国内メガバンク、3社とも新設石炭火力発電への投融資を停止、気候変動対策への対応強化
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2020年05月05日
一般社団法人エネルギー情報センター
昨年の三菱UFJフィナンシャルグループの発表に続き、みずほフィナンシャルグループおよび三井住友フィナンシャルグループが新設の石炭火力へのファイナンスを原則停止する方針を公開しました。これにより、3大メガバンクが石炭火力への対応につき概ね足並みを揃えることとなりました。
3大メガバンク、新設の石炭火力への投融資を原則停止
気候変動は、さまざまな経済・社会的課題とも密接に結びついており、中長期的な視点での対応が必要な重要課題としての認識が広まりつつあります。
エネルギー分野において、特に石炭火力発電は、他の発電方式と比較して相対的に温室効果ガス排出量が多く、硫黄酸化物・窒素酸化物等の有害物質を放出する等、気候変動や大気汚染への懸念が高まるリスクを内包しています。そのため、世界各国の多様なセグメントから廃止の声が高まっている状況です。
これまで国内メガバンクの融資方針として、石炭火力については世界最新鋭である超々臨界圧など、温室効果ガスの排出量も比較的少ない高効率の案件に限定して投融資等を行う形を取っていました。しかしながら、国際的には日本の石炭火力への対応には批判が集まっており、一例として COP25では、日本の金融機関・投資家が石炭投融資リストのトップを独占しているという報告書が発表されました。
COP25にて提示された報告書によると、日本の民間銀行であるMHFG、MUFG、SMBCグループが石炭火力発電開発企業に対する最大の融資者とされています。日本の三大メガバンクは、気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の気候リスク報告に関する提言にも賛同しており、石炭火力発電事業への融資を制限するセクターポリシーを導入している中、2017~2019年の間に393億米ドル(約4兆2800億円)もの融資を石炭火力発電開発企業に行なっていることが判明しました。
しかしながら、日本政府も批准しているパリ協定や、SDGsの活性化により、大勢の健康を守り、豊かな自然を形成する環境対策を行うということが、国際社会においてビジネスのパスポートとなりつつある中、世界中の国々で多様な対策が取られています。
こうした中、みずほフィナンシャルグループ(MHFG)および三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)は2020年4月、「石炭火力発電所の新規建設を資金使途とするファイナンスを原則行わない」という方針の厳格化を実施すると発表しました。
残り1社のメガバンクである三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)については、昨年5月に「MUFG環境・社会ポリシーフレームワーク」を改定しており、メガバンクの中で初めて石炭火力発電所新設へのファイナンスは原則停止することを決定しています。そのため、MHFGおよびSMFGの方針転換により、3大メガバンクは3社とも、新設の石炭火力発電へのファイナンスを行わない方針で足並みを揃えたこととなります。
みずほ、2050年度までに融資残高をゼロとする予定
石炭火力への対応方針については、メガバンク各社により内容が細部で異なりますが、本記事ではMHFGの概要を見ていきます。
石炭火力発電への対応として、MHFGはこれまで、原則として超々臨界圧及び、それ以上の高効率の案件に限定して投融資等を行うとしていました。また、国際的なガイドライン(OECD公的輸出信用ガイドラインなど)、導入国のエネルギー政策・気候変動対策、日本のエネルギー政策や法規制と整合する場合に限り、石炭火力発電の案件に対応するといった方針でした。
しかしながら、今回の新方針では「石炭火力発電所の新規建設を資金使途とする投融資等は行なわない」として方針を変更しています。これにより、石炭火力発電所向けプロジェクトファイナンスの融資残高を2019年度比で2030年度に半減、50年度までにゼロとする目標を立てています(2019年度末残高は約3,000億円の見込み)。
ただし、新設の石炭火力発電への投融資について、運用開始日以前に支援意思表明済みの案件は除くとしています。また、今回の投融資停止の対象は「新設」であり、例えばリプレースメント案件の場合は対応となる可能性があります。リプレースメントについては、当該国のエネルギー安定供給に必要不可欠であり、温室効果ガスの削減を実現する場合は、慎重に検討の上、対応する可能性ありとしています。
その他、極めて珍しいケースと想定されますが、石炭火力発電だとしても、クリーンで効率的な次世代技術の発展等に資するような、エネルギー転換に向けた革新的な案件や、脱炭素社会への移行に向けた取り組みについては引き続き支援するとしています。
なお、ほぼ同時期に石炭火力発電新設への対応を表明したSMFGについては、超々臨界圧および方針改訂前より支援している案件については、慎重に対応を検討する場合があるとしています。
環境対策により2050年までに約1900億円規模の業績上押し効果
「みずほ」では、「気候変動への対応」を経営戦略における重要課題として位置づけ、「機会」と「リスク」を捉えて取り組みを進めています。
まず「機会」については、パリ協定や SDGs が目指す「脱炭素社会」を実現するために必要な再エネ事業をはじめとする気候変動問題に資する事業やイノベーションが、「みずほ」にとっての事業機会になるとしています。例えば、再エネ事業への投資等の拡大が考えられます。
一方で、金融機関である「みずほ」にとっての気候変動に伴うリスクとして、同社は下記を想定しています。
移行リスク
- 脱炭素化の進行によるGHG排出量の多いセクターに対する与信コストの中長期的な増加
- 国際的な気候変動への対応強化要請の高まりを踏まえ、規制リスクや、石炭火力発電をはじめとした化石燃料へのファイナンスに対するレピュテーショナルリスクの高まり
物理的リスク
- 台風・豪雨による風水災等に伴うお客さまの事業停滞による業績悪化影響、および、担保価値の毀損を通じた与信コストの増加
- 異常気象による当社資産(電算センター等)の損傷に伴う事業継続への影響、管理コストの増加
なお、こうしたリスク等への対応としてTCFD提言では、気候変動に関する様々な将来の状態に対する計画の柔軟性や戦略の耐性(レジリエンス)を高めるために、シナリオ分析を推奨しています。
この点、「みずほ」は移行リスクが高いセクターとして「電力ユーティリティ」「石油・ガス、石炭」といったエネルギー関連セクターを特定し、シナリオ分析を実施しています(図1)。なお、特にこうした移行リスクが高い業種や企業については、移行への対応が不十分な場合には、中長期的にはビジネスモデルの継続性に関するリスクが高まるとされています。
その分析によると、2050年までの与信コストの増加額は約1200(Dynamic)~3100(Static)億円と試算されました。なお、Dynamicは事業構造転換を行うシナリオであり、Staticは事業構造を転換しないシナリオのため、環境対策等の事業構造を変更したほうが「MHFGのビジネス」にとっても試算上は約1900億円有益であると考えられます。
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執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
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