注目が集まるデジタル技術の活用、 エナリスが進める電力×デジタルの取り組み

2018年07月02日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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技術進歩が「電力×デジタル」の価値を日々高める中、ブロックチェーン活用への期待が高まっています。今回の記事では、「ブロックチェーンを活用した電力取引サービス」の検証を進めている株式会社エナリスの南昇氏と盛次隆宏氏に話を聞きます。

株式会社エナリス 執行役員 経営戦略本部長
南昇氏

大阪大学工学部電子工学科卒業。2004年に株式会社パワードコム(現KDDI株式会社)セキュリティ商品企画部にて同社初の法人セキュリティビジネス立上げ後、同ソリューション商品企画部にて同社初の法人クラウドサービスの立上げに従事。2010年より株式会社ワイヤ・アンド・ワイヤレス副社長に就任。また、2017年1月より株式会社エナリス経営戦略本部長に就任、現職。

株式会社エナリス 経営戦略本部 経営企画部長
盛次隆宏氏

九州大学工学部機械航空工学科卒業後、三菱重工業株式会社にて国内・外の原子力発電所内の一次系機器の開発、設計部門に所属。2013年1月より株式会社エナリスにて、再生可能エネルギー発電所の開発や新電力事業の立上げ、運用管理を経験し、2017年5月より経営企画部長に就任。日々、電力の未来に思いを馳はせる。

※2017年10月インタビュー取材時点の内容です

仮想通貨の基盤技術であるブロックチェーンを電力に応用

現在、会津ラボと当社(エナリス)は、福島県が実施する「再生可能エネルギー関連技術実証研究支援事業」に採択され、「ブロックチェーンを活用した電力取引サービス」の共同検証を進めています。

この「ブロックチェーンを活用した電力取引サービス」は、ブロックチェーンが本当に使えるか確かめることを目的として進められています。ブロックチェーン上に電力データを書き込み、それを使って実験的に2つのサービスを展開することで、ブロックチェーンの活用可能性を確認します。

電力データは、スマートプラグを経由してブロックチェーン上に書き込みます。スマートプラグは、会津ラボの技術による製品であり、コンセントに接続した電気機器の消費電力量を計測するコンセント型スマートメーターです。

スマートプラグをWi-Fi と接続することで、電力データをブロックチェーン上に書き込むことが可能となります。ブロックチェーン上のベースとなる開発自体は、会津ラボが担当します。

当社は、ブロックチェーン上に書き込まれたデータを読み込み、処理します。その処理したデータは、アプリやサービスという形で顧客に提供します。前述のスマートプラグは、500~1000世帯に配付し、そこからサービスを提供していくことを予定しています。1家庭あたり3~5個のスマートプラグを配付します。

実証実験で実施されるサービス① 「見守りサービス」

ブロックチェーンを活用した実証実験として、まず1つ目のサービスに「見守りサービス」があります。このサービスは、一般家庭で使われている電気ポットの電力利用データを監視するものです。

電気ポットが使われているときと、使われていないときのパターンを収集することで、普段と異なる電気利用となった場合を判断できるようになります。例えば、一人暮らしの高齢者の家庭で急に電気が使われなくなった場合には、何らかの異常が発生したと判断し、家族に通知することが可能となります(図1)。

「見守りサービス」(ポットと連動)

図1 「見守りサービス」(ポットと連動)

ポットのデータは、スマートプラグで収集し、ブロックチェーンに書き込まれます。書き込まれたデータをシステムが参照し、家族の安全を判断することが「見守りサービス」の枠組みとなります。

実証実験で実施されるサービス② 「快適暮らしサポート」

2つ目のサービスとして、「快適暮らしサポート」があります。このサービスは、スマートプラグ自体に付いている赤外線リモコンを通して、外部からエアコンのオン・オフや温度の上げ・下げができるようになります(図2)。

快適暮らしサポート(1. エアコン制御、2.温湿度センサー)

図2 快適暮らしサポート(1. エアコン制御、2.温湿度センサー)

当社は、このサービスで得た知見を利用することで、最終的には、温度の上げ・下げをDR(デマンドレスポンス:電気の需要量を賢く制御することにより、電力の需要と供給のバランスをとる仕組み。例えば、エアコンを多く使う夏の昼間など、需要のピークが発生しそうなタイミングで、需要量を抑制する対策を取ることはデマンドレスポンスの一種といえる。ピーク需要のために用意していた発電機の建設コストや、維持管理コストを削減できるメリットがある)上で指示できるような仕組みの構築を目指しています。

そのとき、「快適暮らしサポート」は、DR上で利用するための補助的な役割を担うこととなります。

ブロックチェーンと親和性の高いデマンドレスポンス

実証実験で行われる「見守りサービス」や「快適暮らしサポート」に類似したサービスについては、すでにいくつかの新電力事業者などがサービスとして展開しています。ただし、現状のところ、そこにブロックチェーンの技術は介在していません。

今回の実証実験では、これまでと異なり、サービスにブロックチェーンが組み込まれますが、従来のサービスと基本機能の面で差異は生まれません。実証実験を進める意義に、ブロックチェーンの活用可能性を模索するというものが挙げられます。

