法人向け 家庭向け

【第1回】電力小売に導入が検討される「中長期調達義務」とは ——制度の基本構造と背景にある市場リスク

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

【第1回】電力小売に導入が検討される「中長期調達義務」とは ——制度の基本構造と背景にある市場リスクの写真

電力の安定供給をめぐり、小売電気事業者に新たな制度の導入が検討されています。その中心にあるのが「中長期調達義務」です。これは、事業者が将来の販売需要を見込み、数年前から契約を通じて電源を確保しておく仕組みであり、導入されれば電力市場の姿を大きく変える可能性があります。 これまで日本の小売電力市場は、比較的自由度の高い調達に支えられてきました。しかし、燃料価格の高騰や需給逼迫が繰り返されるなか、安定性と持続可能性を確保する制度的な枠組みが必要になっています。一方で、制度導入に伴い事業者の経営上の負担や課題も想定されます。 本連載の第1回では、この中長期調達義務の導入に向けた基本的な考え方と背景を整理し、なぜ今この制度が議論されているのかを解説します。

1.中長期調達義務とは?

制度の定義

中長期調達義務は、小売電気事業者が将来の需要に見合う電力量を、あらかじめ契約によって確保しておくことを求める制度です。短期のスポット市場だけに頼らず、数年前から電源を押さえることで、料金の変動や供給不安を抑える狙いがあります。

確保比率と小規模事業者への配慮

制度では、供給年度を「N年」とし、N−3(3年前) と N−1(1年前) の時点で一定割合の電力量を確保しておくことが求められます。

  1. 標準的な事業者:N−3で50%、N−1で70%
  2. 小規模事業者(過去3年間の平均販売電力量が5億kWh未満):N−3で25%、N−1で50%

小規模事業者については、過度な負担とならないよう、当面5年間の軽減措置が検討されています。これにより、地域密着型の事業者や新規参入の機会を確保し、市場の多様性を維持する工夫がなされています。

導入スケジュール

資源エネルギー庁の整理案では、次の流れが想定されています。

  1. 2026年秋:供給計画の様式改正案を確定
  2. 2027年度提出の供給計画(2028年度分)から適用
  3. 2028年:中長期取引市場を開設
  4. 2029年:2030年度供給計画から達成状況の確認を開始

2.制度導入の背景

燃料価格高騰と市場変動の教訓

この制度が検討されている背景には、近年の燃料価格高騰と電力市場の急変動があります。2021年の寒波や2022年の国際燃料価格高騰では、JEPX(日本卸電力取引所)のスポット価格が一時数百円/kWhに達し、短期市場に依存した事業者が調達コスト急増による経営危機に直面しました。

現行の電気事業法でも小売電気事業者に「供給能力確保義務」が課されていますが、これまで具体的な量的基準はなく、運用面で不十分と指摘されてきました【経産省 電力・ガス事業分科会 中間整理 2024】。

そのため、需給逼迫時に十分な調達ができない懸念があり、燃料価格の高騰や為替変動、スポット市場依存による価格乱高下に加えて、電源構成の変化に伴う不確実性も課題となっています。

こうした市場リスクが事業者経営や利用者料金に直結してきたことから、計画的な電源調達を制度的に担保する必要性が高まっています。今回の中長期調達義務は、この抽象的な義務を実務的に運用できる形で制度的に具体化したものといえます。

図1 JEPXスポット市場におけるシステムプライスの推移(2016〜2024年)
出典:資源エネルギー庁「同時市場の導入に向けた検討状況について」2025年7月22日

海外制度の定着と日本の課題

欧州や米国では、電源を中長期的に確保する制度が定着しています。
欧州では再生可能エネルギーの普及に合わせて、再エネ発電事業者と需要家の間で長期PPA(電力購入契約)が拡大しています。近年は企業が再エネ由来の電力を10〜20年単位で購入する事例が一般化しており、価格の安定と脱炭素目標の両立を実現しています。ドイツやスペインなどでは、大規模再エネプロジェクトの収益確保の基盤となっています。

米国では、地域ごとに設立されたISO/RTO(独立系統運用者)が容量市場を運営しています。容量市場では、将来数年先に必要となる電源をオークションで前もって調達し、発電事業者は供給力の提供義務を負います。この仕組みにより、燃料価格や需給変動にかかわらず、一定の供給力があらかじめ担保されています。加えて、容量価格は投資家や事業者に対して将来の需給状況を示すインセンティブとなり、電源開発の持続性を高めています。

この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。

無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
電力の補助金

補助金情報

再エネや省エネ、蓄電池に関する補助金情報を一覧できます

統計情報

統計情報(Excel含)

