再エネの大量導入における4つの課題と2030年に向けた取組
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2017年12月21日
一般社団法人エネルギー情報センター
再エネ大量導入においては、大別すると①発電コスト、②系統制約、③調整力、④事業環境といった4つの課題があります。また、国際競争力という観点では、それらの課題を解決し、世界に通用するエネルギー企業を創出する必要があります。今回のコラムでは、国の議論から再エネ大量導入における4つの課題を整理し、2030年に向けた取り組みの方向性を見ていきたいと思います。
再エネ大量導入における課題、①発電コスト・②系統制約・③調整力・④事業環境
世界的には、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い発電コストが低減し、コスト競争力のある電源となってきています。一方で日本は、2012年7月のFIT制度導入以降、急速に再生可能エネルギーの導入が進んでいるものの、発電コストは国際水準と比較して依然高い状況です。
また、再エネの導入拡大が進む中、従来の系統運用の下で系統制約が顕在化するなど、新たな政策課題も浮き彫りになってきています。
再エネ大量導入においては、大別すると①発電コスト、②系統制約、③調整力、④事業環境といった4つの課題があります(図1)。また、国際競争力という観点では、それらの課題を解決し、世界に通用するエネルギー企業を創出する必要があります。
今回のコラムでは、国による議論から再エネ大量導入における4つの課題を整理し、2030年に向けた取り組みの方向性を見ていきたいと思います。
図1 再エネ大量導入・次世代電力ネットワークの課題と検討の方向性 出典:経済産業省
①発電コスト、入札やFIP活用によって市場環境を整える
日本はFITにより再エネ導入拡大と価格低減を実現しましたが、諸外国と比較すると未だに高い水準です。太陽光発電の場合、日本では2012年の40円から2016年には24円と価格低減しましたが、ドイツでは同期間で22円から9円になっています。
こうした価格という要素は、国際市場における競争力といった点で一つの重要な指標です。2016年における世界と日本のトップ企業規模を比較すると、太陽光では中国のトリナソーラーが日本の5倍、風力ではデンマークのヴェスタスが80倍もの規模となっており、日本は大きく差をつけられています(図2)。
図2 再エネの高コスト是正と産業強化 出典:経済産業省
一定までビジネスとして成熟した再エネ電源については、入札による競争が価格低減を促すと考えられます。日本においても改正FITにより2017年10月27日~11月10日にてメガソーラー(出力2000kW以上)の第1回入札が実施され、9件(141MW)の落札がありました。最低落札価格は17.20円/kWh、最高落札価格は21.00円/kWhとなりました[関連記事](図3)。日本においては近年、太陽光だけではなくバイオマスも導入が進んでおり、入札の実施が検討されています。[関連記事]
図3 太陽光発電 第1回入札の結果 出典:経済産業省
再エネの価格低減については、入札だけではなく、電力市場ベースへの移行を促す仕組みも検討する必要があります。市場価格と連動した政策支援にFIP(Feed-in Premium)があり、再エネ発電事業者が市場価格で電力販売する場合に、市場価格にプレミアムを上乗せする方式です(図4)。再生可能エネルギーの自立普及・完全自由競争を促す仕組みとなります。
ドイツでは、2014年8月の改正法で、一定規模以上の新規の再生可能エネルギー発電設備は段階的に直接販売及び市場プレミアム制度の適用が義務化されました。再エネ発電事業者は直接、卸電力市場もしくは相対取引で発電電力を販売します。その際、市場プレミアムとして基本となる市場価格とFIT買取価格の差額が、上乗せして補填されます。
図4 FIP(Feed-in Premium)について 出典:経済産業省
②系統制約、コネクト&マネージの検討が進められる
日本の既存系統と再生可能エネルギー電源の立地ポテンシャルは、必ずしも一致しておらず、電力系統への受入れコストが増大しています。そのため、柔軟かつ効率的な「次世代型」の系統運用・設備形成により、社会コストを最小化しつつ、再エネ大量導入を実現していくことが必要です。
IEAによれば、変動再エネ導入比率に相関して、下記の通り4つの運用上のフェーズが存在します(図5)。アイルランドとデンマークはフェーズ4です。フェーズ3にはEU各国、フェーズ2には北米・南米・アジア・オセアニアの各国が位置します。日本はフェーズ2、九州はフェーズ3に相当します。
- フェーズ1:ローカル系統での調整が必要となる
- フェーズ2:系統混雑が現れ始め、需要と変動再エネのバランスが必要となる
- フェーズ3:出力制御が起こり、柔軟な調整力や大規模なシステム変更が必要となる
- フェーズ4:変動再エネを大前提とした系統と発電機能が必要となる
