日本初の住民主体による地熱発電、熊本地震からの復活、資金をクラウドファンディングで調達

2017年11月13日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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10月31日、熊本県の「わいた温泉郷」で、2016年の熊本地震で損傷した地熱発電の生産井戸の代わりとなる地熱井戸の掘削費用を、クラウドファンディングで調達する募集が完了しました。募集期間は2017年4月18日~2017年10月31日となり、一口あたりの金額は10,800円、254人が参加しました。

住民主体でつくられた「フラッシュ方式」の地熱発電

熊本県阿蘇郡小国町わいた地区は、大分県と隣接するわいた山の麓にあり、わいた温泉郷としても知られています。わいた温泉郷は、由布院と黒川温泉の中間に位置しており、それぞれ特徴ある7軒の温泉旅館があります。集落には数多く地熱が噴気している箇所があり、その蒸気は冬場の暖房、食物や小国杉板の乾燥、蒸し調理等に利用されています。

こうした再生可能エネルギーである地熱の力を利用する発電方法に、地熱発電があります。この地熱開発について検討・推進するため、わいた地区では住民ら26人が出資する「合同会社わいた会」が2011年1月に立ち上げられました。

地熱発電は一般的に、地中深く井戸を掘り、熱水を汲み上げ利用します。そのため、温泉地域においては、温泉へ何か影響が出るのではないかという懸念から、地元の反対が生まれることもあります。わいた会によると、実際に、わいた地区でも、かつて大手デベロッパーによる大規模発電所の建設計画の話が出た際、住民は推進派と反対派に分かれ対立し、結局その計画は中止になったといいます。

しかし、それから約10年の時を経て、住民の超高齢化が進み地域に活力が失われていく中で、再び地熱発電の話が住民の中から浮上しました。そこから、前述の「わいた会」が設立される流れとなり、2015年6月には日本で初となる、住民主体でつくられた発電所が商用運転を開始しました。

一般に温泉地で建設される地熱発電所は、100度以下の熱水を利用することで、短い開発期間、低い開発リスクを可能とする「バイナリー発電方式」が多いです。しかし、わいた地熱発電所では、大規模な地熱発電所で使われている「フラッシュ発電」を採用、発電能力は1950キロワットに達します(図1)。

フラッシュ方式について

図1 フラッシュ方式について 出典:わいた会

熊本地震で破損した地熱発電、クラウドファンディングで復活

日本においては長期間において地熱開発が滞っていたため、「わいた地熱発電所」の商用運転開始は、日本にとって16年ぶりの出来事となります。しかし、操業開始から一年もたたない2016年4月、熊本地震により被災し発電所の生産井が破損しました。

この生産井は、現在では検査の結果、井戸の健全性が確認され運転が続行していますが、当時は運用に不安を抱えるものでした。そのため、わいた会は、熊本地震で損傷した生産井の代わりとなる地熱井戸を掘るための費用を、クラウドファンディングにて募集し、2017年10月31日に募集が完了しました。このクラウドファンディングは、ミュージックセキュリティーズ社のウェブサイト「セキュリテ」で呼びかけられていました(図2)。

ファンドの仕組み

図2 ファンドの仕組み 出典:わいた会

募集期間は2017年4月18日~2017年10月31日と設定され、254人が参加しました。一口あたりの金額は10,800円(内訳:出資金5,000円 応援金5,000円 取扱手数料800円)です。投資家特典として、地熱を活用することで乾燥させた椎茸や、ドライトマト等のオリーブオイル漬け等があります(図3)。10口以上からは、詰め合わせセットの代わりに、わいた温泉郷の旅館の宿泊券(1泊2食付き、1名分)を選ぶことができます。

ジオマルシェの瓶詰

図3 ジオマルシェの瓶詰 出典:わいた会

地熱が地域産業の創生に、固定価格買取後の収益源を開拓

わいた発電所は固定価格買取制度のもとで運営されています。ただ、地熱発電の場合、当該制度は15年間適用されますが、逆に15年が過ぎてしまうと恩恵を受けることができません。そのため、この期間内で発電に代わる次なる収益源を開拓する必要がありました。

「わいた会」は、わいた地区は地熱資源に恵まれているため、温泉観光と乾燥食材加工を組み合わせることにより、地域産業を創生できると想定しています。具体的には、2016年から国の補助金を受け、グリーンハウスによってパクチーやバジルの試験栽培を始めています。

発電所からの温水を利用しているため、年間を通してこれらの作物を収穫できることが既に確認されています。このグリーンハウスでの成功を周辺農家に広げるほか、さらには乾燥させ商品化したり、体験調理用に食材として使用されており、観光と農業を組み合わせられる可能性があります。

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