ブロックチェーンを使った電力ビジネスとは

2018年06月27日

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ブロックチェーン技術とは、元来は仮想通貨ビットコインを実現するためのコア(中 核)技術でした。これをエネルギー(特に電力)分野で応用しようとすると何ができるでしょうか?株式会社エポカ 代表取締役社長の大串康彦氏に解説いただきます。

【執筆者】
株式会社エポカ 代表取締役社長 大串康彦氏

株式会社荏原製作所で環境プラントの技術部門を経て、燃料電池発電システムの開発を担当。その後、カナダに渡り、電力会社BC Hydro でスマートグリッドの事業企画を担当。2013年に帰国し、日本の外資系企業で燃料電池・系統用蓄電池などエネルギー技術の事業開発に携わる。現在は、ブロックチェーンのエネルギー分野での応用に注力

ブロックチェーンとは

読者の皆さんも「ブロックチェーン」という言葉は聞いたことがあると思います。これを調べた方や勉強された方などは、非常にわかりにくい技術という印象を持たれたかもしれません(私自身がそうだったため……)。

ブロックチェーン技術とは、元来は仮想通貨ビットコインを実現するためのコア(中核)技術でした。ある情報が、あるユーザーによって登録された、または、ある取引が、あるユーザーによって行われたという情報の真正性を中央管理者なしに担保し、証明可能にすることがブロックチェーン技術の肝の部分です。

これによって、中央管理者を介さず、「自分が持っているお金を、いつでも自分の好きに送金することを誰にも止めさせない」システムであるビットコインが運用されるに至りました。

ブロックチェーンの定義や特徴にはコンセンサスがなく、おそらく10人のブロックチェーンの専門家がいれば、10通りの世界観を反映したまとめ方があるでしょう。ここでは、ブロックチェーンでできることを図1のように階層状にまとめています。

基盤の要素は、「正当性の保証」、「存在の証明」であり、これに「唯一性の合意」、「ルールの記述」が加わります。下2段の「正当性の保証」、「存在の証明」の部分を言い換えると、「内容も存在も否定できない記録を保持し、その確かさを誰もが確認することができる」ということになります。

「唯一性の合意」は、下2段を補強する機能です。通貨の送金・価値の移転などは、この基盤の上にあるアプリケーション的な機能であり、図1では、「ルールの記述」として表現され、正当性の保証や存在の証明ができて初めて実現可能であるという考え方です。これをエネルギー(特に電力)分野で応用しようとすると何ができるでしょうか。

ブロックチェーンの機能

図1 ブロックチェーンの機能

まずは、ブロックチェーンの基本機能を活かした改ざん不可能な情報基盤が考えられます。例えば、顧客IDや日時、発電量、消費量、節電量などを記録します。

入力情報が正しいという前提では、これらの情報は改ざん・不正することができないため、取引の元データとして使ったり、証書化・トークン化させて価値を流通させたり、機器やシステムの制御のための元データとして使用することができます(註:ブロックチェーンが計量法に準拠した計器を置き換えるわけではありません。計測器は依然として必要で、記録保存の部分にブロックチェーンを使います)。

例えば、蓄電池の使用履歴情報をブロックチェーンに記録することで、その状態を正確に把握し、中古売買するときの値付けに使用するといったことが考えられます。また、蓄電池を系統の調整力として使用する場合、ブロックチェーンに記録された充放電記録を基に報酬を計算するといったことも考えられます。

株式会社エナリスは、会津大学発のベンチャー企業である株式会社会津ラボが開発したスマートプラグ(コンセント型スマートメーター)を使ってデマンドレスポンスの実証実験を行うことを発表していますが、節電要請信号の内容や実際の消費電力をブロックチェーンに記録し、のちに検証可能とすることが予測されます。

世界中で始まった電力取引プラットフォームの開発

ブロックチェーン技術の応用は、金融はもとより、医療や公共、IoTなど金融外の領域にも広がりを見せており、エネルギー(特に電力)分野でもブロックチェーンを使おうという動きがあります。

特に2017年になってから、世界中でブロックチェーンを使ったエネルギー分野のプロジェクトが加速しているように感じます。その多くは需要家間電力取引プラットフォームです。2017年12月現在に発表されている主なプロジェクトを表1にまとめます。

需要家同士の電力融通・電力取引を手がける企業やプロジェクトの例

表1 需要家同士の電力融通・電力取引を手がける企業やプロジェクトの例

需要家間の電力取引が行われる前提としては、太陽光発電が十分に廉価となり、固定価格買取制度のような導入支援策もなくなり、太陽光発電で発電した余剰電力を電力会社に買い取ってもらうのではなく、その地域内に融通することが意味を持つようになるということです。

太陽光発電以外に、蓄電池やデマンドレスポンスも使って地域電力融通が行われるかもしれません。現状の法制度では、他の需要家に電気を販売するときには小売り電気事業者の登録が必要であり、需要家間電力取引は可能ではありません。