図5 変動再エネ導入比率に相関する4つの運用フェーズ 出典:経済産業省
現在、日本では、新規に電源を系統に接続する際、系統の空き容量の範囲内で先着順に受入れを行っています。そして空き容量がなくなった場合には、系統を増強した上で追加的な受入れを行うこととなっています。
一方、系統の増強には多額の費用と時間が伴うため、まずは、既存系統を最大限活用していくことが重要です。その点、欧州の一部の国(イギリスやアイルランド、ドイツ等)においては、既存系統の容量を最大限活用し、一定の条件付での接続を認める制度を導入しています(図6)。
図6 諸外国における再エネの系統接続等に関する制度 出典:経済産業省
こうした、系統の空き容量を柔軟に活用し、一定の制約条件の下で系統への接続を認める「コネクト&マネージ」の仕組みが、日本においても検討が進められています。「コネクト&マネージ」の仕組みの1つである
ノンファーム型接続では、系統制約時の出力抑制に合意した新規発電事業者は、設備増強せずに接続可能となります(図7)。
図7 日本版コネクト&マネージ 出典:経済産業省
③調整力、蓄電池の価格低減が重要に
再生可能エネルギーの導入が拡大する中、需給バランスを一致させる上で、調整力を効率的に確保することが重要です。そのため、発電事業者と送配電事業者の適切な役割分担や、蓄電池や水素の活用などにより、調整力を効率的に確保することが必要です。
また、既存系統を最大限活用したとしても、2030年以降も見据えれば、一定の系統増強及び更新投資は必要となると考えられます。
系統増強については、大規模な系統増強が必要となる場合には、一社では負担が大きすぎる場合があります。そのため日本においては、系統増強の工事費負担金を複数の事業者で共同負担する「電源接続案件募集プロセス」が広域機関でルール化されています(図8)。現在、全国的に入札募集が実施されています。
図8 共同負担による系統増強スキーム 出典:経済産業省
蓄電池については、第4回ERAB検討会において、2020年の定置用蓄電池の目標価格が設けられています。家庭用では2015年の約22万円/kWhから、2020年には約9万円/kWhに設定され、産業用は同期間で約36万円/kWhから、約15万円/kWhの目標となっています。
系統用蓄電池については、同様の機能を担う揚水発電の設置コスト(2.3万円/kWh以下)を2020年度末の目標価格としています(図9)。そのため、目標達成にむけた取組を支援する予算が措置されています。
図9 蓄電池の目標価格 出典:経済産業省
太陽光発電+蓄電池では、自家消費型エネルギー供給が可能となります。2020年には太陽光発電と蓄電池が経済的に優位性を持つ特異点となるソーラーシンギュラリティが見込まれています。2032年以降は、FIT期間が終了した事業用の案件へ蓄電池が導入されることにより、安定電源化が期待されています(図10)。
図10 PV+蓄電池による自家消費型エネルギー供給形態の実現イメージ 出典:経済産業省
④事業環境、洋上風力の立地調整を政府が主導する可能性
現行のFIT制度では、長期・固定価格での買取が保証される一方で、立地地点の選定・調整については事業者が役割を担っています。そのため、立地制約による事業リスクが高い場合には、発電コストが下がらず、将来的にもFIT制度なしでは導入が進まない可能性があります。
この点で欧州では、洋上風力について、政府等が導入計画を明確化しています。環境アセスメントや系統接続等の立地調整を政府が主導することで、事業者のリスクを軽減する仕組みが採用されています。
そのため日本においても、洋上風力について、海域の利用ルールの明確化など、制度整備を含めて検討していく必要があるとされています。洋上風力である理由は、大きな導入ポテンシャルとコスト競争力とが両立し得る重要電源のためです。
そのほか、導入加速化が特に求められている地熱については、国による資源量調査を加速化するほか、有望地域での地元調整を円滑に進めるための方策を検討する必要があるとされています。
洋上風力発電について、デンマーク、オランダ等では、プロジェクトの事前調査や環境アセスメント、地元調整等を政府等が主導することにより全体のプロセスが明確化されています。また、系統連系に必要な費用も送電系統運用者が負担した上で、入札が行われています。これにより事業者の開発リスクが低減されており、価格競争が活発化しています。2022年に稼働が予定されるKriegers Flakでは、6.3円/kWhの価格となりました(図11)。
入札制度以外の支援策としては、系統連系に必要な費用を、送電系統運用者が負担し、系統利用料金に加算して需要家から徴収するものがあります。
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執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
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