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日本発!次世代ペロブスカイト太陽電池:フレキシブル発電が都市を変える 実装課題と産業戦略【第3回】社会実装シナリオと市場インパクト — 建築外皮・街路インフラ・モビリティ等の導入像/系統・蓄電(BESS)との組み合わせ/エネ安保・脱炭素効果の定量化と政策提言
| 政策/動向 | 再エネ | IT | モビリティ | 技術/サービス | 金融 |
2025年10月31日
一般社団法人エネルギー情報センター

第一回ではペロブスカイト太陽電池の特性と政策背景を、第二回では実装課題・量産・標準化の現状をお伝えしました。 最終回となる本稿では、社会実装の具体像を描きます。建築外皮、街路インフラ、モビリティといった“都市空間そのもの”に発電機能を組み込むシナリオを軸に、系統・蓄電(BESS)との統合運用や、エネルギー安全保障・脱炭素への貢献を数値的な側面から読み解きます。 さらに、制度設計・金融支援・標準化の動向を踏まえ、日本が形成しつつある「都市型エネルギーエコシステム」の全体像を明らかにします。
1. 建築・街路・モビリティ:都市スケールでの社会実装
1-1. 建築外皮とBIPV:都市デザインが“発電”をまとう時代へ
すでに前編・中編で紹介したYKK APやAGCをはじめ、各社が外壁・窓・屋根などの建材と発電層を融合させる研究・実証を進めています。
軽量で高意匠性を備えたペロブスカイト太陽電池は、高層ビルの外壁やガラスファサードなど、これまで設置が難しかった場所にも柔軟に適用でき、建築そのものが発電体となる時代を切り拓いています。
建築設計の初期段階から発電機能を組み込む「エネルギー・アーキテクチャ」という考え方も広がり、採光と発電を両立するデザインや、外観と調和した外壁モジュールの配置が進化しています。
可視光透過型モジュールの採用により、景観地区や歴史的建築でも外観を損なわず再エネを導入できるようになりました。
発電設備を建てるのではなく、都市そのものが発電する社会像が現実味を帯びつつあります。
1-2. 街路・モビリティ:動く社会インフラへの応用
ペロブスカイト太陽電池の軽量性と柔軟性は、街路やモビリティなどの動的インフラにも広がりつつあります。
防災型街路灯やバス停、信号機上部などの公共設備にフィルム型発電ユニットを設置する実証が進められており、夜間照明や通信機器の電力を自立的にまかなう試みが始まっています。
また、沿岸部や離島では、塩害に強い軽量電源としての採用が検討され、災害時の非常用電力確保にも寄与しています。
自動車分野では、トヨタ自動車とEneCoat Technologies(京都大学発スタートアップ)が車載向けペロブスカイト太陽電池の共同開発を進めています。自動車の屋根などに貼り付けて補助電力を供給する構想で、車載電子機器や空調系への給電を視野に研究が進行中です。
両社が開発を進めるシースルー型ペロブスカイト太陽電池は、軽量かつ柔軟なフィルム構造を持ち、自動車ルーフや曲面建材への適用を想定。EVの航続距離拡大やエネルギー自立走行の実現にも寄与すると期待されています。

図1:シースルー型ペロブスカイト太陽電池の発電構造
出典:株式会社エネコートテクノロジーズ
「ペロブスカイト/シリコンの4端子タンデム型太陽電池で変換効率30%超を達成」(2025年1月17日)
モビリティそのものが発電機能を備えることで、街や交通網が「電力を運ぶ」から「電力を生み出す」社会インフラへと進化しつつあります。
2. 系統連系とBESS:分散×蓄電の新たな運用モデル
2-1. 分散電源とVPPが支える都市の需給最適化
都市部でペロブスカイト太陽電池を普及させるには、蓄電池(BESS)との統合制御が欠かせません。
小規模で分散的に配置された電源を効果的に運用するには、電力系統と連携したデジタル制御の仕組みが必要になります。
経済産業省(資源エネルギー庁)は2025年度もVPP(バーチャルパワープラント)実証事業を継続し、複数地域で実装フェーズへ移行する取り組みを進めています。
図2に示すように、VPPはアグリゲーターを中心に、分散電源や蓄電池、EV充電設備などを遠隔制御し、需要と供給をリアルタイムで調整する仕組みです。