会津ラボと当社による事業も、あくまで実験的にブロックチェーン上に、どうやって電力情報を書き込むのかというところに着眼が置かれています。その実験から得られた知見を基に、新たな価値あるサービスを生み出していきたいと考えています。

現在、ブロックチェーンと親和性の高いサービスと見ているのがDRとの連携です。そもそも今回の実証実験は、再生可能エネルギーの普及がテーマになっており、ブロックチェーンを使ってDRするというスキームで採択されています。

DRの発令は、模擬のDRで進めることを検討しています(図3)。例えば、ブロックチェーン上に書き込まれたエアコンの電力データを監視しておき、DRを模擬で発動させたときに、エアコン上でどれくらい節電できるかということを検証します。

模擬DR

図3 模擬DR

エアコン使用者は、あらかじめオン・オフの切り替え可否や、快適な温度といった情報をアプリなどで入力し、その承諾に基づいてDRが実施されます。

DRの要請に従って機器制御を行い、その結果とベースラインとの差分を見て、実績に基づいて報酬を支払うというのがDRですが、今回は、報酬の支払いまでは行いません。実験的にDR要請を実施することで、どれくらい下げられるのかという量を検証する段階までの予定です。

DR上でブロックチェーンが効果的な手段である理由のひとつに、手数料を抑えられることが挙げられます。例えば、DR上で小さい単位かつ、頻度の多い取引を試みると、振込手数料が嵩み、メリットが消費者に還元されないことも考えられますが、そこをブロックチェーンは解決できます。

また、支払いサイクルの面では、電力取引を行った際にかかる入金までの時間も系統に縛られないため、時間を短縮できる可能性があります。DRでは、契約そのもののスピード感が必要であり、そういう側面からもブロックチェーンは適していると考えています。

個人間取引のプラットフォームの立ち位置を目指すエナリス

当社では、2017年3月に株主総会があり、そのタイミングで、当期を初年度とする2017年から2019年までの3カ年の中期経営計画を提出しています。その中におけるひとつのキーワードに「分散型エネルギー社会」があります。

分散型エネルギー社会では、各個人あるいは各コミュニティーが小型の発電所を所有することとなります。つまり、電力の消費者(コンシューマー)だけではなく、電力を生み出すことのできるコンシューマー、すなわち「プロシューマー」が遍在する社会になります。

各メーカーや自治体が主体となり、地産地消が進められるなか、最終的には末端の需要家間、つまり個人間で電気の売買が自由にできる社会が訪れると当社は見立てています。

そのときに、電気の売買・融通を個人間で直接行うことは、間に系統が入っていないことになります。これまでの仕組みでは、電力のコスト構造は電力会社が一律に定めており、消費者は決められた枠組みの中で購入するといったものでした。

しかし、個々人で電力の融通が可能になると、電気料金の決定権をプロシューマーがある程度持つことが可能となります。そのような場合、当社のような新電力事業者の立ち位置でシステムを取り持とうとしても、系統と取引するための重厚長大なシステムを1社の新電力事業者が持つのか、という話になってきます。

仮に、古くから存在する重厚長大なシステムに相対しようとすると、ビジネスとして成立させることが難しくなります。そのため、制度あるいは世の中のニーズや市場に合ったシステムを新たに構築する必要があります。

いろいろなITの進化があるなかで、技術的にどういったものが個人間取引やコミュニティー間取引、事業者間取引にマッチするかを模索したところ、目ぼしい技術としてブロックチェーンに着目しました。そうしたブロックチェーンの特徴は、当社が実証実験に取り組むことのきっかけとなっています。

分散型エネルギー社会というのは、恐らく当社がいなくても、遅い早いは別として、いずれは訪れるかと思います。そのような社会になるだろうという仮説を前提条件に置き、そのなかで当社は、どういう役割を目指すのかというと、取引間のプラットフォームとなることです。

当社のエネルギー市場における立ち位置は、新電力とはいえ小売りだけを担当しているわけではありません。発電・需給マネジメントなど、エネルギー市場の上流から下流まで、すべてのバリューチェーンをビジネスアセットとして持っています。

世の中が変わっていくなかで、これまで培ってきたバリューチェーンすべてにビジネスアセットを持っているという強みを活かし、個人間の取引を管理するプラットフォームの立ち位置を目指します。

当社が実証実験に取り組んだ背景としては、これまで述べてきたように、これからの社会環境が変遷していく予測と、当社がこれまで培ってきたビジネスアセットとポジショニングがあります。

実験の知見を活用し、新しい料金プランの付加価値を模索

本プロジェクトは、「分散型エネルギー社会」を見据えたうえでの投資となります。利益を確保できる展開としては、例えば、新しい料金プランのオプションに、ブロックチェーンを活用したDRを組み込むということを考えています。

ブロックチェーンを活用し、節電分が料金メリットとなるような設計とすることも可能であると考えています。そのほか、電力の取引を一方通行にせず、多方面へのフルメッシュにすることも実現可能性が出てきます。個々人がエネルギーを自由に扱えることこそが、将来の社会のあるべき姿だと考えており、それを実現したいと願っています。

本連載は書籍『世界の51事例から予見する ブロックチェーン×エネルギービジネス』(2018年6月発行)より、コラム記事を再構成して掲載しています。

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