く、対応できない場合はペナルティが課せられます。市場価格は年ごとに変動しますが、平均すると8,000円程度で足元は推移しています。
過去3年間の実績に基づく収益シミュレーション
系統用蓄電池への参入を検討する事業者から、シミュレーションの依頼を多く受けています。私たちは、各市場から得られる収益と蓄電池の運用コストについて一定の前提を設定し、試算を行っています。収益の主力は需給調整市場であり、エリアや年度によってばらつきはあるものの、多くのケースで10%以上のIRRを見込むことが可能です。実際にIRRを算出すると、魅力的な数値が出ることが多いですが、シミュレーションには難しい面もあります。特に、系統用蓄電池の事業はFITとは前提が異なり、将来的な部分に不透明な要素があるため、単純にIRRだけで判断するのは危険です。本質的に重要なのは、蓄電所を建設するエリアごとに、各市場の将来性をどの程度見込めるかを見極めることです。
特に需給調整市場の比重は大きく、季節にもよりますが、収益の7~8割程度を占めると考えられます。しかし、市場が未成熟なため、過去データを用いたバックテストによるシミュレーションの精度には不確実な部分が残る点も認識しておく必要があります。
EPRXの2024年度の状況について
昨年だけでも、需給調整市場のルールは大きく変わりました。特に2023年後半以降、需給調整市場の約定価格の高騰が資源エネルギー庁から問題視されるようになり、上限価格の見直しが定期的に行われる方針となっています。現在は、一次調整力、二次調整力①②、三次調整力①で上限価格が設定されています。一方で、上限が設定されていない三次調整力②では、引き続き高値での入札が横行していました。これに対する対応として、2024年5月より三次調整力②の募集量が削減されました。実際、高値での約定が目立たなくなりました。
今後の見通しとしては、三次調整力②の募集量削減はあくまで応急措置であり、応札量が増加すれば終了する予定です。2024年4月に運用が開始された一次調整力および二次調整力①では、依然として大幅な調達未達が続いています。その結果、任意の価格で約定できる状況が続いております。特に一次調整力については、参加可能な電源が限られているため、募集量に対して大幅に不足しているのが現状です。そのため、現在の需給調整市場では、一次調整力が主戦場となりつつあります。高圧蓄電所の多くは、専用線を引かず自端制御を行う一次調整力オフラインに参加する形となりますが、この枠が埋まるまでは高確率で約定できると考えられます。実際の取引結果を見ても、まだ市場への参加者は少なく、今後の参入余地が十分にあることが分かります。1つ注意点ですが、系統用蓄電所を建設した後、各市場へ参入するには想定以上の時間がかかることを理解しておく必要があります。市場にすぐ参入できるわけではなく、稼働後も収益化までには半年程度の期間を見込んでおくのが現実的でしょう。市場のルール改定や価格動向が今後も変化することを踏まえ、常に最新の情報を注視することが重要です。
海外の市場(オーストラリア)について
去年、オーストラリアに行ってきたので、向こうのマーケットの話を共有します。
オーストラリアの卸売市場では、ネガティブプライス(マイナスの価格)が存在します。価格の変動幅はマイナス100円から最大1750円、場合によっては1800円に達することもあります。一方、日本の市場では、現在の価格幅は0円から200円程度です。仮にこれが将来インバランス価格の見直しに伴い、将来的に600円まで広げられたとしても、オーストラリアの市場に比べると変動幅は大きく異なります。具体的に比較すると、日本の200円と比べると9倍、600円と比べても3倍の差があります。オーストラリアの市場は、日本と比べてはるかに大きなボラティリティ(価格変動の幅)を持っているのが特徴です。
また、オーストラリアには、日本にはある容量市場がありません。
オーストラリアの需給調整市場について紹介します。オーストラリアと日本では市場環境が異なるため、単純な比較は難しいですが、参考になる点も多くあります。まず、豪州は電力消費量が日本に比べて圧倒的に少なく、一方で、国土が広いため蓄電池用地として潤沢な土地があります。この違いから、オーストラリアの需給調整市場は日本に比べて早く飽和しやすいと考えられています。実際に現在、オーストラリアの需給調整市場は飽和しつつある状況です。オーストラリアの需給調整市場(FCAS)は、発動指令がこない限り収益を得ることができない仕組みになっています。そのため、市場参加者の主要な収益源はFCASではなく、卸電力市場でのアービトラージ取引になっています。現在、価格差は約30円/kWhに達しており、市場の特性を活かして利益を生み出す動きが進んでいます。また、系統用蓄電池を導入する際には、「蓄電池の充電可能時間」が重要な論点になります。需給調整市場だけを考えるなら1時間の蓄電容量でも十分ですが、3〜4時間程度の蓄電容量を確保することで、卸電力市場での収益も見込めるため、より安定した事業展開が可能になります。
日本でも、今後5年、10年、15年と事業を続けるうちに、需給調整市場の競争は激化していくと考えられます。また、再生可能エネルギーの普及が進むことで、卸電力市場の価格変動幅がさらに拡大することも予想されます。こうした市場の変化を見据えると、一定のアワー(蓄電時間)を確保する戦略は、長期的に見ても有効だと考えられます。日本の市場も少しずつ変化しているため、オーストラリアの市場動向を理解することは、今後の事業戦略を考える上で大いに参考になるでしょう。
金融機関の方と話をしたところ、フルマーチャントのファイナンスは現状では難しいという意見がありました。一方で、部分的にオフテイク契約やトーリング契約を活用するケースでは、ファイナンスがつくこともあるようです。特に、トーリング契約がある場合は一定の資金調達が可能になるという話も聞きました。
オーストラリアが参考になる点として、現在の再生可能エネルギーの比率が、日本が2030年に目指している水準に近いことが挙げられます。つまり、日本の5〜6年先の状況をイメージするうえで、オーストラリアの動向は非常に示唆に富んでいます。
現在、オーストラリアでは以下のような市場の変化が起きています。
・再生可能エネルギーの増加により、市場価格のボラティリティ(変動幅)が大きくなっている
・再エネは計画通りの発電が難しいため、需給バランスが不安定になりやすいです
・風力発電の比率が高いが、風が吹かない時間帯にはアービトラージのチャンスが増える
・需給調整市場の収益性は徐々に低下し、右肩下がりの傾向が見られる
もちろん、日本とオーストラリアでは市場環境や制度が異なるため、単純に「日本の未来を見てきた」とは言えません。しかし、再生可能エネルギーの拡大による市場の変化や、需給調整市場の飽和スピードの速さは、日本にとっても参考になる部分が多いと考えられます。
「系統用蓄電池のアグリゲーションについて」講演アーカイブ
系統用蓄電池ビジネス参入セミナーその他の講演について
・系統用蓄電池ビジネスの最前線
株式会社AnPrenergy 代表取締役 村谷 敬 氏
・系統用蓄電池のアグリゲーションについて
デジタルグリッド株式会社 代表取締役 豊田 祐介 氏
・系統用蓄電池の導入事例について
株式会社パワーエックス 執行役 電力事業領域管掌 小嶋 祐輔 氏
・系統用蓄電池での安全面や各種補助金について
電気予報士 伊藤 菜々 氏
運営事務局 おすすめの系統用蓄電池ビジネス教材
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一般社団法人エネルギー情報センター
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