車載用リチウムイオン電池の市場、2025年に254.9GWhへ拡大、矢野経済が予測
政策/動向 | 再エネ | IT | モビリティ | 技術/サービス | 金融 |
2017年10月24日
一般社団法人エネルギー情報センター
10月20日、矢野経済研究所は車載用リチウムイオン電池世界市場の調査を実施したと発表しました。2016年の車載用LiB世界市場は46.6GWhですが、各国が内燃機関車の新車販売を禁止する動きなどにより、2025年には254.9GWhに拡大すると予測されています。
EV普及に伴い車載用リチウムイオン電池の市場も拡大する予測
ドイツが2030年から、イギリスとフランスは2040年から内燃機関車の新車販売を禁止すると発表するなど、各国の環境規制が更に厳しさを増しています。各国政府はxEVを推進するため、補助金や優遇策を実施しており、そうしたEV普及の後押しは2020年まで継続される予定です。
また、米国のカリフォルニア州のようにxEVの販売義務比率を徐々に高める政策などが実施され、市場は成長を続ける見通しです。そのため、自動車メーカー各社のxEV新車投入の動きも早まっています。
xEVの市場拡大に伴い、車載用リチウムイオン電池の需要も連動して高まっていきます。その車載用リチウムイオン電池について、矢野経済研究所は、世界市場の調査を実施したと発表しました。2016年の車載用リチウムイオン二次電池の世界市場は46.6GWhですが、各国が内燃機関車の新車販売を禁止する動きなどにより、2025年には254.9GWhに拡大すると予測されています。
調査期間は2017年4月~9月、調査対象は自動車メーカー(日本、欧州、米国、韓国、中国)、車載用リチウムイオン電池メーカー(日本、韓国、中国)です。今回の調査において、車載用リチウムイオン電池とは、xEV(12V・48V マイルドHEV、ストロングHEV、PHEV、EV)に搭載されるリチウムイオン電池となります。また、乗用車及び商用車に搭載されるリチウムイオン電池が対象となります。
9割近くがEV向け、PHEVは1割程度
2016年の車載用リチウムイオン電池の世界市場規模は、前年比152.6%の46.6GWhとなりました。各国政府のEV普及政策、そして中国を中心にPHEVとEVの販売が急拡大したことが、車載用リチウムイオン電池の世界市場の成長を牽引しました。
2016年の市場をxEVタイプ別でみると、EV向けが40.7GWh(構成比87.3%)、PHEV向けが5.3GWh(同11.4%)、HEV向けが621MWh(同1.3%)とEV向けが中心です。前年比で見ると、EV向け156.6%、PHEV向けが133.4%、HEV向けが105.8%となり、EV向けの成長率が最も高いです。
各国政府の積極的なEV普及政策、そして中国においては100~300kWhの大容量LiBパックを用いる電気バス(EV)の販売が拡大したことで、EV向けが高い構成比・成長率となりました。
また、PHEV向けも中国における販売が好調だったことに加え、欧州市場での販売が好調に推移したことで、PHEV向け市場も高い成長率で推移しました。
一方、2017年からは中国政府が新エネルギー車に支給する補助金を20%削減し、かつEVバス向けに対する補助金の支給基準が厳しく変更されています。また近年、xEVの成長に期待して関連する部材、材料の投機的な買い占めなども起きています。
そのため、車載用リチウムイオン電池価格の中心を占める部材価格が下がらず、セルの低コスト化の実現が難しくなっています。そのため、今回の調査によると、2017年における世界市場は引き続き拡大を続けるものの、その成長率はやや鈍化して前年比123.3%の57.5GWhになると想定されています。
また、2025年までの長期的な市場予測においても、車載用リチウムイオン電池の市場は成長を続ける見通しです。しかし、xEVへの補助金が徐々に削減されることや、原材料の価格高騰等、xEVを取り巻く多くの課題が完全には解決されないと想定されています。そのため、2020年における世界市場規模は119.7GWh、2025年には254.9GWhと緩やかな成長に留まると予測されています(図1)。
図1 車載用リチウムイオン電池の世界市場推移と予測 出典:矢野経済研究所
今後の動向①、環境規制の強化や政府の普及政策により拡大が続くxEV市場
エンジン効率の改善や車両軽量化だけでは、環境規制の対応に対し限界があるため、自動車メーカー各社はxEVの開発・普及という解決策を模索しています。
