イラン情勢と原油高で電力市場はどう動くのか ― ウクライナショックとの違いを読み解く
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中東情勢の緊迫化で原油価格が再び高騰し、「電力危機の再来」を懸念する声が高まっています。2022年のウクライナショックでは新電力の撤退や契約停止が相次ぎ、市場は大きな混乱に陥りました。今回の局面は当時と酷似しているのでしょうか?それとも異なる展開を辿るのでしょうか。本コラムでは、原油高が電力市場へ波及する構造を解き明かし、過去の危機との決定的な違いを冷静に整理します。
原油高再燃―電力市場は「あの時」と同じ混乱を辿るのか
中東情勢の緊迫化により、原油価格が再び大きく動き始めています。ニュースでは「原油高」「ホルムズ海峡」「エネルギー価格上昇」といった言葉が並び、電力業界でも「また電力危機が来るのではないか」と感じている方も多いのではないでしょうか。
2022年のウクライナショックでは、燃料価格の急騰が電力市場にも大きな影響を与え、新電力の撤退や契約停止など電力小売市場に大きな混乱が起きました。その記憶がまだ新しいだけに、今回の原油高を見て同じような状況を想像する方も少なくないと思います。
ただ、今回の状況はウクライナショックと似ている部分と、大きく違う部分の両方があります。電力市場への影響を考える上では、その違いを冷静に整理しておくことが重要です。
今回はまず、原油価格の上昇がどのように電力市場へ波及するのか、その基本構造と、ウクライナショックとの違いを整理してみたいと思います。
原油価格はどのように電力市場へ影響するのか
日本の発電燃料の構造
日本の電力価格は、石油だけで決まっているわけではありません。しかし、原油価格は電力市場に対して間接的に大きな影響を持っています。
その理由は、日本の発電燃料の構造にあります。
現在の日本の発電構成を見ると、
- LNG(天然ガス)
- 石炭
- 再生可能エネルギー
- 原子力
などが主な電源となっています。この中でも、LNG火力は依然として日本の電力供給の中心的な役割を担っています。
LNG価格と原油価格(JCC)の連動
そして、日本のLNG調達価格の多くは、長期契約において原油価格と連動する仕組みを持っています。
このとき指標として使われることが多いのが、JCC(Japan Crude Cocktail)と呼ばれる指標です。これは「全日本海関税平均価格」と呼ばれ、日本が輸入している原油の平均価格を示すものです。多くのLNG長期契約では、このJCC価格を参照する形でガス価格が決まる仕組みになっています。

図1-フロー:原油価格から電力コストへの影響経路。JCC(全日本海関税平均価格)を介したLNG調達コストの変動構造。
そのため、原油価格が上昇すると、時間差を伴いながらLNG調達コストにも影響が及びます。
その流れを単純化すると、次のような構造になります。
原油価格上昇
↓
LNG調達コスト上昇(JCC連動)
↓
発電コスト上昇
↓
電力市場価格上昇
この「時間差」があることも、エネルギー価格の議論を難しくしている要因の一つです。原油価格が上がったからといって、翌日すぐに電気料金が上がるわけではありません。数か月程度の時間差を経て、電力市場や燃料費調整などを通じて影響が現れてくるケースが多いのです。
ウクライナショックの時に何が起きたのか
燃料価格の急騰と市場の混乱
2022年のロシアによるウクライナ侵攻は、日本の電力市場にも大きな衝撃を与えました。
当時、欧州ではロシア産ガスへの依存度が高く、ガス供給が不安定になったことでLNG価格が急騰しました。欧州が世界中からLNGを調達する動きが強まり、アジア市場でもLNG価格が大きく上昇しました。
その結果、日本の発電燃料コストも急激に上昇し、電力市場にも大きな影響が及びました。

図2-対比:2022年と現在のエネルギー価格上昇の違い。電力小売市場の構造変化が影響を左右する
具体的には
- EPX(日本卸電力取引所)の価格高騰
- 新電力の調達コスト急増
- 電力会社の新規契約停止
など、さまざまな混乱が起きました。
新電力が直面した「在庫を持てない」リスク
特に新電力にとって大きな問題となったのは、販売価格が固定なのに、調達価格が急騰したことでした。
電力は商品在庫を持てないため、販売した電気は必ずどこかから調達しなければなりません。調達価格が想定を大きく上回ると、販売すればするほど赤字になるという状況が生まれます。
- 新電力の撤退
- 新規契約の停止
- 料金改定
などが相次ぎ、電力小売市場は大きな転換点を迎えることになりました。
今回の原油高は同じことが起きるのか
電力小売の料金構造の変化
では、今回の中東情勢による原油高は、同じような電力危機を引き起こすのでしょうか。
結論から言うと、ウクライナショックと全く同じ展開になる可能性は比較的低いと考えられます。
その理由はいくつかあります。
まず一つ目は、電力小売の料金構造が大きく変わったことです。
ウクライナショック以降、多くの新電力が
- 市場連動プラン
- 燃料費調整の拡大
- 契約条件の見直し
などを進めてきました。
以前は固定価格が中心だった電力契約も、現在では市場価格や燃料価格の変動を一定程度反映する仕組みが広がっています。
つまり、電力会社が価格リスクをすべて抱える構造から、需要家と分担する構造へ変化してきたと言えます。
政府政策による迅速な対応
もう一つの大きな違いは、政府の対応です。
ウクライナショックの際には、電気・ガス料金の激変緩和策が導入されるまでに一定の時間がかかりました。その間に電力市場価格が急騰し、電気料金の上昇が一気に表面化する局面もありました。
一方、現在は過去の経験もあり、政府はエネルギー価格の急激な上昇に対して比較的早い段階から対応を検討しています。
もちろん、補助金があれば価格上昇が完全に消えるわけではありません。しかし、価格上昇のスピードや見え方を和らげる効果はあります。
その意味で、今回のエネルギー価格上昇は「急激なショック」というよりも「徐々に影響が広がる局面」になる可能性が高いと考えられます。
電力市場は次の段階に入っている
燃単純な価格競争からリスク管理の時代へ
こうした変化を踏まえると、日本の電力市場は、ウクライナショックを経て新しい段階に入りつつあるとも言えます。

参考図3-概念:電力事業に求められる能力の進化。単純な「価格競争」の時代から、変動に対応する「複合的なリスク管理」の時代へ。
以前の電力市場では、「いかに安い電気を販売するか」という競争が中心でした。しかし現在では、
- 価格変動への対応
- 燃料調達リスク
- 契約条件の設計
など、電力事業者に求められる能力はより複雑になっています。
電力調達は、単純な価格競争ではなく、リスク管理の要素を強く持つ分野へと変化しているのです。
次回:企業の電気代はどうなるのか
では、このような状況の中で、企業の電気料金はこれから具体的にどう動いていくのでしょうか。次回は、法人向け電気料金の仕組みを整理しながら、「固定料金」と「市場連動」の考え方、そして企業が電力契約を見直す際のポイントについて解説していきたいと思います。
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