デマンドレスポンスで世界最大手のEnerNOC、Enel Groupによる2.5億ドルの買収に合意
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2017年07月04日
一般社団法人エネルギー情報センター
6月22日、デマンドレスポンスで世界最大手のEnerNOCは、イタリアの大手電力・エネルギー会社であるEnel Groupによる2.5億ドルの買収に合意したと発表しました。この買収により、Enel Groupは8000人以上の顧客、合計6GWの需要応答能力を取り入れる見込みです。
電力システム安定化、電力料金低下効果が期待できるデマンドレスポンス
デマンドレスポンスは、電力需給が逼迫した際、電力会社等からの要請に基づき需要削減するモデルです(図1)。ディマンドリスポンス推進協議会によると、電力システムのコストのうち約10%が、時間割合では1%に満たないピーク需要のために費やされていますが、デマンドレスポンスはそのピーク需要を抑える働きがあります。
こうした、1年のうち99%は稼動しないピーク需要用の発電所を建設・運用することに比べて、デマンドレスポンスは経済効率が良いとされています。つまり、デマンドレスポンスが電力システムに導入されることにより、電力システム安定化への貢献、電力料金低下効果が期待されます。
図1 デマンドリスポンスの取引概要 出典:経済産業省
日本においては、これまで電力の需要量に応じて、予め発電機の整備を行い供給量を確保してきました。それは、電気は需要と供給のバランスをとるために、需要量と供給量を常に一致させなければならないからです。
これに対し、欧米ではCAISOやERCOTなど、電気の需要量を賢く制御するデマンドリスポンスで、需要と供給のバランスをとる取組が普及しています。例えば、需要のピークが発生しそうなタイミングで、皆が協力して一斉に需要量を抑制することにより、ピーク需要のために用意していた発電機の建設コストや維持管理コストを削減することができます。
EnerNOC、Enel Groupによる買収に合意
アメリカに本社を置くEnerNOCは、これまで説明してきたデマンドレスポンスの世界最大手ですが、イタリアのEnel Groupによる買収に合意したと発表しました。Enel Groupは5大陸、30カ国以上で約85GWのエネルギー管理容量を持ち、世界で6500万人以上の商業工業施設と住宅関連施設の顧客を抱えております。また、フォーチュン・グローバル500のリスト中78位の企業で、年間売り上は830億ドル(約9兆円) もの規模となります。
Enel Groupは子会社のEnel Green Power North America (EGPNA)を通して取引をする予定です。EGPNAはEnerNOCの普通株式を1株あたり$ 7.67で取得する公開買付けを開始する予定であり、2017年6月21日の同社の終値に対して約42%の増加、30日間の出来高加重平均価格に対して38%の増加となります。
この取引はEGPNAによるEnerNOC全株式の買収後、2017年の第3四半期(7月—9月)までに完了する見込みです。 なお、Morgan StanleyとGreentech Capital Advisorsが財務アドバイザーとして、またCooley LLPが法律顧問弁護士となる予定です。
この取引はEnerNOCの取締役会にて満場一致で合意され、総額約2億5千万米国ドルでの買収の合意に署名することとなりました。EnerNOC会長でありCEOのTim Healyは、「株主価値を最大化するために幅広い手段を査定し、総合的に戦略的なオプションを検討したのちに、Enel Groupとの契約を締結することができたことを大変嬉しく思う。Enel Groupと力を合わせて、より再生可能で分散したエネルギーの未来への移行を進める中で、コア事業の成長を加速し、顧客にさらなる価値を提供できることを楽しみにしている。」とコメントしています。
EnerNOCの買収により、Enel Groupは8000人以上の顧客、合計6GW(原子力発電所約6基分)の需要応答能力を取り入れる見込みです。また、顧客はデマンドレスポンスプログラムに参加することで、報酬を得ることができるようになります。Enel Groupは、EnerNOCのエネルギー管理機能を活用し、既存の顧客向けの新しいサービスのクロスセリング及び新しい市場への展開など、サービス提供を強化するとしています。
日本への影響、重要市場として引き続き事業継続
今回の買収における日本市場への影響ですが、EnerNOCは「日本は重要市場であり、これまで同様身近で、クリーンで、安全な未来を提供する」としています。また、エナノック・ジャパンは引き続き、丸紅との合弁企業として事業を行い、エナノック・ジャパンの組織には変更がありません。加えて、これまで以上に日本でのデマンドレスポンス発展に取り組む、としています。
EnerNOCは2012年に日本へ参入後、2013年~2016年度に経済産業省によるデマンドリスポンス実証に参加しています。また、経済産業省による「ネガワット取引のガイドライン作成検討会」、「ネガワットWG」に委員として参加し、日本でのディマンドリスポンス市場の発展に貢献してきました。
また、最近では2016年6月28日~2017年2月28日に、高度制御型ディマンドリスポンス実証事業として、DemandSMART(EnerNOCのDRエナジー・マネジメント・システム)により、商業及び工業需要家を対象とした高速デマンドレスポンスを実証しました(図2)。また、2017年4月には、独立系アグリゲーター最大規模の仮想発電所の商業運用を、九州電力管内で開始しています。
図2 高度制御型ディマンドリスポンス実証事業 出典:経済産業省
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一般社団法人エネルギー情報センター
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