二国間クレジット(JCM)に18件目の登録、モンゴルにおける太陽光発電事業
政策/動向 | 再エネ | IT | モビリティ | 技術/サービス | 金融 |
2017年06月14日
一般社団法人エネルギー情報センター
5月29日、環境省は日本とモンゴルの間で実施される二国間クレジット制度(JCM)の下で、5月26日付で2件のプロジェクトが登録されたと発表しました。JCM全体としては17、18件目の登録プロジェクトとなります。
二国間クレジット(JCM)に18件目の登録
気候変動問題は地球規模の課題であり、その解決のためには全ての主要国が参加する公平かつ実効性のある国際枠組の構築が重要です。そうした観点から、日本は温室効果ガス削減に向けた約束草案として、2030年度に2013年度比▲26.0%(2005年度比▲25.4%)の水準(約10億4,200万t-CO2)を削減目標とし、UNFCCC事務局へ提出しています。
こうした約束草案を達成するための方法の一つに二国間クレジット制度(JCM)があります。JCMは途上国への温室効果ガス削減技術、製品、システムなどの普及や対策を通じ、実現した温室効果ガス排出削減・吸収を、削減目標の達成に活用するものです(図1)。
図1 JCMの基本概念 出典:新メカニズム情報プラットフォーム
JCMのパートナー国は、モンゴル、バングラデシュ、エチオピア、ケニア、モルディブ、ベトナム、ラオス、インドネシア、コスタリカ、パラオ、カンボジア、メキシコ、サウジアラビア、チリ、ミャンマー、タイ及びフィリピンの17カ国です。このJCMにより、2030年度までの累積で5000万から1億t-CO2の国際的な排出削減・吸収量が見込まれています。
モンゴルの太陽光発電事業がJCM登録
5月29日、環境省は日本とモンゴルの間で実施されるJCMの下で、5月26日付で2件のプロジェクトが登録されたと発表しました。JCM全体としては17、18件目の登録プロジェクトとなります(表1)。下記にて、それぞれのプロジェクトの概要を見ていきます。
17件目:首都近郊農場での2.1MW太陽光発電による電力供給プロジェクト
17件目のJCM登録となったのは、ウランバートル市近郊の農場において、2.1MWの太陽光発電施設を建設し、火力発電の一部を代替することでCO2排出量を削減するプロジェクトです。電力の安定供給や冬季の大気汚染の軽減にも貢献します。また、農業と発電事業の組合せによる、新たな複合ビジネスモデルとしての普及が目指されるものとなります。
プロジェクト実施者は、日本側がファームドゥ株式会社、そしてモンゴル側はEveryday Farm LLC、Bridge LLCです。なお、2030年度までの累積削減量は29496tCO2となり、年間削減量では2171tCO2/年となる見込みです(図2)。
図2 首都近郊農場での2.1MW太陽光発電による電力供給プロジェクト 出典:環境省
18件目:ダルハン市における10MW太陽光発電事業
18件目は、ダルハン市近郊にある110kV変電所の隣接地に、10MWの太陽光発電プラントを建設し、発電した電力をグリッドへ送電してCO2排出量を削減するプロジェクトです。結晶系の太陽電池モジュール(パネル当たり最大出力310W、モジュール変換効率15.9%)約32,000枚(72直列ストリング数)と、周辺システムが約36haの敷地内に設置されます。
プロジェクト実施者は、日本側がシャープ株式会社、そしてモンゴル側はSolar Power International LLCです。なお、2030年度までの累積削減量157094tCO2となり、年間削減量では11221tCO2/年となる見込みです(図3)。
図3 ダルハン市における10MW太陽光発電事業 出典:環境省
JCMの下でクレジットを獲得することを目的とした資金支援事業はいくつかあり、例えば設備補助事業やADB基⾦の活用、REDD+プロジェクト補助といったものがあります。この中の設備補助事業は、途上国における温室効果ガス排出量を削減する事業を実施、そして測定・報告・検証(MRV)を行うものです。
これにより算出された排出削減量は、JCMにより日本の排出削減量として計上することを目指す必要があります。そうした事業に対し、初期投資費用の1/2を上限として設備補助が行われます(図4)。今回の2件のプロジェクトについても、この設備補助事業(2015年度)として採択され、実施されてきたものです。
図4 設備補助事業の概要 出典:地球環境センター
これまで登録されたJCMプロジェクト一覧
国名 | プロジェクト名 | 実施者(日本側) | 実施者(パートナー国側) | |
---|---|---|---|---|
1 | インドネシア | インドネシアの工場空調及びプロセス冷却用のエネルギー削減 | 荏原冷熱システム(株)、日本工営(株) | PT. Primatexco Indonesia |
2 | インドネシア | 食品工場の冷凍倉庫における高効率冷却装置の導入 | (株)前川製作所 | PT. Adib Global Food Supplies、PT. Mayekawa Indonesia |
3 | インドネシア | 食品工場の急速冷凍施設における高効率冷却装置の導入 | (株)前川製作所 | PT. Adib Global Food Supplies、PT. Mayekawa Indonesia |
4 | パラオ | 島嶼国の商用施設への小規模太陽光発電システムの導入 | パシフィックコンサルタンツ(株)、(株)InterAct | Western Caroline Trading Company、Surangel and Sons Company |
5 | モンゴル | ウランバートル市第118学校への高効率熱供給ボイラの新設 | (株)数理計画 | Anu-Service Co., Ltd |
6 | モンゴル | ボルヌール郡への高効率熱供給ボイラの新設による熱供給システムの集約化 | (株)数理計画 | Anu-Service Co., Ltd |
