ペロブスカイト太陽電池の特徴とメリット
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2024年09月27日
一般社団法人エネルギー情報センター

太陽光発電は、再生可能エネルギーの代表的な存在として世界中で注目を集めています。その中でも、シリコン太陽電池に次ぐ次世代のエネルギー技術として「ペロブスカイト太陽電池」が大きな注目を集めています。ペロブスカイト太陽電池は、軽量で柔軟性があり、従来の太陽電池では難しかった場所での活用が期待されていることから、多様な分野での普及が期待されています。 2024年度には福島県内での実証実験が予定され、日本国内でも本格的な導入に向けた動きが始まっています。注目が集まるペロブスカイト太陽電池について、2回に渡りお伝えします。第1回目では、ペロブスカイト太陽電池の基本的な特徴やメリット、そしてシリコン太陽電池との違いについて、詳しく解説していきます。
1.ペロブスカイト太陽電池とは?
ペロブスカイト太陽電池の概要
ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイト構造という特殊な結晶構造を持つ物質を用いて作られた太陽電池です。このペロブスカイト構造は、光を効率よく電気に変換する特性を持っており、従来のシリコン太陽電池に比べて、軽量で柔軟性が高いことが特徴です。この特性により、ペロブスカイト太陽電池は様々な場所や用途で活用することが期待されています。
ペロブスカイトという名前は、1839年にロシアのウラル山脈で発見された鉱物に由来しています。ペロブスカイト鉱物は、酸化チタンカルシウムから成り立っており、この構造を模した物質を利用することで、高効率な太陽電池を作ることが可能となりました。
シリコン太陽電池との違い
シリコン太陽電池は、太陽光を効率的に電力に変換できるため、現在の太陽光発電の主流となっています。しかし、シリコン太陽電池は硬くて重く、設置場所に制約があるほか、製造コストが高いというデメリットもあります。
一方、ペロブスカイト太陽電池は、シリコンに比べて非常に薄く、フィルムのような形状に加工できるため、軽量で柔軟性に優れています。このため、建物の壁面や窓、曲面にも設置することが可能です。また、製造プロセスもシリコン太陽電池より簡単で、低温での製造が可能なため、エネルギーコストを大幅に削減できる点が大きな特徴です。

ペロブスカイト太陽電池のタイプ 出典:資源エネルギー庁
2. ペロブスカイト太陽電池のメリット
高い発電効率
ペロブスカイト太陽電池の発電効率は、ここ10年で急速に向上しています。研究開発の進展により、実験室レベルではシリコン太陽電池と同等、もしくはそれを超える効率を達成しており、今後の商用化が期待されています。特に、「タンデム型」と呼ばれるペロブスカイトとシリコンを組み合わせた太陽電池では、効率をさらに高めることができるとされています。
製造コストの低さ
ペロブスカイト太陽電池は、製造プロセスがシンプルであり、低温での製造が可能です。このため、製造コストを大幅に削減でき、従来のシリコン太陽電池に比べて安価に製造することがで
設置の自由度
ペロブスカイト太陽電池のもう一つの大きなメリットは、その柔軟性です。フィルム状にできるため、ビルの壁面や窓ガラス、自動車の屋根など、シリコン太陽電池では設置が難しかった場所にも容易に設置することができます。この特性により、都市部の建物や住宅、さらには持ち運び可能なデバイスなど、さまざまな用途での利用が期待されています。
環境負荷の低減
シリコン太陽電池の製造には、高温処理や大量のエネルギーが必要で、その過程で多くのCO2が排出されます。しかし、ペロブスカイト太陽電池は低温製造が可能なため、製造時のエネルギー消費とCO2排出を大幅に抑えることができます。これにより、ペロブスカイト太陽電池はカーボンニュートラル社会の実現に貢献するエネルギー源として期待されています。
3. 最近のニュース:福島県での実証実験
