系統用蓄電池ビジネスの最前線|系統用蓄電池ビジネス参入セミナーアーカイブ
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2025年03月18日
一般社団法人エネルギー情報センター

2025年2月26日開催のオンラインセミナー「系統用蓄電池ビジネス参入セミナー」にて、株式会社AnPrenergyの村谷 敬 氏が講演した「系統用蓄電池ビジネスの最前線」について、その要約をご紹介します。
AnPrenergyの紹介
AnPrenergyは、2017年に設立されたエネルギー事業のコンサルティング企業です。
電力事業をはじめ、宇宙事業やワイナリー事業など多岐にわたる分野で企業の成長を支援してきました。特に需給管理に関する専門知識を強みとし、新電力事業者や大手企業、金融機関に対してコンサルティングサービスを提供しています。また、事業の内製化支援や人材教育にも力を入れ、電力ビジネスの基礎講座や専門的な研修プログラムを通じて業界の発展に寄与しています。
近年、エネルギー市場の変化を先取りし、海外の電力ビジネスモデルを調査。特に米国のFluence社など蓄電池ビジネスの先駆企業の取り組みに注目し、国内市場への適用可能性を探求してきました。蓄電池を発電所のように運用する新たなビジネスモデルの可能性を見出し、日本市場への適応に向けた研究を進めています。
また、蓄電池の特性上避けられない劣化問題に対する解決策を模索し、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構と協力して劣化診断技術の開発に取り組んでいます。さらに、蓄電池の収益最大化を図るための管理サービス「ESaaS(Energy Storage as a Service)」の開発支援も行っています。
現在では、系統用蓄電池に関する動画教材の提供や、導入を検討する企業や金融機関向けのセカンドオピニオン業務なども展開。単なるコンサルティングにとどまらず、企業が確実に収益を上げるための実践的なサポートを行っています。
系統用蓄電池ビジネスの前提 第7次エネルギー基本計画
日本のエネルギー政策において、第7次エネルギー基本計画は重要な指針となっています。本計画では、再生可能エネルギーの割合を40~50%へと引き上げる目標が掲げられています。これはカーボンニュートラルの実現に向けた重要な一歩であり、同時に火力発電の割合を30~40%に引き下げる方針も示されています。
火力発電の減少により、電力の安定供給を支える新たな手段が求められています。その中で、系統用蓄電池は極めて重要な役割を担うことになります。再生可能エネルギーは天候によって発電量が変動するため、電力の需給バランスを調整する蓄電池の導入が不可欠となります。特に東北、九州、北海道のような風力発電が多い地域では、風速の変動による出力誤差を補うための調整力として、蓄電池の役割が今後さらに拡大するでしょう。
この背景を受け、日本では政府や自治体による補助金制度が進められています。SII(一般財団法人環境共創イニシアチブ)や東京都による補助金プログラムが展開されており、2021年からの4年間で合計101件の採択が行われ、約1GWhの蓄電容量が追加されました。特に東京エリアの採択件数が顕著に増加しており、東京都が独自の補助金制度を設けていることが背景にあります。今後、大阪府などでも同様の補助制度が導入される可能性が高いと考えられます。
一方で、蓄電池の経済性や導入拡大には課題もあります。蓄電池は再生可能エネルギーを蓄えるために充電する必要があり、発電所のように単純に放電するだけではないため、稼働率が低くなりがちです。例えば、1GWhの蓄電容量があっても、安定的に運用するには再生可能エネルギーの導入量の2~3倍の蓄電設備が必要とされるケースもあります。
こうした状況を踏まえると、現状の1GWhの増加はまだ十分とは言えず、市場のさらなる成長が期待されます。再生可能エネルギーの導入が進むにつれ、蓄電池市場も拡大し、最終的には一定の飽和点に達することが予想されますが、現時点では引き続き大きな成長余地があると考えられます。