また、現在の託送料金制度は、中央集中型電源を前提としており、数メートル離れた隣家に電気を融通するために、数百キロ離れた発電所から送配電するときと同じ託送料金を払う仕組みになっているため、同一地域内での電力融通が経済的には有利になりません。

しかしながら、まだ法整備も整っておらず、社会的にコンセンサスが得られていない事業に対し、これだけ多くの企業が技術開発に着手したということは、驚くべきことではないでしょうか。

ブロックチェーンを使うと何がよいのか

仮に法制度や託送料金が整い、需要家間の電力取引が経済的にも意味を持つようになったとき、なぜ、ブロックチェーンで需要間の電力取引を行うのがよいかという疑問が生まれます。

まだブロックチェーンをベースにした商用の取引プラットフォームというのは世界のどこにもないため、一部仮説を含みますが、次のような主なメリットがあると考えます。

計測器そのものがハックされない限り、発電量や電力消費量の情報は不正・改ざんできず、正確な取引が実現できます。既存の中央管理型システムを介することなく、取引決済を行う仕組みを構築することができます。

中央管理型で行うよりも取引を効率的に行えるという主張があります。取引にかかるコストを削減できるという主張があります。一方、前述の法制度や託送料金以外にも主に次のような課題があると考えます。これらは、私のブログ記事(https://medium.com/future-energy)で詳細に説明してありますので、ご興味のある読者の皆さんは、ぜひ参考にしてみてください。

従来の中央集中型のインフラは、すぐ不要になるわけではないので、ブロックチェーンを使った取引システムは追加投資となり、その投資効果が問われています。

ある需要家について、すべての取引が需要家間で行われるわけではなく、従来どおり小売り電気事業者との取引も残り、取引システムは二本立てとなります。そのため、ブロックチェーンを使った取引システムと、従来の中央管理的取引システムの連携が必要となります。

ブロックチェーンの特徴として、取引と決済の間の時間を大幅に短縮できます。例えば、海外送金であれば、今まで数日かかっていた送金手続と着金の間の時間、証券取引であれば、同様に今まで数日かかっていた約定と決済の間の時間を大幅に短縮できます(図2)。

従来とブロックチェーンを使用した取引のプロセス

図2 従来とブロックチェーンを使用した取引のプロセス

電気の課金請求は、日本の場合、通常月単位であり、電力取引では取引ごとの決済というのは、需要家にとってメリットがないかもしれません。電力取引で、このメリットを活かす仕組みづくりが課題です。

まだ実証されていないブロックチェーンの真価

2018年現在では、エネルギー(特に電力)分野でのブロックチェーン技術の有用性はまだ実証されていない状態だと思います。世界中で行われている実証実験にもかかわらず、エネルギーの分野では、ブロックチェーン技術はたいして役に立たないものという評価を残すかもしれませんし、誰かがキラーアプリケーションを開発し、革新的サービスが生まれるかもしれません。

私のひとつの意見を述べますと、ブロックチェーンベースの決済通貨を電力システムの中で導入する場合、電力の世界のみのシステムだけでなく、外の世界とつなげることができれば、ブロックチェーンの価値は、高まるのではないかと考えています。

仮想通貨を例に挙げ、円をビットコインなどの仮想通貨に換えて送金し、送金先の相手が仮想通貨をドルに替える場合の例を図3に示します。せっかくブロックチェーンを使った取引の部分は遅延もなく、手数料も低く行うことができますが、送金・決済通貨と法定通貨の換金が従来の方式(銀行振替など)であり、時間がかかり、往復の手数料(円から仮想通貨、仮想通貨からドル)もかかります。

従来とブロックチェーンを使用した取引のプロセス

図3 従来とブロックチェーンを使用した取引のプロセス

送金決済通貨を別の通貨に換金することなく、そのまま使用できたらユーザーの利便性が増し、ブロックチェーンを使用する価値は高くなるのではないでしょうか。

送金専用や決済専用の仮想通貨にいちいち両替せず、普段使える通貨を送金して、そのまま使えるようになるということです(ビットコインは、従来の通貨に替わることが期待されていましたが、2018年5月現在、手数料が高騰しており、また支払い手段としても使える場所が限られ、まだこのような汎用性のあるデジタル通貨とは言い難い状況です)。

電力の応用でも同様で、電力システムの中で使用される決済通貨が、外の世界とスムーズに結びついて電力システムの中で使われる価値が広く使われるようになる、また、外の世界で流通している価値が電力システムの中でスムーズに使われるようになれば、ブロックチェーンを使う意義は高まるのではないでしょうか。

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本連載は書籍『世界の51事例から予見する ブロックチェーン×エネルギービジネス』(2018年6月発行)より、コラム記事を再構成して掲載しています。

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