脱炭素社会実現に向けたGXリーグとはPart2~CO2排出量取引は実現できるか~
政策/動向 | 再エネ | IT | モビリティ | 技術/サービス | 金融 |
2022年07月26日
一般社団法人エネルギー情報センター

4月に賛同企業が公表されたGXリーグ。Part1では、その概要についてご紹介しました。今回はその中でも「CO2排出量取引」との関係に注目。CO2排出量取引制度のメリット・デメリットや、世界の動き、今後の動きについて考察していきます。
CO2排出量取引とは
GXリーグでは、CO2排出量取引に関する仕組みの構築が行われる予定です。
そもそも炭素に価格を付け、排出者の行動を変容させる政策手法としてカーボンプライシングという考え方があります。これには様々なやり方・手法があります。その中の一つとして「排出量取引制度」があります。
排出量取引制度とは、国全体の排出量の削減目標を念頭に、政府が企業に排出量の上限を割り当てて「排出枠」を売買する仕組みです。実際の排出量が上限を超える企業は、余裕のある他の企業から排出枠を買う必要があります。シンプルで分かりやすい点がメリットで、排出枠の購入コストを減らそうと企業が排出削減に取り組むので、国全体で削減効果が期待できます。
一方デメリットは、排出枠の設定が難しいことです。排出枠が過剰に余る場合、枠が安価で取引されることになり、排出量削減と購入コストのバランスが崩れてしまいます。反対に、排出枠が少なすぎる場合、枠の購入価格が高騰する可能性も考えれられます。
また、「排出量を制限しなくても、他の企業から購入すれば良い」という発想を持つ企業が現れかねない点もデメリットの一つ。「上限を超えてしまうなら、購入すれば済む話」と割り切ってしまう企業では、温室効果ガス削減のための技術が開発されにくいでしょう。
排出枠は金融商品としての注目度が高まっています。排出枠には先物やオプションもあり、価格上昇を見込むヘッジファンドなどが取引に参加しています。また、排出枠価格を参照した上場投資信託(ETF)も登場するなど投資マネーを呼び込む流れが強くなっています。
世界の動きとは、排出量取引制度でも先行するEU
脱炭素に積極的に取り組むEUでは、排出量取引についても先行しています。
2002年に英国が国の制度として世界で初めて導入しました。その後、2005年に欧州連合(EU)がEU―ETS(EU域内排出量取引制度、以下ETS)を開始。ETSは、世界で最も歴史の長い排出量取引制度であり、世界の気候変動施策を先取りしたものとして、他の国内排出量取引制度のモデルになっています。
キャップ&トレード方式を採用しています。政府が温室効果ガスの総排出量の上限(キャップ)を設定します。それを個々の対象となる企業・施設・工場等に排出枠として配分し、 規制対象者の排出枠の一部移転または獲得(トレード)を認める制度のことです。
規制対象は、域内31カ国における、約12,000 の発電所・産業施設などの固定施設と航空事業者です。EUのCO2排出量の約45%がカバーされています。欧州グリーンディールでは、ETS対象部門の排出量上限(キャップ)の削減率引き上げや、ETS対象部門を海運、建築、運輸へ拡大することを検討しています。加えて化石燃料燃焼から生じる排出量を全てETSに統合することを検討しています。
EUは世界の排出枠取引量の約9割を占めています。欧州委員会は、EU域内の対象事業者が出すCO2が2005年と比べて35%減少した(2019年時点)と報告しています。
アメリカでは、2008年にカリフォルニア大気資源局(CARB)は、キャップ・アンド・トレード型排出量取引制度の導入等を目指し、気候変動計画を発表。2012年より同制度に関する最終規則が施行されました。
また、韓国では2015年1月から、2021年2月には中国が国内排出量取引制度の運用を開始しました。2022年3月時点で、世界銀行によると導入国はEU加盟国を含め約40カ国にのぼるといいます。
GXリーグの取り組みとしてのCO2排出量取引
日本では、算定方法のルール決めや業界ごとの特徴・事情を踏まえて公平な制度とすることが難しいとして、長年議論がされてきましたが全国的な導入には至っていません。
たとえば、
- どのような製品を対象とするか
- どの段階での排出削減を誰の貢献と考えるか
- どのように削減量を算定するか
- どのように排出削減への貢献を考慮するか
などのルールメイキングが課題です。業界間を超えた合意形成を取るのは簡単ではありません。
そこで、自主的で主体的に民間企業が議論できる場としてのGXリーグで実証実験をしていこうということになります。
Part1でご紹介した通り、CO2排出量削減に関して、GXリーグに参加する企業は高い目標を掲げていくことになります。その達成に向けて、毎年の取組状況の報告と、中間地点での達成状況の評価を行います。
そこで、目標に達しない場合は、国内分の直接排出に関して、カーボンクレジット市場を通じたクレジットの取引が必要となっていくということです。
例えば、以下の図では、「企業A」は目標を達成しています。一方、「企業B」は実排出が目標値を超えています。その場合、超過分をクレジット市場から調達してオフセットをします。または、GXリーグ枠内での義務として企業Aが超過達成した部分を企業Bにあてて、GXリーグでのコミットメントを果たしていくという構想です。

