楽天、ブロックチェーンを活用した国内初の「J-クレジット」取引システムを提供開始
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2017年12月12日
一般社団法人エネルギー情報センター
12月11日、楽天はブロックチェーン技術を活用した「J-クレジット」の取引システム「Rakuten Energy Trading System」の提供を開始すると発表しました。この取引システムは、法人を対象に「環境価値」の一つである「J-クレジット」の購入や売却を可能にするものです。「J-クレジット」の取引にブロックチェーン技術を活用し、実際に運用することは日本初の試みとなります。
楽天、ブロックチェーン技術を活用した「J-クレジット」の取引システムの提供を開始
投資の意思決定において、従来の財務情報に加え、環境などの非財務情報も考慮する手法を「ESG投資」といいます。このESG要因を投資判断などに組み込むことで、リスクを軽減し、投資収益を増やそうとする機関投資家の数は世界中で増えています。
国連が支持するPRI(国連責任投資原則)は、ESG投資行動を推進するため2006年に設立された原則です。世界最大の機関投資家である日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、2015年にPRIへ署名したことで、日本の機関投資家も取り組みを急拡大させています。
世界全体としても、PRIは2006年の発足以来、一貫して成長しています。2016年4月時点で署名機関は50ヶ国超から1400機関以上が集まり、その合計資産は約60兆米ドルに相当します(図1)。
図1 PRI推移 出典:Principles for Responsible Investment
こうした中、楽天はブロックチェーン技術を活用した「J-クレジット」の取引システム「Rakuten Energy Trading System(REts)」の提供を開始すると発表しました。この取引システムは、法人を対象に「環境価値」の一つである「J-クレジット」の購入や売却を可能にするものです。「J-クレジット」の取引にブロックチェーン技術を活用し、実際に運用することは日本初の試みとなります。
「J-クレジット」の価格と取引数量、従来より容易に把握することが可能に
「J-クレジット」とは、温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証したものです。J-クレジットを購入することで、CDP質問書への回答をはじめ、国際イニシアチブであるRE100への加盟、CO2排出係数低減など、多くのメリットにつながります。
特に、再エネ由来のJ-クレジットは、CDP質問書に「再エネ調達量」として報告することで、多くの機関投資家が注目するCDPレポートへの反映につながります。また、RE100が提唱する「再生可能エネルギー100%の事業運営」も、この再エネ由来のJ-クレジットを活用する事で実現することが可能です(図2)。
図2 「J-クレジット」の活用 出典:楽天
J-クレジットを売りたい場合は、温室効果ガス排出削減や、吸収量の増加につながる事業の展開が必要です。例えば、再エネ・省エネルギー設備の導入や、森林管理などの取り組みによってクレジットが生まれます。
今回、楽天が提供開始するREtsは、法人を対象に「J-クレジット」の購入や売却を可能にする取引システムです。今回のシステムにより「J-クレジット」の取引を実施する場合、従来の入札形式や相対取引に比べ「J-クレジット」の価格と取引数量を容易に把握することが可能となります。
また、購入した「J-クレジット」のオフセット手続きサポートや、売却するための「J-クレジット」の創出サポートなどの付帯サービスを利用することもできます。
英国のブロックチェーン技術に特化した「楽天ブロックチェーン・ラボ」と連携
今回のシステムの開発では、英国・ベルファストに所在するブロックチェーン技術に特化した研究開発組織である「楽天ブロックチェーン・ラボ」が連携しています。システム上で取引可能な「J-クレジット」は、デジタルアセットとしてプライベートブロックチェーン上に発行され、取引に応じて所有権の移転がブロックチェーン上に記録されます。
楽天によると、将来的には、このブロックチェーンを、「J-クレジット」をはじめとした「環境価値」を扱う他のシステムと相互利用できるようにすることで、オープンな「環境価値」の取引を促進するコンソーシアムの確立を目指すとしています。
ネガワット取引システムも提供するREts
REtsはJ-クレジットだけではなく、ネガワット取引システムも提供しています(図3)。ネガワット取引とは、電力需要ピーク時に、電力需要家が電力会社などの要請に応じ、使用電力を削減してピークカットを実現する取り組みです。節電や遊休自家発電装置の稼働などによってピーク需要カットを実現した各需要家には、削減量に応じた報酬が支払われます。
ネガワットは有効活用することで、小売電気事業者にとっても有益となる仕組みです。例えば、発電した電気と同様に扱われることから「小売電気事業者の供給力」として認められています。また、アグリゲーターは、ネガワット取引をもとに、発電所と同じような「供給力」として小売電気事業者に電力融通を行うことが可能です。
電力を使う施設側において、ネガワットはエネルギーの効率化を図り、CO2削減、需要家のコストダウンなどを生み出します。ただ、電力のピークカットは手法によって「抑制開始までの時間」や「継続時間」などが異なるため、実際には効率的、実効的な組み合わせが必要です。その点、楽天によると、REtsのネガワット取引システムは、導入する各施設に合わせ、最適なシステム、サービスを提供するとしています。
図3 REtsのネガワット取引システム 出典:楽天
2017年3月以降から継続的に活動
「楽天エナジー」は、「J-クレジット」の取引仲介サービス自体は2017年3月以降、継続的に行ってきました[関連記事]。楽天によると、これまでの取引仲介サービスにおいて、新電力や各企業からの多様なニーズや売買実績を確認したため、環境経済社ならびにグローバルエンジニアリング社と連携し、新システムの提供を開始するに至ったとしています。
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執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
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