系統用蓄電池ビジネスとは
蓄電池を使ったビジネスとはどういうものなのかというと、さまざまな形態があります。系統用蓄電池は、蓄電池を発電所のように見立て、電力市場や発電所から電気を購入し、充電した後、その電気を市場や新電力などに販売することができます。
このビジネスを取り巻く関係者としては、蓄電池事業者、蓄電池ベンダー、蓄電池に関する各種サービスを提供するサービサーなどがいます。
蓄電池事業者について
系統用蓄電池事業を始める動機は、大きく分けて4つあると考えられます。
1.事業の収益源としての活用 これは、電力ビジネスのノウハウがあり、自社なら安く電気を仕入れ、高く売るタイミングを把握している事業者にとって、大きな収益の柱となる可能性があるからです。例えば、太陽光発電や新電力事業で成功している企業が、この事業に参入するケースが見られます。
2.再生可能エネルギーの普及促進 再生可能エネルギー(再エネ)の比率を増やすために蓄電池を活用する企業や自治体があります。コーポレートPPAを拡充し、太陽光発電などの電力を無駄なく供給するために系統用蓄電池を導入するケースもあります。
3.市場価格の変動リスク対策 市場価格の高騰時に安い時間帯の電気を貯め、高騰時に放電することで、価格変動の影響を抑える目的で導入する新電力事業者もいます。特に、市場高騰リスクを避けたい中小の新電力事業者や市場連動型の電力販売を行っている企業にとって有効な手段となります。
4.土地活用の手段 遊休地の活用や、利益を見込んで蓄電池を設置する事業者もいます。例えば、FIT(固定価格買取制度)で太陽光発電に成功した企業が、次なる投資先として蓄電池事業に参入するケースが挙げられます。物流倉庫や店舗などが該当しやすいでしょう。
また、特別目的会社(SPC)モデルの活用も進んでいますが、地域金融機関などにはまだ十分浸透していないため、2026年〜2027年頃に他の企業の動向や利回りを見ながら参入を決める動きが予想されます。一方、英国ではすでに系統用蓄電池ファンドが証券市場で上場し、再エネファンド(太陽光・風力)と比較しても高いリターンを記録しています。利回りは約10%とされています。
系統用蓄電池ビジネスのライフサイクル
現状では「ファーストマーケット」といえる段階にあります。日本国内のイノベーターとして、関西電力やオリックスが先駆的に大規模な蓄電池事業を展開しており、それに続く形で総合商社、都市ガス、大手石油会社などが参入しています。
しかし、系統用蓄電池ビジネスがメインストリームに進むためには、いくつかの課題(キャズム)を超える必要があります。
1.収益の確実性
2.リチウムイオン電池の安全性(火災リスクなど)
これらの問題が解決されれば、アーリーマジョリティやレイトマジョリティの参入が進み、日本の系統用蓄電池市場は大きく成長すると考えられます。
ベンダー・サービサーの役割
蓄電池システムは、以下のような構成要素で成り立っています。
•セル → モジュール → ラック → コンテナ(収納)
•パワーコンディショナー(PCS)
•エネルギーマネジメントシステム(EMS)
蓄電池システムの性能は、劣化率、発火抑制能力、充放電効率、応動能力(瞬時の対応力)など、複数の観点で評価されます。
現在、日本国内には30社以上の蓄電池ベンダーが存在し、それぞれ特徴があります。そのため、特定の企業とだけ取引するのではなく、多角的に評価して最適な組み合わせを選ぶことが重要です。
また、EPC(設計・調達・建設)事業者の知見も活用し、充放電効率が高くなるようなシステム設計を行うことが望ましいでしょう。
注意点
蓄電池システムの構成を誤ると、不利益を被ることがあります。 例えば、市場取引に対応できないEMSを選んでしまうと、一部の市場でしか取引できず、収益機会が制限されてしまいます。特に、アグリゲーターが活用するACシステムの適合性も確認する必要があります。
そのため、蓄電池システム全体やアグリゲーターの性能・運用ノウハウを正しく理解し、最適な運用ができるようにすることが重要です。
系統用蓄電池ビジネスの収益構造
収益の仕組みとは?
