標準が電力産業に与えるインパクトを通信産業から考える

2016年05月19日

株式会社ICTラボラトリー

代表取締役 鈴木浩之

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デジュールスタンダードとは「国標準機関・国際標準機関によって規定された標準」であり、デファクトスタンダートとは「競争に生き残り普及した技術であり、事実上の標準」である。今回は、スタンダードが通信事業をどう変えたのかを紹介し、電力業界における今後を考えたい。(株式会社ICTラボラトリー 鈴木浩之)

通信業界を動かすビッグキーワードに

  1. グローバルスタンダード
  2. デファクトスタンダード
  3. デジュールスタンダード

がある。

デジュールスタンダードとは「国標準機関・国際標準機関によって規定された標準」であり、デファクトスタンダートとは「競争に生き残り普及した技術であり、事実上の標準」である。
公衆網 (官需)においてはデジュールスタンダードが強く、自営網 (民需) においては、デファクトスタンダードが強い。

今回は、スタンダードが通信事業をどう変えたのかを紹介し、電力業界における今後を考えたい。

2.米国電話会社に見るスタンダードの効用

米国は、競争環境整備を目的に、1984年末をもってAT&Tが長距離通信部門と7つの地域電話会社に分割された。この時、地域電話会社は二つの観点からスタンダードが必要となった。

  1. MCI、スプリントその他の長距離通信事業者との相互接続
  2. 通信機器の調達をAT&T以外の機器メーカから行うにあたっての評価基準の確定

それにより、通信技術の標準作成及び認証を目的とした機関、Bell Communication Research (通称 Bellcore) がベル研究所から分離独立し、標準作成を始めた。(図1参照)
それまではAT&Tの社内規格であった各種仕様が公開スタンダードとなり、この技術仕様を基にして各社は製品を開発し、Bellcoreの認証を受け、地域電話会社に売込みを行った。
結果、地域電話会社向け機器市場が自由競争になり、多くのメーカが参入した。そして、光・IP・携帯等で技術開発が進み、機器コスト・システムコストが下がり、米国の通信サービスの発展に大きく寄与した。
これは、標準化が競争環境を整備し、消費者の利便性も含めて産業の発展に大きく寄与した事例である。

AT&T分割とスタンダード

図1 AT&T分割とスタンダード

日本の場合、NTT民営化・市場原理導入後、電気通信全般に関する標準化と標準の普及を行う標準化機関として社団法人電信電話技術委員会(TTC: The Telecommunication Technology Committee)が、1985年10月に設立された。但し、TTCには機器の評価・認証機能はなかった。

3.GSMに見るグローバルスタンダードの効用

GSMとは欧州で開発された第二世代携帯電話インフラの規格である。サービス開始は1992年のドイツであり、日本で第二世代携帯電話が始まったのが1993年であるので、時期的にはほぼ同じである。
しかし、GSMは、その後、欧州各国で採用され、引き続きアフリカ・アジア諸国でも採用され、世界中に普及した。それにより欧州勢 (Nokia, Ericsson, Alcatel)の携帯インフラが各国で利用され、この3社で70%近いシェアを得ていた。又、2000年代前半、Nokiaの端末は世界全体で60%以上のシェアを持っていた。これらはGSMの普及に寄ることが多い。
まさに、グローバルスタンダードを取ったために、欧州企業は携帯電話市場でビッグビジネスを勝ち取ったのである。
3G携帯・LTE・LTE-Advanceにおいても、導入は日本が先頭であったが、仕様作成にあたっては既存インフラ/GSMとの連続性が重視され、Nokia・Ericssonの優位は続いた。現在は5G携帯の仕様策定が進んでいるが、ここでもその傾向は変わっていない。
欧州企業が全世界で顧客を囲い込み、かつ、連続性をアピールすることで、時間軸上においてもビジネスの優位性を確保することに、GSMというグローバルスタンダードはおおいに貢献している。

4.仲間作りとデファクトスタンダード

デファクトスタンダードと言っても一様ではなく、ここではいくつかのデファクトスタンダードを紹介する。

4.1.EthernetとIEEE802.3

Ethernet技術の開発元はゼロックス・パロアルト研究所であった。後に特許を開放しオープン規格とし、1979年にはインテル・DECとの共同開発とし、1980年にIEEE802委員会にEthernet規格として提出・公開した。これをきっかけに世界中の企業はEthernet機器の開発・商品化を行った。1980年代、LANの技術としては、IBMによるトークンリング、Appleによるローカルトーク、その他が乱立していたが、規格公開で多くの賛同者を得たEthernetがLAN機器市場を制覇した。この後、この手法が、多くのアプリケーションで見られることになる。
ここに、デファクトスタンダードの見本を見ることができる。