このネットワークを活用することで、地域単位での電力需給を最適化し、安定した電力運用を実現できます。

図2:VPP(バーチャルパワープラント)の全体構成。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「VPP・DR実証事業について」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/advanced_systems/vpp_dr/about.html
建物の外壁や窓に設置されたペロブスカイトモジュールの発電データはクラウド上に集約され、AIによる需要予測と自動制御によって効率的な電力運用が可能になります。
こうした取り組みは、「電力を集約する時代」から「電力を協調させる時代」への転換を象徴しています。
さらに災害時には、各拠点が自立運転に切り替わることで、避難所や通信設備を支える分散型のエネルギー基盤として機能します。
ペロブスカイト太陽電池とBESSを組み合わせた新しい都市エネルギーモデルが、レジリエンスと脱炭素の両立を支える要となりつつあります。
2-2. マイクログリッドと地域エネルギーの新たな形
全国では、大学や自治体を中心に、分散型電源を束ねたマイクログリッドの整備が進んでいます。
これは、太陽光や蓄電池、EVを地域内で連携させ、平常時は系統と連系しながら、災害時には独立して稼働する「地域完結型エネルギーネットワーク」です。
従来はシリコン系モジュールが主流でしたが、近年では軽量で施工性に優れるペロブスカイト太陽電池を組み込む動きが拡大。既存建築や街路設備にも後付けでき、都市部のエネルギー自立度を高めています。
防災拠点となる庁舎や学校では、BIPV(建材一体型太陽光)とBESS(蓄電)の組み合わせによる自立運転を想定した計画・実証が各地で進んでいます。平時は地域の電力需要を補い、非常時は避難所や通信設備を支える“エネルギーのセーフティネット”として機能する構成です。仙台では震災期にマイクログリッドが数十時間にわたり電力供給を維持した事例があり、近年はDX(VPP)と連携するモデルも検討されています。
また、VPP実証との連携により、複数拠点をクラウドで制御するバーチャル連系も検討が進み、ペロブスカイトが次世代都市エネルギーの中核を担う存在として位置づけられつつあります。
第3章 エネルギー安全保障と脱炭素効果の定量化
3-1. 都市分散型エネルギーとしての意義
図3に示すように、日本の太陽光発電の累積導入量(ACベース)は2024年末時点で約75.6GWに達し、2030年度には103.5〜117.6GWの導入を目標としています。
こうした拡大の中で、ペロブスカイト太陽電池は新たな設置領域を開拓する技術として注目されており、軽量で柔軟なフィルム型の次世代太陽電池として、分散配置型電源の担い手となることが期待されています。

図3:太陽光発電の導入状況
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「今後の再生可能エネルギー政策について」(2025年6月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/074_01_00.pdf
軽量で柔軟なフィルム型特性を持つペロブスカイト太陽電池は、建築外皮や街路、モビリティなどへの導入を通じて、都市空間全体に分散型電源を構築する動きを後押ししています。
発電が消費地点の近くで行われることで送電ロス(全国平均約4〜5%)の低減が期待され、都市部における「発電と消費の近接配置」は電力供給効率を高める要素となります。
これにより、燃料輸入依存度の低下や災害時のレジリエンス確保といったエネルギー安全保障上の効果が高まると考えられます。
分散化による効率改善の定量評価には前提条件の整理が必要ですが、政策的には「地域で完結するエネルギー供給」への転換を促す重要な要素と位置づけられています。
3-2. CO₂削減・経済効果の試算
技術開発機関であるNEDOが公表した「太陽光発電開発戦略2025」では、ペロブスカイトを含む次世代薄膜太陽電池の実用化を戦略の柱の一つに掲げています。