系統用蓄電池ビジネスでは、どのように売り、どれだけの収益が得られるのかを理解することが重要です。収益の仕組みは調達と売電先に分かれ、主に容量確保契約金(容量市場)、JEPX(日本卸電力取引所)での値差取引、需給調整市場での報酬の三つの要素で構成されています。
容量市場とは?
容量市場では、蓄電池が存在していること自体に価値がつきます。これは、電力需要が高まった際に放電できる能力そのものに報酬が与えられる仕組みです。たとえば、東京エリアでは出力能力が1990kWあった場合でも補正値により1400kW相当まで減少し、その他のエリアでは80~90%程度が反映されることがあります。この補正後の出力に単価を掛けた金額が年間の収益となり、蓄電池ビジネスの基盤収入になります。
JEPX(値差取引)とは?
JEPXでは、電力を安く買い、高く売ることでアービトラージ(値差取引)の利益を得ることが可能です。たとえば、容量8000kWhの蓄電池で6000kWhを充電・売電する場合、充電価格の平均が0.2円/kWh、売電価格の平均が12.2円/kWhであれば、売電単価から充電単価を引いた12.0円/kWhの利益が生まれ、6000kWhの売電で72,000円の収入となります。市場は30分単位で取引されるため、東京エリアでは価格が高止まりしやすい一方、九州エリアでは昼間の電力価格が安くなるなど、エリアごとの価格変動を考慮することが利益最大化の鍵となります。
需給調整市場とは?
需給調整市場は、電力の「同時同量」を維持するために設立された市場です。電力の供給と需要が一致しないと停電のリスクが発生するため、送配電事業者は常に需給バランスを調整する必要があります。特に太陽光発電は天候による変動が大きく、その影響を抑えるために蓄電池の活用が重要になります。需給調整市場では、電力の出し入れを行う権利が取引され、レストランの予約に例えると「予約報酬」と「実際の利用報酬」の二つの収益モデルが存在します。
取引市場の選定と運用
系統用蓄電池ビジネスでは、どの市場でどのように取引を行うかが鍵となります。主要な取引市場として、JEPX(値差取引)、容量市場(存在価値に対する報酬)、需給調整市場(ΔkW取引による電力調整能力の報酬)があります。市場のトレンドを読みながら、季節や時間帯に応じて最適な市場を選定し、柔軟に運用方針を切り替えることが求められます。たとえば、春・秋は需給調整市場とJEPXの組み合わせが有効であり、夏は容量市場とJEPXの活用、冬は一次調整市場の重視が適しています。このように市場の特性を活かした戦略が必要です。
系統用蓄電池ビジネス成功のポイント
成功するためには、価格と性能のバランスが取れた蓄電池を選定すること、市場の動向を把握し適切なアグリゲーターを選ぶこと、収益の高いエリアでの運用を行うことが重要です。蓄電池ビジネスは株式取引や為替取引に似た市場特性を持つため、最適な戦略を立てることが成功の鍵となります。アグリゲーターの運用状況を定期的に確認し、収益の最大化を目指すことが求められます。
「系統用蓄電池ビジネスの最前線」講演アーカイブ
系統用蓄電池ビジネス参入セミナーその他の講演について
・系統用蓄電池ビジネスの最前線
株式会社AnPrenergy 代表取締役 村谷 敬 氏
・系統用蓄電池のアグリゲーションについて
デジタルグリッド株式会社 代表取締役 豊田 祐介 氏
・系統用蓄電池の導入事例について
株式会社パワーエックス 執行役 電力事業領域管掌 小嶋 祐輔 氏
・系統用蓄電池での安全面や各種補助金について
電気予報士 伊藤 菜々 氏
運営事務局 おすすめの系統用蓄電池ビジネス教材
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一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
---|---|
所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
電話番号 | 03-6411-0859 |
会社HP | http://eic-jp.org/ |
サービス・メディア等 | https://www.facebook.com/eicjp
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