グリーン水素の今後の展望・活用例①
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一般社団法人エネルギー情報センター

地球温暖化の影響が深刻化する中、2050年までにカーボンニュートラル(二酸化炭素排出実質ゼロ)を実現することが、世界的な課題となっています。その中で注目を集めているのが、「グリーン水素」です。グリーン水素は、太陽光や風力といった再生可能エネルギーを活用して製造されるため、製造過程で二酸化炭素(CO2)をほとんど排出しないという特徴を持っています。国際エネルギー機関(IEA)が発表した「Net-Zero Roadmap」(2023年)では、2050年の水素需要が2022年の約5倍に増加することが予測されています。 本コラムでは、成長過程にあるグリーン水素の魅力と可能性について、2回にわたって詳しく掘り下げていきます。前編では、グリーン水素の基本的な仕組みと、その普及に向けた国内外の動向をお伝えします。
グリーン水素の基礎と現在の動向
グリーン水素とは何か?
水素は次世代のクリーンエネルギーとして注目されています。その製造方法により、「グリーン水素」「ブルー水素」「グレー水素」の3種類に分類され、それぞれの環境性能には明確な違いがあります。
グリーン水素は、再生可能エネルギー(太陽光や風力)を利用して、水を電気分解する「電解法※1」によって生成されます。この製造過程では、二酸化炭素(CO2)の排出がほとんどないため、環境負荷が非常に低い点が大きな特徴です。そのため、グリーン水素は最も環境に優れた水素と位置付けられています。
ブルー水素は、石油や石炭、天然ガスといった化石燃料を原料に、「改質法※2」を用いて生成されます。この製造方法では、化石燃料を燃焼させる際に発生するガスから水素を取り出します。その過程でCO2は発生しますが、これを回収して地下に貯留したり、他の用途に活用することで、大気への排出を大幅に抑えています。ブルー水素は、グレー水素に比べて環境負荷が低く、現実的な脱炭素化の手段として注目されています。
グレー水素もブルー水素と同様に、化石燃料を原料とし、「改質法」で生成されます。しかし、グレー水素の場合、製造過程で発生したCO2を回収せず、そのまま大気中に放出します。このため、環境への影響が最も大きい形態です。
これらの中でも、グリーン水素は従来の化石燃料由来の水素製造に比べ、CO2排出量を最大90%削減できるため、脱炭素社会の実現において最も重要視されています。
※1 水を電気分解することで水素を製造する方法
※2 化石燃料(例:天然ガス、石油、石炭)を高温で分解し、水素を取り出す方法

出典:次世代エネルギー「水素」、そもそもどうやってつくる?(資源エネルギー庁)
国内外の政策とグリーン水素実証実験
国内の政策
エネルギー資源が限られる日本では、2017年に世界で初めて「水素基本戦略」を策定し、2050年までに水素社会を実現することを目標に掲げました。その後、2023年6月にはこの戦略が改定され、水素に加えてアンモニアや合成メタンの活用も視野に入れ、2040年には水素供給量を1,200万トン、2050年には2,000万トンとする新たな目標が設定されました。
さらに、2024年5月には「水素社会推進法」が施行され、低炭素水素の供給と利用を促進するため、規制の整備と支援が一体的に進められる計画です。また、「グリーンイノベーション基金」を活用し、大規模な水素供給や発電技術の実証事業への資金提供も進行中です。これらの取り組みは相互に補完し合いながら、日本が目指す水素社会の構築と国際競争力の強化、そしてカーボンニュートラルの実現に向けた重要な役割を果たしています。
※3 グリーンイノベーション基金:脱炭素技術の研究開発と実用化を支援する日本政府の2兆円規模の基金。
国内のグリーン水素実証実験
1.福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)
福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)は、2020年2月に稼働を開始した世界最大級の水素製造施設です。この施設では、敷地に設置された20MWの太陽光発電を活用し、10MWの水素製造装置で毎時1,200Nm³の水素を生産しています。蓄電池を使用せず、電力系統の需給調整を行いながら、再生可能エネルギーを最大限に活用する仕組みを実証中です。また、製造された水素は、燃料電池車や発電用途などに供給され、脱炭素社会の実現に向けた重要な役割を担っています。

出典: 再エネを利用した世界最大級の水素製造施設「FH2R」が完成(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
2.北海道の国産グリーン水素サプライチェーン構築事業
北海道では、風力発電を活用したグリーン水素製造プロジェクトが進行中です。特に、苫小牧西部エリアでは、出光興産、ENEOS、北海道電力の3社が協力し、国内最大規模となる年間約1万トン以上のグリーン水素を製造する水電解プラント(100MW以上)の建設を目指しています。このプロジェクトの計画は2023年に発表され、2030年までの完成を目標としています。
このプロジェクトでは、北海道の豊富な再生可能エネルギー資源を最大限に活用し、製造されたグリーン水素を地域の工場などにパイプラインで供給するサプライチェーンの構築を進めています。また、北海道内での余剰電力を水素に変換し、有効活用するとともに、電力市場への調整力供出を行うことで、さらなる再生可能エネルギーの導入・拡大を促進することが期待されています。

出典:北海道で国内最大規模となるグリーン水素サプライチェーン構築に向けた検討を開始(北海道電力株式会社)
海外のグリーン水素実証実験
1.福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)
欧州水素銀行(European Hydrogen Bank)は、グリーン水素の域内生産を促進し、国際競争力を強化することを目的とした政策プロジェクトです。このプロジェクトでは、域内の水素生産者に固定補助金を提供する仕組みを採用し、2030年までに域内で1,000万トン、輸入で1,000万トンの水素供給を目指しています。2023年に初回の入札が実施され、約8億ユーロ(約1,300億円)の予算が割り当てられた中で、7件のプロジェクトが選定され、水素製造1キログラムあたりの固定補助金が10年間提供される仕組みです。
また、欧州は再生可能エネルギー由来の水素比率を義務化しており、2030年に42%、2035年には60%の目標を掲げています。
2.オーストラリアのHydrogen Energy Supply Chain (HESC) プロジェクト
オーストラリアの「Hydrogen Energy Supply Chain(HESC)」プロジェクトは、再生可能エネルギーと炭素回収技術を組み合わせた水素製造および液化水素の長距離輸送技術を実証する国際的な取り組みです。このプロジェクトでは、オーストラリアで生成された水素を液化し、日本やアジア市場へ輸出することを目指しています。
プロジェクトは2018年に開始され、試験段階として2021年に初の液化水素輸送が実施されました。初期段階では年間225トンの水素生産を計画しており、2030年までに年間数百万トン規模への拡大を目指しています。HESCは、日本とオーストラリア間の水素供給チェーン構築を目指す画期的なプロジェクトであり、グローバルな水素市場を牽引する存在として注目されています。

出典:HESC実証プロジェクトのパートナーの画像(Hydrogen Energy Supply Chain Project)
まとめ
グリーン水素は、その優れた環境性能から、脱炭素社会の実現に向けて欠かせない存在として注目されています。産業分野の脱炭素化に大きく貢献し、世界各地で進行中のプロジェクトがその可能性を実証しています。しかし、普及を進めるには、コスト削減や技術革新といった課題の解決が必要不可欠です。次回の後編では、これらの課題への取り組みや、グリーン水素の具体的な活用例、さらに未来の展望について詳しく解説します。
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