電力自由化とエコシステム

2016年07月08日

株式会社ICTラボラトリー

代表取締役 鈴木浩之

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本来、エコシステム (Ecosystem)とは生態系を指す用語であり、動植物の食物連鎖や物質循環といった生物群の循環系を指すアカデミック用語でした。 現在は、新規な産業体系を構成しつつある発展途上の分野での企業間の連携関係全体を表すのに用いられる用語となっています。つまり、ビジネス用語になっています。(株式会社ICTラボラトリー 鈴木浩之)

1.序

本来、エコシステム (Ecosystem)とは生態系を指す用語であり、動植物の食物連鎖や物質循環といった生物群の循環系を指すアカデミック用語でした。

現在は、新規な産業体系を構成しつつある発展途上の分野での企業間の連携関係全体を表すのに用いられる用語となっています。つまり、ビジネス用語になっています。

私が初めてEcosystemという用語に触れたのは、1997年か1998年。米国での通信事業者向け通信機器展示会でのCiscoブースであった。

Ciscoが自社のルータ製品を出展するのは当然として、その一部を”Ecosystem”として、インターネット関連の中小のソフトやツールのベンダを出展させていました。

当時の私はこれを見て、「Ciscoは何をやっているのだ? 余った場所を埋めるためにパートナ企業・買収候補企業を出展させているのか? それにEcosystemは生物学の用語。なぜ、ここで使う? 所詮、Start-upのやることだし、どうでもいい。」などと思ったものだった。

その後、なぜ、Ciscoがこのような事をやっていたのかは、私も理解しましたが、その前の歴史をたどってみます。

2.通信網の歴史と進化

1980年代まで通信網は以下のようなものでした。当時、PCやワープロが事務所に導入され始めていましたが、スタンドアローンであり、通信網にはつながっていません。

通信網 ~1980年代

図1 通信網 ~1980年代

90年代になると、LAN技術もApple Talk、Token Ring等の百花繚乱からIP/Ethernetに収束し、それにあわせて事務所内LANが普及し始めます。
又、90年代後半になると、インターネットサービスも普及し始めます。

通信網 – 90年代

図2 通信網 – 90年代

普及し始めたといっても、LANの構築をできる人は社内にはいません。LANを前提としたアプリケーションソフトもありません。

インターネットが普及したといっても、できることはウェブサーフィンとメールだけです。ネットショップもありません。

何かもかも”無い無いづくし”です。

既存の枠組みの外側で、すべて、誰かが新たに創り世に送り出し、事業化した訳です。時に競争し、時に協力しながら。

そして、出来上がったものがInternet Ecosystemなのです。

IPを実用的にするには多くの機器・サービスが必要です。ルータベンダとしては大手であるが、自分には出来ないこと、他社に任せるべきことが多々ある、ということを理解していたCiscoは、それを他社に任せInternetというEcosystemを彼らと創り世に送り出しました。まさしく一つの生態系です。

そして、この生態系は、相互接続の手法としてdefacto standard を生み出しました。(関連記事:標準が電力産業に与えるインパクトを通信産業から考える

LAN環境の構築を終えた後、Ciscoを含むInternet Ecosystemのメンバーは、公衆通信網をIP化するための技術・サービスの開発に着手します。

それが冒頭で紹介した通信事業者向け展示会でのCiscoのブースだった訳です。

通信自由化から電力自由化を考える(4) 」でも述べたように、LANの普及をきっかけに、通信機器市場を決するのは自営網となり、その自営網の技術であるIPが、特に2010年以降は、公衆網の基盤技術になっていきました。

そのネットワークはNGN (Next Generation Network)と呼ばれています。

通信網2010年以降

図3 通信網2010年以降

CiscoをはじめとするIP関連ベンダは、実用化に必要な機器・サービスを提供できる体制をEcosystemとして構築することで、企業網と公衆網を獲得したのです。

通信網を律するルール、Ecosystemが電話からInternetに変わり、それに伴い、IPに基盤を置く通信機器ベンダが業界上位となり、電話Ecosystemに基盤を置く通信機器ベンダはほとんどが倒産しました。

今は、携帯電話に基盤を置くNokiaとEricsson、コンピュータにも基盤を置く富士通・NECが生き残っているという状況です。

公衆網の広帯域化・データ通信対応は規定路線でしたが、その主要技術はATMでした。

しかし、Internet Ecosystemが必要な技術・サービス一式を提供することで、公衆網はATMからIPに方向転換したのでした。

3.今後、電力業界はどうなる?

今の送配電システムは全国9電力会社の発電所をルートとした下図のような構成です。

現状の送配電網

図4 現状の送配電網

今後、新電力各社を送配電網に入れ込むため、家庭での発電量を送配電網に入れ込むため、以下のような構成に変わっていきます。

今後の送配電網

図5 今後の送配電網

又、マイクログリッド・ナノグリッドで開発された技術が、発電所・送配電網にも使われていくと予想されます。

送配電網の改造は既存電力会社主導で進む可能性が高いと予想されます。

しかし、マイクログリッド・ナノグリッドの開発は民間主導で進む局面が多々、予想されます。マイクログリッド・ナノグリッドを制する技術は何か?

又、マイクログリッド・ナノグリッドは、どのようなEcosystemを生み出すか?

“無い無いづくし”であるがゆえに、新しい技術・サービスを作り出すことができる。しかも、マイクログリッド・ナノグリッドは、その良き苗床になりうる。

ここに、10年後・20年後の主役交代の要因があるかもしれない。

まだまだ、目を離せない。

通信自由化・発展が社会に与えたインパクト

図6 通信自由化・発展が社会に与えたインパクト

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執筆者情報

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株式会社ICTラボラトリー

代表取締役 鈴木浩之

1985年4月 富士通株式会社に入社。光伝送機器事業部門に配属され、機器開発から商品企画、及び通信部門事業戦略立案を担当。2006年3月、富士通を退職し株式会社ICTラボラトリーを設立。以後、ICTやスマートグリッド(=ICT×エネルギー)を中心に市場調査サービスを開始し、今日に至る。

企業・団体名 株式会社ICTラボラトリー
所在地 〒102-0082
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メールアドレス info@ict-lab.co.jp
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