日本発!次世代ペロブスカイト太陽電池:フレキシブル発電が都市を変える 【第1回】背景と技術概要 — 何が新しいか/政策・投資の全体像/海外動向との比較

2025年10月18日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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本記事は、2024年公開の「ペロブスカイト太陽電池の特徴とメリット」「ペロブスカイト太陽電池の課題解決と今後の展望」に続く新シリーズです。 耐久性や鉛処理、効率安定化といった技術課題を克服し、いよいよ実装段階に入ったペロブスカイト太陽電池。その社会的インパクトと都市エネルギーへの応用を、全3回にわたって取り上げます。

参考記事(2024年)
ペロブスカイト太陽電池の特徴とメリット
ペロブスカイト太陽電池の課題解決と今後の展望


はじめに

かつては研究室の中にあった技術が、いま都市空間へと飛び出そうとしています。
再生可能エネルギーの主戦場は「広い土地のメガソーラー」から、建築外皮や街路、モビリティなど都市の“面”へと広がりつつあります。
薄く、軽く、曲げられるフィルム型ペロブスカイトは、屋根や外壁などにも設置できる柔軟性が魅力です。

今回は第1回として、「背景と技術概要」をテーマに、ペロブスカイト太陽電池の新しい特性、政策・投資の方向性、海外動向との比較を通して、実装フェーズの全体像を整理します。

1. 何が新しいか:軽量・曲げられる・設置自由度

ペロブスカイトは光吸収効率の高い薄膜材料で、軽量かつ柔軟に加工できるのが特徴です。これまで施工が難しかった低耐荷重の屋根や曲面、外壁・ファサードにも設置でき、発電設備の“置き場所”という概念そのものを広げました。
特に日本のように平地が限られ、景観規制が多い地域では、この軽量・フィルム特性が都市型電源としての適性を発揮します。

新たなステージとして、過酷環境下での耐久性能を問う実証も始まりました。たとえば、横浜港・大さん橋にペロブスカイトユニットを設置し、高湿度や塩害環境下での発電性能および劣化挙動を比較検証する試みが2025年9月から始動しています。

また、2025年6月には、神戸空港の制限区域内にある緑地帯でも、約50㎡のフィルム型モジュールが設置される予定です。強風への耐性や施工性、長期耐久性などについて、今後2年間にわたり実証検証が行われます。(出典:積水化学工業株式会社、2025)。

画像1:神戸空港の緑地帯に設置された約50㎡のフィルム型モジュール
出典:積水化学工業株式会社ニュースリリース[2025年6月]https://www.sekisui.co.jp/news/2025/1436737_41954.html

こうした実証は、「都市のどこまで貼れるか?」という限界線を引き直す格好の挑戦であり、都市空間での分散発電という新たな風景を描きつつあります。

2. 政策・投資の全体像:初期需要×量産化の“面展開”設計

2-1. 公共施設を起点とした社会実装支援の拡大

日本では、ペロブスカイト太陽電池を「次世代エネルギー産業」の中核技術として位置づけ、政策・投資の両面から実装を後押ししています。

環境省は2025年度より、フィルム型ペロブスカイトを対象とした社会実装支援事業を開始。耐荷重10kg/m²以下、発電容量5kW以上、50%以上の自家消費率を要件に、蓄電池併設を含む都市型電源モデルの構築を支援しています。
政策として公共施設を起点とする実証・導入支援が拡大しており、庁舎や学校などでの試験導入が始まりつつあります。

例えば、2025年4月から羽田イノベーションシティで始まった建材一体型BIPV実証ラボや、同年8月のテレコムセンタービル内窓型BIPV実装検証は、この環境省事業の支援枠内で実施されています。こうした都市型モデルを通じて、オフィス庁舎や公共施設などへのBIPV導入が本格化しつつあります。

画像2:テレコムセンタービル内窓型BIPV実装検証
出典:YKK APグローバル ニュースリリース[2025年7月]
https://www.ykkapglobal.com/ja/newsroom/releases/20250718

2-2. NEDO戦略と“面展開”への転換

一方、技術・産業戦略の中核を担うNEDOは「太陽光発電開発戦略2025」を策定し、2040年に向けて再エネ比率40〜50%、太陽光23〜29%(204〜281GWAC)という長期目標を提示しています。。

