政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第3回】民間企業が牽引する核融合ビジネスの現在地 国内外で加速する産業化の動き
| 政策/動向 | 再エネ | IT | モビリティ | 技術/サービス | 金融 |
一般社団法人エネルギー情報センター

第1回では核融合の基本原理と方式を、第2回ではJT-60SAやLHDを中心に日本の研究基盤を整理してきました。近年は研究成果が民間へ移行し、実証炉開発や供給網整備が本格化しています。高温超伝導やAIなどの技術進展により小型化と効率化が進み、投資も拡大。本稿では国内外スタートアップの動向と商用化に向けた論点を整理します。
1.国内スタートアップが描く核融合の実装ロードマップ
日本では、研究機関が積み上げた技術的成果を基盤に、民間企業が実装フェーズを担う構図が明確になりつつあります。ここ数年で、商用炉を見据えた「炉本体の開発」と「周辺技術の産業化」が並行して進んできました。
(1)Helical Fusion ― ヘリカル方式を軸に商用炉の三条件を満たす設計へ
Helical Fusion株式会社は、LHD(大型ヘリカル装置)の研究資産を継承し、民間主導で実装炉の設計を進める日本初のスタートアップです。同社は2025年10月、商用炉に不可欠な「定常運転」「ネット発電」「保守性」の三つを満たす設計方針を示し、ヘリカル方式が持つ連続運転の優位性を産業化に結びつける姿勢を打ち出しました。
2025年11月には、英国の国際ディープテックコンテスト「TECH PLANTER WORLD in UK 2025」で最優秀賞を受賞しました。研究機関主導が中心だった核融合分野で民間ベンチャーが国際評価を得たことは象徴的で、日本発の核融合炉メーカー誕生への期待が一段と高まりました。
同社が重点を置くのが、高温超伝導(HTS)コイルの実用化です。HTSは装置の小型化・高磁場化を可能にし、冷却の簡素化や電力収支の改善につながる要素技術であり、世界中の企業が競う領域です。Helical FusionはこのHTS技術をヘリカル炉に最適化することで、2030年代の発電実証を視野に入れたロードマップを描いています。
(2)京都フュージョニアリング ― 実験炉から実装炉へ橋渡しする技術開発
京都フュージョニアリング株式会社は、核融合炉の成立に不可欠な周辺技術を民間で担う国内企業です。2025年9月にはシリーズCで約93.8億円を調達し、冷却系、ブランケット、加熱装置といった主要コンポーネントの開発体制を強化しました。同社はこれまでJT-60SAやITER向けに機器供給を行ってきた実績があり、日本の民間企業が国際プロジェクトに参画する代表例として位置づけられています。
特徴的なのは、研究炉向けで培った技術を基に、商用炉で必要となる熱管理・材料評価・トリチウム管理を産業レベルで統合し始めている点です。ブランケットの熱制御やトリチウム挙動の評価は、商用炉の経済性や安全設計と直結する領域であり、“実装技術を民間主導で確立する”流れを象徴しています。
さらに2025年11月には、同社が参画する国内商用炉プロトタイプ「FAST」が概念設計(CDR)を1年で完了し公開されました。Starlight Engineを中心とした産学連携型プロジェクトで、2030年代の発電実証を目指す日本初の民間主導CDRです。ブランケット、燃料サイクル、遠隔保守といった商用炉技術を統合設計したことで、日本の核融合産業が研究段階から“実装段階”へと移りつつあることを示す重要なマイルストーンとなりました。
Helical Fusionが「炉本体」、京都フュージョニアリングが「周辺装置・プラント実装」を担う構図は、日本の核融合スタートアップが明確な役割分担のもとで発展していることを示しており、国内産業に本格的な成長曲線が描かれ始めています。

出典:京都フュージョニアリング/Starlight Engine プレスリリース(2025年11月27日)
2.海外スタートアップの勢いと日本企業の国際連携
核融合の産業化をめぐる動きは、日本だけではなく世界各国でも加速しています。政策支援、民間投資、大学発スタートアップの連携が同時に進み、核融合を次世代エネルギーとして位置づける動きが国際的に広がっています。
(1)CFS(米国)を中心に進む小型トカマク炉の開発
米国のCommonwealth Fusion Systems(CFS)は、大学発スタートアップが核融合開発を主導する代表例として国際的に存在感を高めています。MITプラズマ科学研究所の成果を基盤に、高温超伝導(HTS)コイルを組み込んだ小型トカマク炉「SPARC」の実証を進めており、“高磁場×小型化”という民間主導の開発アプローチを具体化しています。HTSによって装置体積を大幅に縮小できる点は、企業規模でも扱える実証炉の実現可能性を押し上げています。
2025年には日本の大手企業がCFSへ出資し、要素技術の共同開発・部材供給・将来の商用炉設計で連携を深めています。単なる投資にとどまらず、国際的な核融合サプライチェーンに組み込まれる動きが広がっており、日本企業にとっては新たなエネルギー産業への参入機会となっています。
世界全体では、核融合スタートアップへの累計投資が2024年時点で67億ドルを超え、2025年も増加傾向が続いています。長期的な市場成長が見込まれるなか、CFSの「SPARC→ARC」へと続く段階的ロードマップは、民間主導で実証炉から商用炉へ移行するモデルケースとして注目されています。
(2)欧州・英国で進む実証計画と「政府+民間」の共同体制
欧州および英国でも、核融合を中長期の戦略エネルギーとして位置づける政策が進んでおり、実証炉開発に向けたプロジェクトが本格化しています。英国政府は「STEP(Spherical Tokamak for Energy Production)」プログラムを掲げ、2030年代の小型商用炉実証を国家プロジェクトとして進めています。政府が明確なロードマップを示し、それに基づき大学・研究機関・スタートアップが共同開発を行う点が特徴で、研究から産業への移行を国家的に後押しする体制が構築されています。
欧州では、民間投資ファンドが核融合企業への出資を積極化しており、スタートアップの研究開発を支える資金環境が整備されつつあります。ドイツ、フランス、北欧などでも新興企業が台頭し、ブランケット材料、熱制御、トリチウム管理など、商用炉に不可欠な周辺技術が民間主導で発展しています。欧州はもともとITERの主要参加地域であり、実験炉で培われた技術を実装炉へ応用する知見が豊富で、その資産をもとに民間企業が産業化フェーズへ進む準備が進んでいます。
日本企業も、サプライヤー・投資家・共同開発パートナーとして欧州プロジェクトに参加しており、国際連携の重要性はさらに高まっています。欧州の実装フェーズが前進するなかで、日本の材料技術や精密製造技術が果たす役割も大きく、産業化に向けた協力関係が深まっています。

