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【第3回】エネルギー価格補助制度の実像と制度設計を読み解く―市場安定化と構造転換に向けた視点―

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本連載の第1回では「電気・都市ガス価格激変緩和対策事業」、第2回では「燃料油価格激変緩和補助金」について、その制度概要、変遷、現場での運用課題をお伝えしました。いずれも急激な価格高騰に直面した社会・経済への即効的な支援策として大きな役割を果たしましたが、長期化による財政負担や市場機能のゆがみなど、制度の持続可能性をめぐる課題が指摘されています。 エネルギー価格の変動は今後も国際情勢や気候変動の影響で常態化する可能性が高く、単なる短期的な価格補填には限界があるとみられています。そこで、最終回となる本稿では、こうした補助制度が抱える持続可能性や市場機能への影響に加え、再生可能エネルギー導入や地域エネルギー施策との連動も視野に入れながら、今後の制度設計の方向性を考えていきます。

1. 補助制度の持続可能性をめぐる現状と課題

(1)財政負担の増大と国債依存

価格高騰対策は即効性が高い一方で、短期間であっても巨額の財政投入が必要とされます。
会計検査院の令和4年度決算検査報告によれば、「燃料油価格激変緩和対策事業」の支出済歳出額は令和3・4年度累計で約3兆1,910億円に上りました。さらに令和4年度には、新たに「電気・ガス価格激変緩和対策事業」が創設され、補正予算で約3兆1,074億円が計上されています。

令和5年度補正予算でも、電気・ガス価格対策に6,416億円、燃料油価格対策に1,532億円、合計約7,948億円が計上されるなど、継続的に大規模な財政支出が行われています(財務省資料)。

こうした補助金の多くは国債発行による財源確保に依存しており、令和5年度の一般会計決算では、図1が示すように公債金は約35.6兆円に上り、歳入総額114.4兆円の31.1%を占めています(財務省資料)。短期的には経済の下支えとして有効とされますが、補助が常態化すれば将来世代への負担が一層重くなり、財政健全化目標との両立が難しくなる可能性が懸念されています。

図1 令和5年度一般会計歳出・歳入の構成 出典:財務省「令和5年度決算の概要」

(2)市場機能の歪みと行動変容の遅れ

価格補助は、家計や企業の急激な負担増を和らげる一方で、省エネや需要抑制の意欲を弱める副作用があります。

資源エネルギー庁の電力需給実績によれば、2023年冬期に実施された家庭向け電力補助(最大7円/kWh)は、1世帯あたり月額で約2,800円の負担軽減効果をもたらしました。しかし、この期間の全国電力需要は前年同月比でわずか0.8%減にとどまっています。本来、価格高騰は高効率家電の導入や断熱改修、省エネ投資、再生可能エネルギーへの切り替えなどを促す市場シグナルとなりますが、補助により価格が抑えられることで、こうした行動変容が先送りされることが懸念されています。

同様の傾向はガソリン価格補助(最大14円/L)でも見られます。国土交通省統計では、制度開始以降の国内ガソリン販売量は2022年度比で約1.2%増加しました。国際エネルギー機関(IEA)が示す価格弾力性(-0.2)を踏まえると、価格上昇時には需要が減少するのが一般的であり、補助が需要抑制の働きを弱めた可能性があります。

(3)支援配分の偏りと公平性の課題

現行の補助制度は全国一律単価または使用量比例で支給される仕組みが多く、結果的に高所得世帯や大口需要者ほど恩恵を受けやすい構造になっています。たとえば燃料油補助が1Lあたり20円のとき、月200Lを消費する事業者は月4,000円の軽減効果を得ますが、月50L程度の家庭では1,000円にとどまります。電気料金補助(3.5円/kWh)でも、月800kWh使用する世帯では月2,800円の補助となる一方、400kWh世帯では半額の1,400円にとどまります(補助単価に基づく試算)。

こうした全国一律補助は、寒冷地や燃料依存度の高い地域と温暖地で同じ単価が適用されるため、地域間のコスト格差を是正できません。函館市は物価高騰への冬季生活支援として1世帯1万円の給付を表明するなど、独自支援を講じています。また、内閣府の意見交換記録では低所得者・生活困窮者への重点的な配慮を求める声が多数示されており、補助の的確なターゲティングや寒冷地等の地域事情への配慮が課題として浮き彫りになっています。

さらに、経済協力開発機構(OECD、加盟38か国の国際機関)の分析(2023年)でも、日本の燃料・電力補助は所得下位20%層よりも上位20%層で受益額が1.5〜2倍大きいことが示されています。こうした構造は、低所得世帯や寒冷地の住民、中小零細事業者など「エネルギー脆弱層」への重点支援が十分ではないとの指摘につながっており、財政効率と公平性の両面から制度設計の見直しの必要性が示されています。

(4)補助終了時の移行リスク

補助制度が終了または縮小されると、現行制度下で緩和されていた格差が顕在化し、低所得層や寒冷地、地方輸送に依存する中小運送事業者などでは急な負担増への対応が難しくなります。
全日本トラック協会は、燃料価格高騰分を運賃に反映できない事業者は「中小規模ほど業績回復が遅れている」と分析しており、荷主に対しては「価格転嫁を無断で据え置く行為は『買いたたき』となる可能性がある」と警告しています。

補助が縮小・終了した場合、短期間で価格が急騰する「価格の崖」が発生し、家計や企業が急激なコスト増に直面する可能性が懸念されています。特にエネルギー多消費型産業では、長期契約や需給計画の破綻により、生産調整や雇用維持への影響が避けられません。

欧州では2022年冬、エネルギー価格高騰への対応として導入された補助制度を縮小・終了した国の一部で、電気・ガス料金が短期間に大幅上昇し、追加の価格抑制措置や補助の再導入を迫られた事例がありました。英国ではエネルギー価格上限制の引き上げ計画が政府により見直され、フランスでは燃料補助を再拡大するなど、急な政策転換が行われています。これらの事例は、日本においても補助縮小の時期や方法、代替策を事前に設計しておく必要性を示しています。

2.持続可能性に向けた制度設計の方向性

(1)ターゲット型支援と価格安定メカニズム、出口戦略の明確化

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