戦略では「適地制約」「ニーズ多様化」「O&M高度化」「リサイクル」の4課題を明示し、建築外皮・分散電源・蓄電を一体で導入する“面展開”を重点テーマとして位置づけています。
この“面展開”とは、メガソーラー中心から都市・建物・交通空間などへと発電面を広げていく構想であり、ペロブスカイトがその中核技術として注目されています。

2-3. 量産投資と市場フェーズへの移行

このなかでペロブスカイトは、量産化が容易で設置自由度が高い薄膜系技術として位置づけられ、公共部門を起点に初期需要を創出。報道ベースでは約1,500億円規模の補助金や量産投資が可視化しつつあります。

国内メーカー各社はR2R(ロール・ツー・ロール)製膜ラインや封止材料の量産整備を加速。ロール状の材料を連続的に処理し巻き取ることで、低コスト・大量生産・安定供給を実現する高生産性プロセスが整備されています。
こうした政策と産業投資の連動により、研究開発段階にあったペロブスカイト太陽電池は、いよいよ本格的な市場フェーズへ移行し始めています。

3. 海外動向との比較:中国・欧州・日本の構図

3-1. 中国:国家戦略としての量産化ドライブ

中国では、国家戦略としてペロブスカイト太陽電池の量産化を急速に推進しています。
国家重点研究計画のもと、複数の研究機関が33%前後の変換効率を相次いで報告。なかでも、工業用テクスチャーシリコン基板を使ったモノリシック型タンデムセルが33.15%を達成し、世界記録として注目されています。

巨大な製造スケールと素材供給網を背景に、「スピードとスケールで勝負する量産モデル」を確立しつつあり、装置投資規模でも他国を大きく上回っています。(出典:Nature Communications, 2025

3-2. 欧州:商用化と信頼性の両立

欧州は、商用化と信頼性の両立を重視する方針を採っています。
代表的なのが英国のOxford PV(オックスフォード・フォトボルタイクス)で、ペロブスカイトをシリコン基板上に積層した商用タンデムセルを2024年9月に世界初の商用出荷。
24.5%(記録値26.9%)クラスのモジュールを出荷し、建材一体型(BIPV)や分散発電向けの採用が進んでいます。

欧州連合(EU)も政策面で支援を強化し、建築外皮への統合を前提とした標準化・認証制度を整備。品質と耐久性を軸にした高付加価値市場を形成しています。

画像3:Oxford PV社の製造拠点で積み上げられたペロブスカイト・シリコンタンデムモジュール
出典:Oxford PV Newsroom

3-3. 英中連携:技術と市場の融合フェーズへ

さらに2025年4月には、Oxford PVと中国のTrina Solar(トリナ・ソーラー)が、ペロブスカイト太陽電池に関する独占的特許ライセンス契約を締結しました。
この契約により、Trina Solarは中国国内でペロブスカイト系太陽電池製品の製造・販売を行う権利を得るとともに、他社への再許諾権(サブライセンス)も保有します。
中国の太陽光市場は年間約500億ドル規模とされ、2030年には1,000億ドルへ拡大すると見込まれており、この提携は次世代PV技術の商業化を加速させる世界的な節目と位置づけられています。
(出典:Oxford PV Newsroom「Oxford PV and Trina Solar announce patent licensing agreement」, 2025年4月9日)

こうした流れを踏まえると、世界の潮流は、かつての「量の中国、信頼の欧州」という構図から、技術と市場の連携が進む新段階へと移行しています。
Oxford PVとTrina Solarの提携はその象徴であり、欧州発の高効率技術と中国の量産能力が結びつくことで、国際的な商業化競争が本格化しています。

3-4. 日本:都市インフラ対応の独自モデル

一方で日本は、シリコンの延長線ではなく、フィルム型・封止技術・R2R(ロール・トゥ・ロール)製膜といった都市インフラ対応の高機能薄膜技術で独自の領域を築いています。
官民連携による初期需要の創出(公共施設・街路・モビリティ)を起点に、「用途から社会実装を広げるモデル」として差別化を進めています。

まとめ

ペロブスカイト太陽電池は、軽量で曲げられるという特性を生かし、屋根や壁面、街路灯、車体など都市のあらゆる面を発電面に変える可能性を広げています。

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