4.2.無線LANとWiFiアライアンス

IEEE802.11分会にて標準化されたEthernetの無線LANに関して、その相互接続を確認し製品認証を行うために、WiFi アライアンスが1999年に設立された。
ここで認証された製品はWi-Fi Certifiedのロゴを使うことが許可される。
「不具合があっても補償する主体が無いデファクトスタンダード」において、相互接続の認証を与えるという仕組みは、その後の、デファクトスタンダード・フォーラムスタンダードにおける認証のモデルとなった。

4.3.インターネットプロトコル (IP)とIETF (Internet Engineering Task Force)

IETFは、IP関連の標準作成を目的に1986年1月に設立された。IETFは

  1. メンバーは個人と団体であり国家機関や国際機関は入っていない
  2. 標準作成は、「二つ以上の相互運用性のある独立した実装の存在、十分な運用経験」がある技術であること、つまり、「モノありき」から始まること
  3. 議論参加者が個人・企業であること

という特徴をもち、国家機関・国際機関が絡まない標準化のモデルとなった。

4.4.キャリアイーサネットとMetro Ethernet Forum

Metro Ethernet Forumとは通信網へのEthernet導入を促進するために2001年に設立されたインダストリーコンソーシアムである。
200社以上の大手通信事業者・新興通信事業者・メーカがメンバーになって、通信網追加のためのEthernet追加仕様の規定と認証を行っている。
Ethernetという新技術を通信網に実装するために通信事業者と機器メーカが共同で行うことで、Metro Ethernet Forumは、購入者と納入業者の協業のモデルとなった。

5.電力業界と標準化

さて、日本の電力業界は、標準化ということにどう取り組むのであろうか。

電力会社はスマートメータを皮切りに資材調達の外資への開放を行っている。しかし、あくまでも、○○電力仕様の機器でありその電力会社に最適化されており、他の電力会社では不十分になる。
米国電話会社はBellcoreを設立することで仕様・認証の共通化を果たし、ベンダー間の競争を促し、機器コスト削減と技術開発加速を促した。
日本の通信産業も、TTCを設立することで、日本国内での仕様共通化までは行った。
日本の電力会社は仕様・認証の共通化を行う予定はなく、電話会社とは別の道を歩んでいる。今後、どうなるのであろうか? 見守っていきたい。

世界を見ると、スマートグリッドの標準化は米国 (NIST・SGIP)が進め、スマートメータの標準化は欧州 (CEN・CENELEC・ETSI)が進めている。
GSMで見たように、インフラでグローバルスタンダードを取ると、地理軸においても、時間軸においても、その地域の企業が圧倒的なポジションを取ることになり、他地域の企業にとって、逆転は非常に難しい。
国内で「取った・取られたで一喜一憂する」のではなく、「あの会社がああするならば、当社はこうする」のでもなく、地球儀の上で大局的に大胆に動くべきであろう。

民需の世界では、デファクトスタンダードが大きな比重を占める。しかし、ここで見たように、デファクトスタンダードにも、色々な形態があり、認証機関も重要な位置づけとなる。
電力業界においても、送配電網ではデジュールスタンダードが強いであろうが、マイクログリッド (HEMS・BEMS・CEMS)では、デファクトスタンダードが強いであろう。
外資メーカはマイクログリッド等の民需部門にも積極的に参入してくるであろう。外資メーカは世界規模ビジネスで原価を低減させたソリューションを、デファクトスタンダードの旗のもとに色々な手法で日本に持ち込む。その時、国内しか展開していないデファクトスタンダードがどう対抗するか?
デファクトスタンダードには、メーカや事業者の意思・活動が大きな影響を持つことになる。
ここは、国にまかせるのではなく、自分達で創意工夫し、発展させていくべきであろう。

電力自由化は始まったばかりです。日本の電力業界にとって、考えるべきこと・やるべきことは、多い。

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執筆者情報

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株式会社ICTラボラトリー

代表取締役 鈴木浩之

1985年4月 富士通株式会社に入社。光伝送機器事業部門に配属され、機器開発から商品企画、及び通信部門事業戦略立案を担当。2006年3月、富士通を退職し株式会社ICTラボラトリーを設立。以後、ICTやスマートグリッド(=ICT×エネルギー)を中心に市場調査サービスを開始し、今日に至る。

企業・団体名 株式会社ICTラボラトリー
所在地 〒102-0082
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電話番号 03-5357-1463
メールアドレス info@ict-lab.co.jp
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