【第2回】電力小売に導入が検討される「中長期調達義務」とは ——制度設計の具体的な中身と現場への影響
| 政策/動向 | 再エネ | IT | モビリティ | 技術/サービス | 金融 |
一般社団法人エネルギー情報センター

中長期調達義務をめぐる議論は、背景整理の段階を経て、具体的な制度設計の検討に移っています。2025年夏以降の会合では、調達の安定にとどまらず、市場全体を計画的に運営する方針が示されました。 一方で、義務化による事業者の負担や競争環境への影響も懸念されており、制度づくりには丁寧な調整が欠かせません。第1回では、この制度の導入に向けた基本的な考え方と背景を整理しました。第2回では、制度設計の具体的な仕組みと、現場で想定される課題を中心に取り上げます。
1. 制度設計の枠組み
1-1. 供給計画の見直しと中長期取引市場の創設
事業者が将来の供給量と、その調達に使う発電所や契約をまとめる『供給計画』の様式を見直すことが、制度を運用するための出発点です。
従来の計画は将来の需要を示すだけでしたが、今後は契約の進捗を段階的に記載する方式への改定が検討されています。これにより、年度ごとの確保手段が明確になり、調達状況の透明性が高まります。
さらに、2028年に新設予定の「中長期取引市場」を活用し、スポット市場への依存を和らげる狙いも示されています。供給計画と市場取引を制度的に結びつけることで、計画と実績を照合しやすくし、義務の履行状況をより正確に把握できる仕組みを目指しています。
1-2. 想定需要の算定と小規模事業者への配慮
制度の実効性には、需要見積もり方法の透明性が不可欠です。恣意的に需要を低く設定すれば義務の実質が薄れるため、一律の算定式や「プレッジ&レビュー方式」(提出→確認→修正)の導入により、公平性と検証の容易さを両立させる案が議論されています。
図1のとおり、総販売量の約97%を大規模事業者が占めています。小規模事業者に一律で高い比率を課すと担保・保証などの資金負担が過大になりやすいため、緩和措置の設計は制度運用の前提条件となります。
具体的には、当面5年間に限り、小規模事業者の義務比率を軽減する案(N−3で25%、N−1で50%)が提示されています。また、会社分割による義務逃れを防ぐため、グループ全体の販売電力量を合算して判定するルールも検討されています。

図1:小売電気事業者の総販売電力量に対する5億kWh以上の事業者の割合(2023年度)
出典:資源エネルギー庁「小売電気事業者の量的な供給力確保の在り方と中長期取引市場の整備に向けた検討について」
2. 達成状況の検証方法
資源エネルギー庁の制度設計ワーキンググループ(以下、制度設計WG)は、事業者が必要電力量を契約しているかを、供給計画と証憑書類を突き合わせて確認する運用案を検討しています。証拠資料は電力会社同士の売買契約書や取引所の約定記録、長期PPAなどで、単なる「契約予定」ではなく成立済みの契約のみを対象とする方針です。
取引所を経由した契約は、市場データをシステムと連携し、行政・事業者双方の確認コストを下げる工夫も検討中です。自社発電分は第三者が関与しないため、別途の証跡を求める案もあります。
この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。
無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
| 企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
|---|---|
| 所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
| 電話番号 | 03-6411-0859 |
| 会社HP | http://eic-jp.org/ |
| サービス・メディア等 | https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET |
関連する記事はこちら
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年12月27日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第5回】社会実装と中長期シナリオ 2030年代のロードマップと日本の戦略
これまで4回にわたり、核融合という次世代エネルギーの可能性を、研究・技術・制度の観点からたどってきました。長らく“夢のエネルギー”と呼ばれてきた核融合は、いま確実に社会の現実へと歩みを進めています。 最終回となる今回は、社会実装に向けたロードマップと、日本が描くべき中長期戦略を考えます。 核融合が“希望の象徴”で終わらず、私たちの暮らしに息づくエネルギーとなるために、次の時代に向けた道筋を描きます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年12月17日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第4回】制度設計・安全規制・地域産業化 社会実装に向けた最新動向
第1回では核融合の基本、 第2回では国内研究基盤、 第3回では民間企業による産業化の動きを整理してきました。 こうした技術・ビジネス面の進展を踏まえ、2025年後半には「社会実装」に向けた制度づくりや安全規制の検討が政府内や国際機関で動き始めています。国際基準への日本の参画や、地域での研究・産業活動の広がりなど、核融合を社会に組み込むための枠組み形成が進みつつあります。 本稿では、制度・安全・産業の三つの観点から、この転換点の現在地を整理します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年11月30日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第3回】民間企業が牽引する核融合ビジネスの現在地 国内外で加速する産業化の動き
第1回では核融合の基本原理と方式を、第2回ではJT-60SAやLHDを中心に日本の研究基盤を整理してきました。近年は研究成果が民間へ移行し、実証炉開発や供給網整備が本格化しています。高温超伝導やAIなどの技術進展により小型化と効率化が進み、投資も拡大。本稿では国内外スタートアップの動向と商用化に向けた論点を整理します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年11月24日
政府も注目する次世代エネルギー 核融合の仕組みと可能性 【第2回】国内研究最前線 JT-60SAとLHDが描く日本の核融合ロードマップ
地上に“小さな太陽”をつくるという挑戦が、いま日本の研究現場で確実に動き始めています。 第1回では、核融合がどのようにエネルギーを生み出すのか、その基本原理や世界的な動向について整理しました。今回はその続編として、日本が持つ二つの主要研究拠点、「JT-60SA(大規模トカマク型装置)」と「LHD(ヘリカル方式の大型装置)」に焦点を当て、国内で進む最前線の取り組みを詳しく解説します。 どちらも世界トップクラスの規模と技術を誇り、2030年代の発電実証を目指す日本の核融合開発に欠かせない“橋渡し役”として国際的にも注目されています。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年11月13日
政府も注目する次世代エネルギー、核融合の仕組みと可能性 【第1回】核融合“超入門” 地上に「小さな太陽」をつくる挑戦
地上に“小さな太陽”をつくる、そんな壮大な計画が世界各地で進んでいます。 核融合とは、太陽の内部で起きているように、軽い原子が結びついてエネルギーを生み出す反応のことです。燃料は海水から取り出せる水素の一種で、CO₂をほとんど出さず、石油や天然ガスよりもはるかに効率的にエネルギーを取り出すことができます。 かつては「夢の発電」と呼ばれてきましたが、近年は技術の進歩により、研究段階から実用化を見据える段階へと進化しています。 2025年6月当時は、高市早苗経済安全保障担当大臣のもと、政府が核融合推進を本格的に強化しました。 同月に改定された「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」では、研究開発から産業化までを一貫して支援する体制が打ち出されています。 今回はその第1回として、核融合の基本的な仕組みや核分裂との違い、主要な研究方式をわかりやすく解説します。




























