電力関連ビジネスの国内市場の予測、容量アグリゲーションは2017年の65MWから2020年には230MWに
政策/動向 | 再エネ | IT | モビリティ | 技術/サービス | 金融 |
2017年12月11日
一般社団法人エネルギー情報センター

12月4日、富士経済は電力関連システム・サービスの市場を調査し、その結果を報告書「電力システム改革で動く設備・システム・サービス市場の全貌 2017年版」にまとめたと発表しました。調査対象は、「電力小売全面自由化」による市場競争の進展や、それに伴う新ビジネスの創出が期待される分野であり、報告書では電力関連システム・サービスにおける複数分野の市場を分析しています。
「電力小売全面自由化」により新ビジネスの創出が期待、電力関連ビジネスの国内市場の予測
2016年4月より電力小売が全面自由化されたことで、電力と別のサービスをセットで提供するプランが開始されるほか、再生可能エネルギーや地産地消型の電力を訴求ポイントとするなど、需要家の選択肢が広がっています。
都市ガスにおいても2017年4月に全面自由化され、今後さらなる競争の活性化に向けた制度設計・ルール作りが進められています。また、電力においては2020年から、主に旧一般電気事業者が担っていた送配電と発電・小売部門が法的分離されることで、新規参入や新電力の平等性が確保されることから、新ビジネスの創出が期待されます。
こうした中、富士経済は電力関連システム・サービスの市場を調査し、その結果を報告書「電力システム改革で動く設備・システム・サービス市場の全貌 2017年版」にまとめたと発表しました。調査対象は、「電力小売全面自由化」による市場競争の進展や、それに伴う新ビジネスの創出が期待される分野であり、報告書では電力関連システム・サービスにおける複数分野の市場を分析しています。また、報告書には発電事業者の電源保有状況や、業界別の発電所データなど設備状況がまとめられています(表1)。
サービス | 電力小売サービス、高圧一括受電サービス、デマンドレスポンスサービス、容量アグリゲーションサービス、オンサイトエネルギーサービス、グリーン電力証書、需給管理システム、需給管理代行サービス、顧客料金管理システム(CIS)、蓄電システムレンタルサービス |
---|---|
業界別発電所データ整理 | 鉄鋼、非鉄金属材料、化学材料、セメント、製紙・パルプ、都市ガス、石油・LPガス、商社、重電・プラント、鉄道、自治体(都道府県)、公営ごみ焼却、住宅建築・建材、土木・建築・エンジニアリング、不動産、物流、通信、太陽電池、再生可能エネルギー発電(主に太陽光発電)、再生可能エネルギー発電(主に風力発電)、新電力、旧一般電気事業者&旧卸電気事業者(出資先系列企業、本体) |
表1 調査対象 出典:富士経済資料より作成
容量アグリゲーションサービス、2017年の65MWから2020年には230MWに
今回、富士経済が調査したビジネス市場の1つである「容量アグリゲーションサービス」とは、再エネ発電設備(太陽光発電、風力発電)、蓄電池、小規模自家発電装置、そしてEMSやデマンドレスポンスなどにより、エネルギーリソースを統合的に制御し、余剰電力・ネガワットを買い取るビジネスです。このような方法で、複数のリソースを集約し、エネルギーを集めて仮想的な一つの発電所の様な機能にする考え方をVPP(Virtual Power Plant)といいます。
「容量アグリゲーションサービス」には省エネ分野と創エネ分野があります。省エネアグリゲーションサービスは、既に小売電気事業者により、工場やオフィスなど自社顧客からネガワットの買い取りが始まっています。また、2017年度からは日本卸電力取引所にてネガワット取引が開始されており、一般送配電事業者による入札が行われています。2017年度においては、5MWの市場規模となる見込みです。
今後は小売電気事業者による他社顧客からのネガワット買い取りと、一般送配電事業者によるネガワット買い取りの制度設計が進められます。本格的なネガワット取引市場の立ち上がりは、VPP構築実証事業を通し、取引ルールの整備やネガワット取引の経済性確保などが行われた後となるため、2020年度度以降になるとみられています。2020年度には30MWの市場規模となり、2017年の5MWと比較すると6倍となる見込みです。
創エネアグリゲーションサービスは、自家発電設備の有効活用を目指すもので、市場は堅調に拡大するとみられます。自家発電設備は、デマンドレスポンスのベンダーが東日本大震災以降、災害などの緊急時に事業を安定化させるBCPの一環として提案したことで需要が増加しています。
2016年度には大阪ガスが、2017年度からは東邦ガスと静岡ガスがそれぞれエネファームの余剰電力の買い取りを開始しています。ガス会社はガスコジェネレーションシステムの所在も把握しているため、産業・業務需要家の親アグリゲーターとしても注目されています。創エネアグリゲーションサービスの市場規模は、2017年に60MWの見込みですが、2020年には200MWと3倍以上となるとみられています(図1)。

図1 容量アグリゲーションサービス 出典:富士経済
顧客料金管理システム(CIS)、2017年度~2020年は微増予測
小売電気事業者は需要家が使用した電気料金を管理する必要があります。顧客料金管理システム(CIS)は電力使用量を集約および管理し、顧客情報を基に電力料金を計算・請求するシステムです。
2017年度は電力小売全面自由化から1年が経過し、参入を様子見していた事業者が小売を開始したことで、CISの導入が増加しています。また、低圧向けCISを既に導入していた小売電気事業者が新システムに入れ替えるなどの案件がみられました。