実証実験の概要
2024年度には、福島県内でペロブスカイト太陽電池の実証実験が行われる予定です。福島県は東日本大震災後、再生可能エネルギーの導入と普及を積極的に推進しており、今回の実証実験もその一環です。
この実証実験は、福島県内の3カ所で行われる予定で、ペロブスカイト太陽電池の性能や耐久性、設置方法の検証を行います。実証実験で得られたデータは、今後の普及や技術開発に活用される予定です。
実設置場所と目的
- Jヴィレッジ(楢葉町、広野町)
- あづま総合運動公園(福島市)
- 福島県立博物館(会津若松市)
サッカー施設の芝生周辺に設置され、曲面や屋外での耐久性を検証します。
公園内での設置により、公共施設での太陽電池の活用方法を検証します。
博物館の壁面に設置し、建物の一部として太陽電池を活用する試みを行います。
これらの実証実験は、ペロブスカイト太陽電池の普及に向けた先行事例となるだけでなく、今後の再生可能エネルギー導入拡大の可能性を示す重要な取り組みです。
福島県の取り組みが持つ意味
福島県は、東日本大震災後の復興に向けて、再生可能エネルギーの導入を積極的に進めています。ペロブスカイト太陽電池の導入により、福島県は再生可能エネルギーの最先端地域として、他の地域や国へのモデルケースとなることを目指しています。この取り組みが成功すれば、全国的な普及への弾みとなり、持続可能なエネルギー社会の実現に大きく貢献することが期待されています。
4. ペロブスカイト太陽電池の導入事例と最新の技術開発
日本国内での事例
最近、日本国内でもペロブスカイト太陽電池の導入が進んでいます。例えば、ビルの壁面や窓ガラスにペロブスカイト太陽電池を組み込むことで、建物自体が発電する「ソーラービルディング」の実証実験が行われています。また、電気自動車の屋根やボディにペロブスカイト太陽電池を取り付けることで、走行中に発電する「ソーラーカー」の開発も進められています。
世界各国での導入事例と技術開発
ペロブスカイト太陽電池の技術開発は、日本だけでなく世界各国でも進められています。例えば、ドイツでは、都市部のビルの壁面を活用してペロブスカイト太陽電池を設置する実証実験が行われており、建物全体を発電施設として利用する取り組みが始まっています。アメリカでも、電気自動車メーカーがペロブスカイト太陽電池を活用した車両を開発中で、走行中に太陽光から電力を得ることで充電頻度を減らす実験が行われています。
また、イギリスでは、ペロブスカイト太陽電池を用いた農業用温室の実証実験が進んでいます。太陽電池で発電する一方で、植物の成長に必要な光を確保しつつ、余剰なエネルギーを供給することが可能となり、農業と再生可能エネルギーの両立を目指す新しいモデルとして注目されています。
5.ペロブスカイト太陽電池の課題
ペロブスカイト太陽電池はさまざまなメリットを持つ一方で、解決すべき課題もいくつか存在します。ここでは、主な課題とそれに対する取り組みについて詳しく解説します。
耐久性の問題
ペロブスカイト太陽電池は、シリコン太陽電池と比較して耐久性が低いことが課題となっています。特に、湿気や紫外線に弱いため、長期間にわたる屋外での使用に対しては、現在の技術では十分な耐久性を確保することが難しいとされています。
しかし、最近の研究では、特殊なコーティング技術を用いることで、ペロブスカイト太陽電池の耐久性を大幅に向上させる取り組みが進んでいます。また、材料の改良により、耐久性と発電効率を両立させる新しいペロブスカイト太陽電池の開発も進んでいます。
有害物質の問題
ペロブスカイト太陽電池の材料には鉛が含まれている場合があり、廃棄時に環境への影響が懸念されています。特に、ペロブスカイト太陽電池が大量に普及した際には、鉛の漏出やリサイクルの問題が課題となる可能性があります。
この問題に対しては、鉛を含まないペロブスカイト太陽電池の開発や、リサイクル技術の確立に向けた研究が進められています。日本でも大学や企業が共同で鉛フリーのペロブスカイト材料を開発し、環境に優しい太陽電池の実現に向けた取り組みが進行中です。