仮にこの技術を活用した都市分散型の太陽電池が10GW規模で導入された場合、日本の平均設備利用率(約14〜14.5%)を用いると、年間約114〜127億kWhの発電量が見込まれます。これは約300万世帯分(世帯平均3,950kWh/年換算)の電力需要をまかなう規模に相当します。
CO₂削減効果については、系統平均の排出係数(0.42〜0.44 kg-CO₂/kWh)を適用すると、年間約480〜560万トンのCO₂削減に寄与する計算になります。さらに、ペロブスカイト電池は製造時のエネルギー投入量が少なく、LCA研究ではエネルギー回収期間(EPBT)が1年未満となる可能性も報告されています。ただし、これは研究段階での見通しであり、商用モジュールとしての確立値には今後の実証が必要です。
また、屋根・壁・街路・車体といった都市の「面」を発電面として活用することで、設置可用地の制約を大幅に緩和できます。これにより、再エネ導入のボトルネックを克服しつつ、都市部でもエネルギー自立と脱炭素の両立を図るモデルとして、日本発の分散型再エネシステムが注目を集めています。
第4章 制度・標準化・金融支援の方向性
4-1. 制度と標準化:実装に向けた基盤整備
ペロブスカイト太陽電池の社会実装に向けては、安全性と信頼性を確保する制度基盤の整備が最重要課題とされています。
特に、建材一体型太陽光発電(BIPV:Building Integrated Photovoltaics)の普及を見据え、国土交通省は2025年度、建築基準法および建築物省エネ法に基づく評価制度の改訂を進めています【国交省, 2025年5月 審議会資料】。
防火性能や構造強度、電気安全を一体的に評価できる新基準が検討されており、屋根・外壁・窓などの建材に太陽電池を組み込む際の設計・施工・維持管理のガイドラインが明確化されつつあります。これにより、BIPV導入の制度的ハードルが下がり、商用化への環境整備が進む見通しです。
国際標準化(IEC TC82/WG12による耐久性・封止・環境ストレス試験などの評価枠組み)については、中編で述べたように、日本が国際議論に参画し、規格整備が進行中です。
国内では、これを踏まえたJIS反映や審査基準の検討が進められており、社会実装に向けた制度基盤の整備が本格化しています。
4-2. 金融支援と市場形成:制度実装から社会実装へ
制度整備と並行して、資金の流れをつくる仕組み(ファイナンスモデル)も動き出しています。
環境省や経済産業省では、再生可能エネルギー導入を支援する補助制度や公募事業を継続しており、地方自治体や企業が初期費用を抑えて設備を導入できる枠組みが広がっています。
特に、第三者所有型(PPA)モデルのように、発電事業者が設備を設置し、建物所有者は使用した電力分だけを支払う仕組みが拡大しており、初期投資を抑えながら再エネを導入できる点が注目されています。
また、金融面ではグリーンファイナンスやESG投資が活発化し、地銀や信託銀行が地域レベルでの再エネ事業に資金を供給しています。
この動きにより、公共施設や街路灯などの再エネ化プロジェクトが官民連携で進めやすくなり、地域内でお金が回る仕組み(地域資金循環)の構築にもつながっています。
さらに、政府は再エネ関連サプライチェーンの強化を重点政策に掲げ、部材・装置の国内生産体制を支援しています。
これにより、研究開発から実証、量産、販売までを国内で一貫して進められる環境が整いつつあります。
こうした「制度・金融・産業支援」が連携することで、ペロブスカイト太陽電池のような次世代エネルギー技術を社会に広げる基盤が着実に形になり始めています。
⚫︎まとめ
ペロブスカイト太陽電池は、これまでの太陽光発電の枠を超え、建物や街、車など都市そのものをエネルギー化する技術へと進化しています。
封止技術やロール・トゥ・ロール(R2R)製造などの開発に加え、制度整備・標準化・金融支援といった社会的基盤が整うことで、研究から量産、そして社会実装へと着実に進んでいます。
ペロブスカイト太陽電池は、再生可能エネルギーの中でも特に都市に適した次世代電源として、日本のエネルギー安全保障と産業競争力の両面を支える存在になりつつあります。
今後は、建築や街路、モビリティなど分野をまたいだ連携が進み、「都市に貼る電源」が日常の風景の一部となっていくことが期待されています。
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