家庭用の蓄電池を「ブロックチェーン」で統合、再エネの出力制御を抑えるプロジェクト始動
政策/動向 | 再エネ | IT | モビリティ | 技術/サービス | 金融 |
2017年05月08日
一般社団法人エネルギー情報センター
5月2日、欧州の大手送電事業者TenneT社とドイツの蓄電池開発などを手がけるsonnen社は、再エネの出力変動が及ぼす送電網への影響を抑える実証プロジェクトを共同で開始すると発表しました。複数の家庭用蓄電池を「ブロックチェーン」で制御することで、再エネの出力制御を軽減することが期待されます。
再エネの増加に伴い、再エネの受け入れ制限も増加
近年、日本においては再生可能エネルギーの普及が進む一方、天候などによる出力の変動が発生するため、いかに有効活用するかといったことが課題になっています。特に太陽光発電や風力発電は天候等による出力変動が顕著であり、風力発電などの発電事業者は無補償の出力制御に同意することが必要となるケースもあります。(関連記事)
こうした状況は海外でも同様であり、例えばドイツにおいては脱原発や脱化石燃料が進む一方、再エネの出力変動に対処するための技術が必要となってきています。ドイツでは近年、風力発電設備が大幅に増加した結果、電力の受け入れ制限を緊急発動する発生頻度が高まっています。2016年だけでも、これらの措置には約8億ユーロがかかり、その大部分は風力発電規制のためのものです。最終的に、これらのコストはネットワーク料金の形で電力消費者が負担することとなります。
ブロックチェーンで家庭用蓄電池を制御
こうした中、欧州の大手送電事業者TenneT社とドイツの蓄電池開発などを手がけるsonnen社は、再エネの出力変動が及ぼす送電網への影響を抑える実証プロジェクトを共同で開始すると発表しました。
この共同実証プロジェクトは、「ブロックチェーン」の技術を活用したもので、家庭用の蓄電池を制御することで再エネの出力変動に対応します。Sonnen社の技術によって家庭用蓄電池が相互接続され、充電管理ソフトウェアがTenneT社の系統の状態を反映して動作します。これらのネットワークに接続された蓄電池は、必要に応じて余分な電力を数秒で吸収・放出することができ、電力網内のボトルネックを低減します。また、「ブロックチェーン」については、IBMが開発した「Hyperledger Fabric」というフレームワークに基づいた技術が利用されます。
Sonnen社のCFOであるPhilipp Schroder氏によると、Sonnen社は既にSonnen Communityを通じ、数千人のユーザーと再生可能エネルギーのネットワーク化を実現しているとしています。ただし、将来的には消費者や生産消費者といった、より多くの何百万もの小規模な分散型電源によって電力が構成されることが想定されます。そのため、これらの関係者間での一斉同時交換を可能にするブロックチェーン技術が、分散化やCO2フリーの実現に欠かせないとしています。
ブロックチェーンとは
ブロックチェーン技術は、仮想通貨の一種であるビットコインを実現させるために⽣まれた技術であり、いくつかの暗号技術がベースとなっています。これまでは銀行などの第三者機関が取引履歴を管理し、信頼性を担保していましたが、ビットコインでは全ての取引履歴を皆で共有することで、信頼性を担保します(図1)。
図1 ブロックチェーンについて 出典:経済産業省
ブロックチェーンの活用事例① 電気自動車での利用
ブロックチェーンを活用した取り組みはこれまでも行われており、例えばドイツの大手電力会社であるRWE社は、認証・決済システムを搭載した電気自動車(EV)の充電システムを開発しました。従来のEVは充電中は車を使用できず、さらに充電スタンドでは30分や1時間など、時間単位で料金が請求されるため、補充時間の下限が設定されるといった問題がありました。しかしブロックチェーン技術によるスマートコントラクトを用いることで、充電スタンドでは時間単位ではなく補給量単位で支払いを可能としました(図2)。
これはつまり、支払いに関する時間が削減されたことで、信号待ち程度の時間でも、道路に設置された充電ポイントからこまめに充電することも現実的となりました。
図2 RWE社による充電システムとアプリケーション 出典:経済産業省
ブロックチェーンの活用事例② 電気の売買
ニューヨークのPresident Streetにおける小規模系統において、TransActive Grid社が電力売買システムを開発し、実際に取引が行われています。例えば太陽光パネルの余剰電力を売ることも可能であり、その電力をTransActive Grid社のスマートメーターを介して購入することもできます。
売買の流れとしては、まずはある家庭において、電力が生成されたことをスマートメーターが検知すると、「エナジークレジット」と呼ばれるトークンが生成されます。エナジークレジットにより電力の生産者は収入を得て、電力の消費者はこのトークンを買い取り、電力を消費するとトークンが消滅します。また、ブロックチェーン技術を活用したシステムによる取引の透明性の高さにより、外部監査は不要な仕組みとなっており、電力売買コスト削減に寄与します(図3)。
図3 President Streetにおける小規模系統の状況 出典:経済産業省
ブロックチェーンの市場、67兆円の規模
この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。
無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
---|---|
所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
電話番号 | 03-6411-0859 |
会社HP | http://eic-jp.org/ |
サービス・メディア等 | https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET |
関連する記事はこちら
一般社団法人エネルギー情報センター
2024年04月19日
電力情報サービス「QUICK E-Power Polaris」の特徴や今後の展開について
QUICK社が提供する電力情報サービス「QUICK E-Power Polaris」は電力事業者向け情報をオールインワンで収集・可視化・分析できます。今回は「QUICK E-Power Polaris」の特徴や今後の展開についてについてご紹介します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2024年04月15日
EVと並んで蓄電池と大きな関わりのある「エネルギーマネジメント」にテーマを絞って、蓄電池の今と未来を全6回に渡ってご紹介していきます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2023年08月21日
積水化学工業(大阪市北区)は年間約10,000棟の戸建てを供給する大手ハウスメーカーだ。住宅そのものの性能向上に加えて、省エネ設備、太陽光発電を搭載し、光熱費収支ゼロ、エネルギー収支ゼロを目指した高性能住宅を展開している。さらに、蓄電池やV2Hといった蓄電技術を強化し、災害のレジリエンスを高め、昼も夜も電気を自給自足できる住宅を目指す。今回は積水化学工業の取り組みを紹介する。
一般社団法人エネルギー情報センター
2023年06月20日
コネクティドホームや、蓄電池やエネファームを組み合わせることで、より災害に強い住宅を実現するなど、エネルギーデータを活用した先進企業として、大和ハウス工業を紹介する。(前編)