エネルギー関連の統計情報をExcel等にてダウンロードできます

電力入札

入札情報

官公庁などが調達・売却する電力の入札情報を一覧できます

電力コラム

電力コラム

電力に関するコラムをすべて閲覧することができます

電力プレスリリース

プレスリリース掲載

電力・エネルギーに関するプレスリリースを掲載できます

電力資格

資格取得の支援

電験3種などの資格取得に関する経済支援制度を設けています

はてなブックマーク

執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センターの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。

企業・団体名 一般社団法人エネルギー情報センター
所在地 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F
電話番号 03-6411-0859
会社HP http://eic-jp.org/
サービス・メディア等 https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET

関連する記事はこちら

日本発!次世代ペロブスカイト太陽電池:フレキシブル発電が都市を変える 実装課題と産業戦略【第2回】 — 耐久性・封止・量産(ロールtoロール、封止樹脂の要諦)/コスト学習曲線と標準化(NEDO等)/素材・装置のサプライチェーン再構築の写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2025年10月29日

新電力ネット運営事務局

日本発!次世代ペロブスカイト太陽電池:フレキシブル発電が都市を変える 実装課題と産業戦略【第2回】 — 耐久性・封止・量産(ロールtoロール、封止樹脂の要諦)/コスト学習曲線と標準化(NEDO等)/素材・装置のサプライチェーン再構築

前編では、ペロブスカイト太陽電池の特性と政策的背景、そして中国・欧州を中心とした世界動向を整理しました。 中編となる今回は、社会実装の要となる耐久性・封止・量産プロセスを中心に、産業戦略の現在地を掘り下げます。ペロブスカイト太陽電池が“都市インフラとしての電源”へ進化するために、どのような技術と制度基盤が求められているのかを整理します。特に日本が得意とする材料科学と製造装置技術の融合が、世界的な量産競争の中でどのように差別化を生み出しているのかを探ります。

中小企業が入れるRE100/CDP/SBTの互換ともいえるエコアクション21、GHGプロトコルに準じた「アドバンスト」を策定の写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2025年10月27日

主任研究員 森正旭

中小企業が入れるRE100/CDP/SBTの互換ともいえるエコアクション21、GHGプロトコルに準じた「アドバンスト」を策定

GHGプロトコルに準じた「エコアクション21アドバンスト」が2026年度から開始される見込みです。アドバンストを利用する企業は電力会社の排出係数も加味して環境経営を推進しやすくなるほか、各電力会社側にとっても、環境配慮の経営やプランのマーケティングの幅が広がることが期待されます。

日本発!次世代ペロブスカイト太陽電池:フレキシブル発電が都市を変える 【第1回】背景と技術概要 — 何が新しいか/政策・投資の全体像/海外動向との比較の写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2025年10月18日

新電力ネット運営事務局

日本発!次世代ペロブスカイト太陽電池:フレキシブル発電が都市を変える 【第1回】背景と技術概要 — 何が新しいか/政策・投資の全体像/海外動向との比較

本記事は、2024年公開の「ペロブスカイト太陽電池の特徴とメリット」「ペロブスカイト太陽電池の課題解決と今後の展望」に続く新シリーズです。 耐久性や鉛処理、効率安定化といった技術課題を克服し、いよいよ実装段階に入ったペロブスカイト太陽電池。その社会的インパクトと都市エネルギーへの応用を、全3回にわたって取り上げます。

非化石証書(再エネ価値等)の下限/上限価格が引き上げ方向、脱炭素経営・RE100加盟の費用対効果は単価確定後に検証可能となる見込みの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2025年10月17日

主任研究員 森正旭

非化石証書(再エネ価値等)の下限/上限価格が引き上げ方向、脱炭素経営・RE100加盟の費用対効果は単価確定後に検証可能となる見込み

9月30日の国の委員会で、非化石証書の下限/上限価格の引き上げについて検討が行われています。脱炭素経営の推進を今後検討している企業等は、引き上げ額が確定した後にコスト検証を実施することが推奨されます。また本記事では、非化石証書の価格形成について内容を見ていきます。

【第3回】電力小売に導入が検討される「中長期調達義務」とは ——料金・市場構造・投資への影響と導入後の論点—の写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2025年09月29日

新電力ネット運営事務局

【第3回】電力小売に導入が検討される「中長期調達義務」とは ——料金・市場構造・投資への影響と導入後の論点—

第1回では制度導入の背景を整理し、第2回では設計の仕組みと現場課題を取り上げました。最終回となる本稿では、中長期調達義務が導入された場合に、料金や市場構造、投資意欲にどのような影響が及ぶのかを展望します。
制度の目的は電力の安定供給を強化し、価格急騰のリスクを抑えることにあります。ただし、調達コストの前倒し負担や市場流動性の低下といった副作用も想定されます。今後は、容量市場や需給調整市場との整合性、データ連携による透明性、新規参入環境の整備といった論点への対応が、制度の実効性を左右することになります。

 5日間でわかる 系統用蓄電池ビジネス