【第1回】電気主任技術者の人材不足とは? 〜背景と現状〜
政策/動向 | 再エネ | IT | モビリティ | 技術/サービス | 金融 |
2025年04月29日
一般社団法人エネルギー情報センター

日本の電力インフラは現在、大きな変革期を迎えています。再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入拡大やEV(電気自動車)充電施設の増加に伴い、電力設備の管理・保守の重要性が一層高まっています。その中で、電気主任技術者は電力設備の安全を確保し、安定した電力供給を支える要となる存在です。 しかし近年、電気主任技術者の人材不足が深刻化しており、電力業界全体に影響を及ぼしています。特に、高齢化による人材減少、資格取得の難しさ、再エネ・EV充電施設の急増がこの問題を加速させる要因となっています。 本コラムでは、電気主任技術者の人材不足の背景と現状を明らかにし、今後の電力業界における影響についてお伝えします。
1. 電気主任技術者とは?
電気主任技術者は、電気設備の保守・運用・安全管理を担当する専門職です。
工場やビル、発電所、送電設備など、幅広い電気設備の管理を担い、設備の適正な運用を確保する役割を果たします。主な業務には以下のようなものがあります。
- 電気設備の点検・保守
- 運転管理
- 事故発生時の対応
- 技術的助言
また、電気主任技術者は第一種、第二種、第三種の3つの資格に分類され、それぞれ対応できる設備の規模や範囲が異なります。特に、第一種や第二種の資格は実務経験が必要であり、取得が難しいため、人材不足の一因となっています。

出典:電気主任技術者制度について 令和5年3月31日 産業保安グループ 電力安全課
電気主任技術者の選任形態と年齢構成
選任形態:電気主任技術者の約9割が外部委託※1であり、そのうち約5割が電気保安協会※2、約1割が電気保安協会以外の保安法人、約4割が管理技術者として選任されています。この外部委託の増加により、企業内での若手技術者の育成が進まず、技術の継承が難しくなっています。
年齢構成:電気保安協会および電気管理技術者協会の従事者の年齢構成は、50代以上が過半数を占め、高齢化が進行しています。
免状取得者数の推移:第3種電気主任技術者の免状取得者数は、直近10年(2012〜2021年)で、約1割(約5千人)減少しており、資格取得者の減少が顕著になっています。
※1 外部委託:企業が自社で電気主任技術者を雇わず、電気保安協会や保安法人に業務を委託すること。
※2 電気保安協会 … 企業や施設の電気設備の点検・保守を担う公益法人。電気主任技術者の外部委託先として広く利用されている。

出典:電気主任技術者制度について 令和5年10月26日 産業保安グループ 電力安全課
2. 人材不足の背景
電気主任技術者の人材不足の要因は主に以下の3つです。
(1) 高齢化による人材減少
全国電気管理技術者協会連合会のデータによれば、会員の年齢構成は以下の通りです。
- 66歳以上:63%
- 71~75歳:23%
- 76歳以上:22%

出典:電気主任技術者の人材の 不足に係る業界の現状と 人材確保のための取組
令和5年10月26日 全国電気管理技術者協会連合会
このように、令和4年度末時点で、会員の約60%が66歳以上を占めており、高齢化が進行しています。特に、71歳以上の会員が全体の45%を占めており、今後の引退者増加による人材不足が懸念されています。

出典:電気主任技術者制度について 令和5年3月31日 産業保安グループ 電力安全課
(2) 免状取得者数の減少と資格試験の難易度
電気主任技術者の免状取得者数は減少傾向にあります。
特に、第3種免状の取得者数は、2002〜2011年の49,269人から、2012〜2021年には43,793人と約11%(約5千人)減少しています。その要因の一つに資格試験の難易度の高さが考えられます。

出典:電気主任技術者制度について 令和5年3月31日 産業保安グループ 電力安全課
この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。
無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
---|---|
所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
電話番号 | 03-6411-0859 |
会社HP | http://eic-jp.org/ |
サービス・メディア等 | https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET |
関連する記事はこちら
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年04月16日
FIT制度、2025年度から太陽光・風力・水力の一部が単価変更、再エネ賦課金は3.98円で前年度から14%増加
本記事では、2025年度以降のFIT(固定価格買取)制度に関する再エネの動向を見ていきます。太陽光発電は初期投資支援スキームが導入され、また洋上風力は価格調整スキームが導入されるなど、今後新たな形での再エネ事業開発が進められることが期待されます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年03月23日
第7次エネルギー基本計画について(後編) :原子力発電の役割とカーボンニュートラル実現に向けた政策
2024年12月17日、経済産業省は「第7次エネルギー基本計画」の原案を公表しました。前編では、日本のエネルギー政策の基本方針や2040年度の電源構成の見通しについて解説し、再生可能エネルギーの導入拡大や火力発電の比率低減が進められている現状をお伝えしました。 後編では、これらの課題に対する解決策として、原子力発電の役割と再評価、エネルギーコストの見通し、そしてカーボンニュートラル※1達成に向けた政策について詳しく解説します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年03月19日
2025年2月、電力先物市場は過去最高の取引高を記録し、3月にはさらに更新。加えて、ヘッジ会計の適用が進展し、市場の透明性と安定性が向上しています。本コラムでは、最新の市場動向とその影響を解説します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年02月27日
経済産業省は2024年12月17日、有識者会議(総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会)を開催し、今後のエネルギー政策の方向性を定める「第7次エネルギー基本計画」の原案を公表しました。本稿では、その概要を2回に分けて解説します。前編では、計画の背景や基本方針、2040年度の電源構成の見通しについてお伝えします。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年02月03日
前編では、グリーン水素の基本的な仕組みや国内外の政策、実証実験について解説しました。グリーン水素は、二酸化炭素(CO2)を排出しないクリーンエネルギー源として、気候変動対策の鍵を握る存在です。後編では、その普及に向けた課題と解決策、さらに具体的な活用例を掘り下げていきます。これにより、グリーン水素が私たちの生活や産業にどのように影響を与えるかををお伝えします。