出典:環境省
ちなみに、カーボンクレジット市場には、
- J-クレジット
- JCM
- 海外系ボランタリークレジット(国際標準クレジット)
などがあります。以下で簡単にご紹介します。
J-クレジット制度とは
J-クレジット制度とは、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。企業は「クレジット」の売却益によって設備投資の一部を補い、投資費用の回収やさらなる省エネ投資に活用できます。本制度により創出された「クレジット」は、経団連カーボンニュートラル行動計画の目標達成やカーボン・オフセットなど、様々な用途に活用できます。

出典:J-クレジット制度事務局
JCMとは
二国間クレジット制度(JCM:Joint Crediting Mechanism)は、途上国と協力して温室効果ガスの削減に取り組み、削減の成果を両国で分け合う制度です。日本の低炭素技術の普及を通じ、地球規模でのCO2の削減に貢献するものです。官民連携で2030年度までの累積で、1億t-CO2程度の国際的な排出削減・吸収量の確保を目標とし、全17か国(2021年7月末時点)のパートナー国においてプロジェクトを実施しています。

出典:経済産業省
国内初の市場として、9月からJPXとの実証実験がスタート
日本はこれまで温室効果ガスの排出削減に向けて、さまざまな取り組みを行ってきました。そのため、国内排出量取引制度と並んで、主要な施策である「地球温暖化対策税」や「再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度」とそれぞれ役割分担しつつ、どのような効果、影響をもたらすかについて検討していくことが必要とされています。
国内排出量取引制度
産業・業務・エネルギー転換部門を中心とする大規模排出源について、温室効果ガスの総量削減を着実に進める役割。
地球温暖化対策税
家庭など小規模排出源も含め、広く経済社会に低炭素社会構築に向けた経済的インセンティブを与えるとともに、地球温暖化対策の財源調達の役割。
再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度
電力における再生可能エネルギーの比率を高め、化石燃料に依存しない社会を構築するための経済的インセンティブを与える役割。
東京都や埼玉県では、すでに国内排出量取引制度を採用しています。しかし、売買が外から見えにくいことがありました。今後より大規模に排出量取引制度を全国的に広げていくために、そして、将来的に国内外の排出量取引に対応していくために、GXリーグ内での議論や合意形成が重要になってきます。
国内初の市場として、9月からJPX(日本取引所グループ)との実証実験がスタートし、2023年以降の本格稼働を目指します。市場の透明性を高めて売買を活性化することが狙いです。
この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。
無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
---|---|
所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
電話番号 | 03-6411-0859 |
会社HP | http://eic-jp.org/ |
サービス・メディア等 | https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET |
関連する記事はこちら
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年06月26日
【第2回】再選トランプ政権の関税政策とエネルギー分野への波紋 〜日本企業・自治体の現場対応から読み解く実務課題と展望〜
2025年4月に本格発動されたトランプ政権の「相互関税」政策は、日本のエネルギー分野にも広範な影響をあたえています。前回の第1回では、制度の背景や構造的リスク、太陽光・LNG・蓄電池といった主要分野への影響の全体像を整理しました。 本稿ではその続編として、実際に通商環境の変化を受けた企業・自治体の現場対応に焦点をあて、最新の実務動向と政策支援の現状を整理します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年05月31日
【第1回】再選トランプ政権の関税政策とエネルギー分野への波紋
2025年4月、トランプ米大統領は「相互関税(Reciprocal Tariff)※1」政策を発動し、すべての輸入品に一律10%の関税を、さらに中国・日本などの貿易黒字国には最大35%の追加関税を課しました。 これは2018年の鉄鋼・アルミ関税措置を再構築するかたちで、保護主義的な政策姿勢を鮮明にしたものです。エネルギー関連機器もその対象に含まれており、日本側への影響も無視できない状況です。 とくに日本が重点を置いてきた再生可能エネルギー分野では、調達コストや供給網への影響が現れ始めています。 本稿では、こうした通商政策がもたらす構造的な変化とリスクについて、再エネを軸に読み解いていきます。 ※相互関税:米国製品に課されている関税と同水準の関税を相手国製品にも課すことで、貿易上の“公平性”や“対等性”を確保しようとする政策。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年03月17日
2025年開始の東京都による第四期間の排出権取引、非化石証書の利用可否や電力会社の排出係数反映など各種内容が変更
東京都では日本政府に先駆けて2010年から排出権取引を開始しており、2025年からは節目の第四期間となり、これまでの運用経験等から様々な変更が行われています。電力関連では、非化石証書の利用が可能となるほか、電力会社の排出係数が勘案される内容となっており、本記事では変更の大枠を見ていきます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年02月19日
2026年度から「成長志向型」カーボンプライシング開始の方針、排出権の市場取引を通じた脱炭素経営の抜本変化
日本においては2000年代から本格的に「カーボンプライシング」についての検討が進められてきましたが、2026年度からGXを基調とした新たな排出権取引が始まる方針です。これにより、脱炭素経営やビジネスが抜本的に変化する見込みとなり、本記事では現状の検討状況を整理しております。
一般社団法人エネルギー情報センター
2024年06月05日
2024年度の出力制御①出力制御とは?増加要因と過去事例について
再生可能エネルギーの導入拡大が進む中、「出力制御」の回数が増えているのをご存知でしょうか。今回は、近年増加している出力制御について、2回にわたってご紹介します。1回目はそもそも出力制御とは何か、増加している要因、過去の事例について、2回目ではその対策や今後の予測についてご紹介します。