6. ペロブスカイト太陽電池の普及に向けた取り組み
政府の支援
日本政府は、ペロブスカイト太陽電池の普及を促進するため、さまざまな支援策を講じています。例えば、経済産業省はペロブスカイト太陽電池に関する研究開発プロジェクトを支援し、耐久性の向上やコスト削減に向けた技術開発を促進しています。また、実証実験や商用化に向けた補助金制度も整備されており、企業や研究機関による取り組みを後押ししています。
企業の取り組み
国内外の大手企業が、ペロブスカイト太陽電池の事業化に積極的に取り組んでいます。例えば、東芝やパナソニックホールディングスは、耐久性の向上や製造コストの削減に向けた研究開発を進めており、近い将来には高効率かつ低コストのペロブスカイト太陽電池が実用化される見通しです。
積水化学工業は、軽量で柔軟性のあるペロブスカイト太陽電池をビルの外壁や窓ガラス、車の屋根など、これまで太陽電池の設置が難しかった場所への導入を目指しています。また、ペロブスカイト太陽電池を用いた「タンデム型太陽電池」の開発にも力を入れており、シリコン太陽電池と組み合わせることで、高い発電効率を実現することを目指しています。
注目すべき事例として、東京都千代田区で計画が進められている「内幸町一丁目街区南地区第一種市街地再開発事業」において、積水化学工業はサウスタワーのスパンドレル部外壁内部に、発電容量1000kW超のフィルム型ペロブスカイト太陽電池(PSC)を設置する予定です。PSCによるメガソーラー発電機能を実装した高層ビルは、世界初となる見込みであり、このプロジェクトはペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた重要な一歩となるでしょう。

世界初 フィルム型ペロブスカイト太陽電池による高層ビルでのメガソーラー発電の計画について 出典:積水化学工業株式会社プレスリリース
また、海外でも多くのスタートアップ企業が新しい技術の開発に取り組んでおり、ヨーロッパやアメリカを中心に商業化に向けた動きが活発化しています。
7. ペロブスカイト太陽電池がもたらす未来
再生可能エネルギーの普及加速
ペロブスカイト太陽電池の普及により、太陽光発電のコストが大幅に下がることで、再生可能エネルギーの導入が加速することが期待されます。特に、従来のシリコン太陽電池では設置が難しかった都市部のビルの壁面や、一般住宅の窓ガラスへの設置が容易になることで、太陽光発電の普及範囲が大きく広がるでしょう。
新たなビジネスチャンス
ペロブスカイト太陽電池の普及は、新たなビジネスチャンスも生み出します。例えば、ビルの外壁に太陽電池を組み込んだ「ソーラービルディング」や、電気自動車に太陽電池を搭載した「ソーラーカー」など、新しいコンセプトの商品やサービスが登場する可能性があります。これにより、エネルギー関連産業だけでなく、建築や自動車産業にも新しい価値が創出されるでしょう。
持続可能な社会の実現
ペロブスカイト太陽電池は、カーボンニュートラル社会の実現に向けた重要な技術の一つです。製造過程でのエネルギー消費が少なく、廃棄時の環境負荷も低減できるため、持続可能なエネルギー供給システムの構築に貢献します。また、ペロブスカイト太陽電池の普及により、エネルギー自給率が向上し、地域でのエネルギー生産が可能になることで、エネルギーインフラの強靭化にもつながるでしょう。
まとめ
ペロブスカイト太陽電池は、軽量で柔軟性があり、製造コストも低いことから、次世代の再生可能エネルギーとして大きな期待を集めています。最新の技術開発や実証実験が進む中で、その可能性はますます広がっています。
しかし、耐久性や有害物質の問題といった課題も残されているため、これらを克服するための技術開発と普及に向けた取り組みが必要です。次回は、ペロブスカイト太陽電池の具体的な課題や解決策、さらなる技術開発の展望について詳しく解説していきます。
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