一方で、2017年からはxEVに対する政府の普及支援策は徐々に縮小されていくと想定されています。政府の普及政策が完全になくなるまでは、それに依存する形でxEV 市場は拡大していくと予測されています。
今後の動向②、リチウムイオン電池セルの高容量化、低コスト化への要求が顕著に
xEV市場は拡大が続くものの、依然として高い車両価格や充電インフラの未整備等が本格普及拡大の足かせとなります。そのため、航続距離の延長に向けたリチウムイオン電池セルの高容量化や、電池価格のコストダウンへの要求が強く求められています。
高容量化対応は、車載用リチウムイオン電池セルメーカーにとって、最重点課題の一つです。各社ではハイニッケルNCMやNCA正極材、Si系負極材などの材料の改良を引き続き検討する動きが見られます。また、リチウムイオン電池のコストは、依然として車体価格において大きな比率を占めています。
現状、そのコストは概ね200ドル/kWh前後とされていますが、2020年までに100ドル/kWh 前半までのコストダウンを目指して、様々な取り組みが続けられています。しかし近年、リチウムやコバルトなどの原材料価格が高騰したことや、高性能な電池の開発により高機能・高性能素材が使用されたことなどから、更なるコストダウンへの取り組みは厳しい状況にあると考えられています。
今後の動向③、高まる中国の存在感
中国では大気汚染の深刻化等を背景に、2025年までに年間700 万台の新エネルギー車の販売を目標に掲げています。実現のための施策として、充電設備の拡充やPHEV・EV 購入時の補助金支給、ナンバープレート優遇策など、多様な支援策を設けています。
この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。
無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
---|---|
所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
電話番号 | 03-6411-0859 |
会社HP | http://eic-jp.org/ |
サービス・メディア等 | https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET |
関連する記事はこちら
一般社団法人エネルギー情報センター
2024年02月22日
4月からの容量拠出金による影響は?容量市場の仕組みと創設背景について
2024年度に供給可能な状態にできる電源を確保することを目的に、2020年7月、初めての容量市場でのオークションを実施。それに伴い4月から容量拠出金制度がスタートします。今回は、容量市場の仕組みや消費者への影響についてご紹介します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2023年12月29日
持続可能な未来に向けて物流業界の脱炭素化は急務です。その中でも大手物流企業のGX事例は注目すべきアプローチを提供しています。今回は、脱炭素化の必要性と大手物流企業が果敢に進めるGX事例に焦点を当て、カーボンニュートラル実現へのヒントを紹介します。今回は中堅・中小企業のGX事例です。
一般社団法人エネルギー情報センター
2023年11月02日
2023年6月にISSBはスコープ3の開示義務化を確定。これを受けて、日本や海外ではどのような対応を取っていくのか注目されています。最新の動向についてまとめました。
一般社団法人エネルギー情報センター
2023年09月12日
電力業界の最新動向について/新電力の撤退等はピークアウト、3割が値上げへ
厳しい状況が続いた電力業界ですが、2023年に入り、託送料金引き上げと規制料金改定により、大手電力7社が値上げを実施。政府は電気・ガス価格の急激な上昇を軽減するための措置を実施しています。値上げを実施する新電力企業も3割ほどあり、契約停止、撤退・倒産等もピークアウトしています。
一般社団法人エネルギー情報センター
2023年08月31日
“脱炭素先行地域”に62地域が選定。地域のエネルギーマネジメント推進や課題解決のキーワードになるか
2030年度目標のCO2排出量2013年度比46%減を実現するために、地方から脱炭素化の動きを加速させています。今回は、事例を交えて脱炭素先行地域の取り組みについて紹介をします。