7 | ベトナム | デジタルタコグラフを用いたエコドライブ | 日本通運(株) | Nippon Express (Viet Nam) Co., Ltd |
8 | ベトナム | 国営病院における省エネ/環境改善によるグリーンホスピタル促進事業 | 三菱電機(株)、三菱商事(株)、三菱UFJモルガン・スタンレー証券(株) | Energy Conservation Center Ho Chi Minh City |
9 | インドネシア | 省エネ型ターボ冷凍機を利用した工場設備冷却の導入 | 荏原冷熱システム(株)、日本工営(株) | PT. Nikawa Textile Industry |
10 | インドネシア | 工場空調及びプロセス冷却用のエネルギー削減(フェーズ2) | 荏原冷熱システム(株)、日本工営(株) | PT. Primatexco Indonesia |
11 | ベトナム | BEMS開発によるホテル省エネ | 日比谷総合設備(株)、三菱UFJモルガン・スタンレー証券(株) | Hochiminh City University of Natural Resources and Environment |
12 | ベトナム | 南部地域の送配電網におけるアモルファス高効率変圧器の導入 | 裕幸計装(株) | EVN Southern Power Corporation |
13 | インドネシア | コンビニエンスストアの省エネ | (株)ローソン | PT. MIDI UTAMA INDONESIA Tbk |
14 | パラオ | 島嶼国の学校への小規模太陽光発電システムの導入 | パシフィックコンサルタンツ(株) | Palau Adventist Schools |
15 | パラオ | 島嶼国の商用施設への小規模太陽光発電システムの導入II | パシフィックコンサルタンツ(株) | Western Caroline Trading Company、Palau Investment and Development Company |
16 | インドネシア | 冷温同時取出し型ヒートポンプ導入による省エネルギー | 豊田通商(株) | PT. TTL Residences |
17 | モンゴル | 首都近郊農場での2.1MW太陽光発電による電力供給プロジェクト | ファームドゥ(株) | Everyday Farm LLC、Bridge LLC |
18 | モンゴル | ダルハン市における10MW太陽光発電事業 | シャープ(株) | Solar Power International LLC (SPI) |
この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。
無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
---|---|
所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
電話番号 | 03-6411-0859 |
会社HP | http://eic-jp.org/ |
サービス・メディア等 | https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET |
関連する記事はこちら
一般社団法人エネルギー情報センター
2022年08月05日
脱炭素社会への移行期に注目されるトランジションファイナンスPart1~政府が約20兆円規模の移行債を発行へ
日本郵政が国内初、200億円の移行債を発行してから、各業界企業で動きが進んでいる「トランジションファイナンス」。脱炭素へ一気に移行しづらい産業の取り組みを支援するものです。2回にわたってご紹介します。Part1では、その概要や企業事例についてご紹介します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2022年03月09日
自然災害増加の中、保険業界が支援する持続可能な再生可能エネルギー事業
ここ数か月、保険業界から自然災害による太陽光発電設備の被害による廃棄や近隣への賠償に関する保険商品が発売されています。今回は、脱炭素社会に向けて、保険業界が再生可能エネルギーの持続的な普及をサポートする取り組みを紹介します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2021年12月10日
エネルギー業界で拡大する環境債の発行、洋上風力など再エネ投資に利用
世界のグリーンマネーは3,000兆円を超えているとも言われ、金融市場にも脱炭素の流れが押し寄せています。その中でも環境債の発行実績の伸びは著しい状況です。そのような中、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、再エネ設備投資等のために電力会社による環境債(グリーンボンド)発行が相次いでいます。今回はそれら状況について整理していきます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2020年05月05日
国内メガバンク、3社とも新設石炭火力発電への投融資を停止、気候変動対策への対応強化
昨年の三菱UFJフィナンシャルグループの発表に続き、みずほフィナンシャルグループおよび三井住友フィナンシャルグループが新設の石炭火力へのファイナンスを原則停止する方針を公開しました。これにより、3大メガバンクが石炭火力への対応につき概ね足並みを揃えることとなりました。
一般社団法人エネルギー情報センター
2020年03月13日
債権やローンを活用した再エネ・省エネ事業に要する資金調達、環境省ガイドライン改訂
日本においては環境省が、国際資本市場協会のグリーンボンド原則との整合性に配慮しつつ、グリーンボンドガイドラインを2017年3月に策定しました。策定後約3年が経過し、その間にグリーンボンド原則の改訂や、グリーンボンド発行事例の増加に伴う実務の進展等の状況変化が生じている中、2020年3月、グリーンボンドガイドラインの改訂版が新たに策定されました。