出典:UKAEA STEP公式サイト “About STEP” より
この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。
無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
| 企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
|---|---|
| 所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
| 電話番号 | 03-6411-0859 |
| 会社HP | http://eic-jp.org/ |
| サービス・メディア等 | https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET |
関連する記事はこちら
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年12月27日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第5回】社会実装と中長期シナリオ 2030年代のロードマップと日本の戦略
これまで4回にわたり、核融合という次世代エネルギーの可能性を、研究・技術・制度の観点からたどってきました。長らく“夢のエネルギー”と呼ばれてきた核融合は、いま確実に社会の現実へと歩みを進めています。 最終回となる今回は、社会実装に向けたロードマップと、日本が描くべき中長期戦略を考えます。 核融合が“希望の象徴”で終わらず、私たちの暮らしに息づくエネルギーとなるために、次の時代に向けた道筋を描きます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年12月17日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第4回】制度設計・安全規制・地域産業化 社会実装に向けた最新動向
第1回では核融合の基本、 第2回では国内研究基盤、 第3回では民間企業による産業化の動きを整理してきました。 こうした技術・ビジネス面の進展を踏まえ、2025年後半には「社会実装」に向けた制度づくりや安全規制の検討が政府内や国際機関で動き始めています。国際基準への日本の参画や、地域での研究・産業活動の広がりなど、核融合を社会に組み込むための枠組み形成が進みつつあります。 本稿では、制度・安全・産業の三つの観点から、この転換点の現在地を整理します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年11月30日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第3回】民間企業が牽引する核融合ビジネスの現在地 国内外で加速する産業化の動き
第1回では核融合の基本原理と方式を、第2回ではJT-60SAやLHDを中心に日本の研究基盤を整理してきました。近年は研究成果が民間へ移行し、実証炉開発や供給網整備が本格化しています。高温超伝導やAIなどの技術進展により小型化と効率化が進み、投資も拡大。本稿では国内外スタートアップの動向と商用化に向けた論点を整理します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年11月24日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第2回】国内研究最前線 JT-60SAとLHDが描く日本の核融合ロードマップ
地上に“小さな太陽”をつくるという挑戦が、いま日本の研究現場で確実に動き始めています。 第1回では、核融合がどのようにエネルギーを生み出すのか、その基本原理や世界的な動向について整理しました。今回はその続編として、日本が持つ二つの主要研究拠点、「JT-60SA(大規模トカマク型装置)」と「LHD(ヘリカル方式の大型装置)」に焦点を当て、国内で進む最前線の取り組みを詳しく解説します。 どちらも世界トップクラスの規模と技術を誇り、2030年代の発電実証を目指す日本の核融合開発に欠かせない“橋渡し役”として国際的にも注目されています。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年11月13日
政府も注目する次世代エネルギー、核融合の仕組みと可能性 【第1回】核融合“超入門” 地上に「小さな太陽」をつくる挑戦
地上に“小さな太陽”をつくる、そんな壮大な計画が世界各地で進んでいます。 核融合とは、太陽の内部で起きているように、軽い原子が結びついてエネルギーを生み出す反応のことです。燃料は海水から取り出せる水素の一種で、CO₂をほとんど出さず、石油や天然ガスよりもはるかに効率的にエネルギーを取り出すことができます。 かつては「夢の発電」と呼ばれてきましたが、近年は技術の進歩により、研究段階から実用化を見据える段階へと進化しています。 2025年6月当時は、高市早苗経済安全保障担当大臣のもと、政府が核融合推進を本格的に強化しました。 同月に改定された「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」では、研究開発から産業化までを一貫して支援する体制が打ち出されています。 今回はその第1回として、核融合の基本的な仕組みや核分裂との違い、主要な研究方式をわかりやすく解説します。



























