脱炭素社会への移行期に注目されるトランジションファイナンスPart1~政府が約20兆円規模の移行債を発行へ

2022年08月05日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

脱炭素社会への移行期に注目されるトランジションファイナンスPart1~政府が約20兆円規模の移行債を発行への写真

日本郵政が国内初、200億円の移行債を発行してから、各業界企業で動きが進んでいる「トランジションファイナンス」。脱炭素へ一気に移行しづらい産業の取り組みを支援するものです。2回にわたってご紹介します。Part1では、その概要や企業事例についてご紹介します。

トラディショナルポンド(移行債)が注目される背景

岸田首相が5月19日、首相官邸で開いたクリーンエネルギー戦略に関する有識者懇談会の会合で「約20兆円規模のGX経済移行債(仮称)の発行を検討する」と表明しました。これは、今後10年間で脱炭素社会に向けて必要となる総額約150兆円の投資資金のうち政府資金を調達するための施策のひとつです。

脱炭素関連の資金確保では現在、グリーンイノベーション基金が創設されていますが、規模は2兆円程度です。今回のトラディショナルポンド(移行債)で政府として20兆円規模の資金を確保して民間資金を呼び込みます。早ければ2023年の通常国会に関連法案を提出し、同年度中の発行を目指します。

このような流れには2つの背景があります。

1つ目は、これまで脱炭素マネーは、CO2排出ゼロの事業で「グリーン」と呼ばれる領域を重視してきました。一方、排出量はゼロではないが、現在より排出量削減が見込まれる技術や設備の導入といった部分に光があたることは少なくマネーが集まりにくい状況でした。
しかしウクライナ危機以降のエネルギー価格の高騰などを受け、グリーンシフトは加速しています。そこで、脱炭素への移行を円滑に進める政策が必要との認識が広がっています。こうした動きを「脱炭素への移行」という意味で「トランジション」と呼ばれます。

2つ目は、CO2排出量が多く環境負荷が高い産業(鉄鋼や化学、運輸、エネルギーなど)では、グリーンボンド(環境債)の発行は要件が厳しいとされてきました。しかし、そうした産業でこそ脱炭素化が進まないと、2050年のカーボンニュートラルは実現できないという危機感があります。そこで経済産業省などは、日本でのトラディショナルポンドの発行が進むよう、環境整備を進めてきました。省エネや技術開発によって排出量の多い産業や事業の低炭素化を後押しします。

出典:経済産業省

トラディショナルファイナンスとは

現在、脱炭素の資金を調達する手段として最も普及しているのが、環境債です。環境債についてはこちらのコラムでご紹介しています。(ご参考: https://pps-net.org/column/98405 )移行債はトランジションファイナンスの一種です。トランジションファイナンスでは他にトランジションレンディング(移行融資)やなどがあります。

近年、国際資本市場協会(ICMA)がトランジションファイナンスの市場整備を進めてきました。日本ではICMAのガイダンスを元に金融庁、経済産業省、環境省が国内向けのトランジションボンドの基本方針を定めました。

移行債は、資金使途がグリーンに限定されない点が環境債と異なり、調達主体が定めた目標がパリ協定と整合していることを求められる点でサステナビリティ・リンク・ボンド/ローンと異なります。

また、「調達した資金の充当対象のみでは判断されず、資金調達者の戦略や実践に対する信頼性を重ね合わせて判断される」としています。このことから、より将来に対して野心的な取組を担保する主体へのファイナンスであるという特徴がうかがえます。

出典:経済産業省

ここで、トランジション・ファイナンスモデル事業として、日本郵政とJFEホールディングスの取り組みを簡単にご紹介します。(電力会社の取り組みはPart2にてご紹介します。)

国内初の移行債、日本郵船が200億円発行

2021年7月2日、脱炭素戦略を前提とした移行債の発行は国内で初となりました。海運業界としては世界でも初めてとなるということです。重油燃料船のリプレイスとして液化天然ガス(LNG)燃料船の購入費用や、他には洋上風力発電支援船や水素・アンモニア燃料船などの研究開発、実証等にもあてる計画です。

国内製造業初、JFEが 300億円の移行債発行

2022年1月20日、国内製造業で初めての移行債の発行となったJFEホールディングスは、2050年の目標達成のために鉄鋼事業だけで50年までに3兆~4兆円の設備投資が必要で、資金調達が課題でした。調達する300億円は製鉄工程の省エネ化や、岡山県の製鉄所での電動車向けモーター用鋼板の投資などに充てる計画です。

まとめ

海外でも移行期の対応は重視されています。2021年12月に米国鉱山会社のニューモントは10億ドルを調達した他、同年11月にニュージーランドの大手エネルギー供給会社のジェネシス・エナジー社も7,200万ユーロを確保しています。

日本では今後、経済産業省が金融機関や投資家向けに情報開示を強化するために、鉄鋼や化学など排出量の多い業種について、業種ごとの技術開発の展望や排出削減率を記載した工程表を拡充する予定です。

環境省は「資金調達者の前向きな挑戦と資金供給者の理解など、双方の創意工夫のもとで、何がトランジションファイナンスなのか事例を積み上げながら明確にしていくことが必要不可欠である。」と説明しています。GXリーグで産学官連携やルールメイキングの動きを加速させていることもあり、トラディショナルファイナンスに関しても企業が積極的に活用し、さらには世界に日本の取り組みを積極的に打ち出していくことが重要と考えられます。GXリーグについてはこちらのコラムでご紹介しています。(ご参考: https://pps-net.org/column/105393

次回Part2では電力分野のトランジション・ロードマップや企業事例についてご紹介します。

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