富士経済によると、気軽に拡張できる低価格なシステムが好まれており、クラウド(SaaS)を採用するユーザーが増加しているとしています。
今後も、新電力の登録者数は増加していくものの、純増数は減少するとみられるので、CISの需要は伸び悩むと考えられます。2017年度の市場規模は66億円の見込みですが、2020年には74億円と微増に留まります(表2)。
2020年度以降は新電力の統廃合が進み、また発送電分離を含む一連の電力システム改革の動きを受けて、システム移行が行われることからCISの需要が増加すると想定されています。
2017年度見込 | 2020年度予測 | |
---|---|---|
導入数(累計) | 172件 | 217件 |
システム保守料 | 66億円 | 74億円 |
表2 顧客料金管理システム(CIS)の市場見込 出典:富士経済
電力切替アンケート、変更の動機は大多数が金銭メリットに
富士経済は2017年8月、戸建および集合住宅に住む電力ユーザーに対し、電力自由化に関するインターネット調査を行いました。その結果、電気の購入先を変更したと回答したユーザーは12.5%(1246件)となりました。
この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。
無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
---|---|
所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
電話番号 | 03-6411-0859 |
会社HP | http://eic-jp.org/ |
サービス・メディア等 | https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET |
関連する記事はこちら
一般社団法人エネルギー情報センター
2022年04月19日
関西電力や東京ガスが異業種との共同研究・調査を実施。カーボンリサイクルの社会実装を目指す
2050年までのカーボンニュートラル達成に向けて、企業の再エネ導入や自動車をはじめとするEV化の動きが活発になっています。一方、もう少し先を見据えた動きも着々と進められており、その一つにカーボンリサイクルの取り組みがあります。今回は、将来的な社会実装を目指す、関西電力や東京ガスが行っている異業種との共同研究や連携の動きをご紹介します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2022年03月29日
川崎重工の取り組みから見える日本の水素戦略と、世界各国の水素戦略について
川崎重工業(以下、川崎重工)が大型ガスエンジンにおける水素30%混焼技術を開発。昨年には世界初の液化水素運搬船を公開しました。今回は、次世代のクリーンエネルギーである水素に注力する川崎重工の取り組みに注目しながら、日本の水素戦略と世界各国の水素戦略についてご紹介します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2022年02月26日
欧州によるカーボンニュートラルへの対応、イギリスやフランスで進む核融合研究および原発新設
フランスが先日、脱炭素戦略に伴う原発新設を発表し、話題となりました。今回は、世界が化石燃料からのエネルギー転換を模索する中で、イギリスで発表された核融合研究の結果や、欧州委員会の動向、その背景について考えていきます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2021年08月10日
家庭部門のCO2排出量66%減目標、住宅の省エネルギー対策「ZEH」とは
コロナの影響により在宅勤務が日常的なものとなったことで、私たちはより快適性や経済性に優れた住まいに対する関心は高まりつつあるのではないでしょうか。そのような中で、7月26日に政府が公表した「地球温暖化対策計画」の原案で、温室効果ガスの排出量を家庭部門で66%削減する検討をしていることが明らかになりました。また、27日には再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(以下、タスクフォース)にて新築戸建て住宅の約6割に太陽光発電設備を設置することが表明されました。そこで今回は、家庭部門の省エネルギーの取り組みについて、その中でも特に「ZEH(ゼッチ)」に注目して考えていきます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2021年07月09日
世界的な半導体不足の中で、『次世代パワー半導体・先端半導体』は日本の脱炭素×成長戦略のキーワードとなるか
5月19日、トヨタ自動車は「世界的な半導体不足で国内の2つの工場の稼働を一時停止する」と発表しました。約2万台の生産に影響が出るといいます。加藤官房長官は「半導体は産業のコメともいわれ、経済社会を支える極めて重要な基盤の部品」と述べた上で、「代替装置の調達支援など経済産業省でしっかり対応していく」としました。しかし、31日、米インテルCEOは「半導体不足解消はあと数年かかる」という見方を発表しています。 では今回は、いつから、どうしてこのような半導体不足という事態が起こったのか、またそこから見えてきた課題とは。そしてそれを克服し、脱炭素社会実現と経済成長の原動力とするための日本の取り組みについてご紹介していきます。