水の「蒸発」を利用する新しい再エネ発電、米コロンビア大学発表

2017年10月05日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

水の「蒸発」を利用する新しい再エネ発電、米コロンビア大学発表の写真

9月26日、英科学誌Nature Communicationsにて、水の「蒸発」を利用する新しい再エネ発電方法が掲載されました。細菌の芽胞が空気中の水分を吸収・放出する際に、膨張と収縮をする特徴を利用して電力を生成する仕組みとなります。

水の「蒸発」を利用する新しい再エネ発電方法

地球上に到達する太陽光のエネルギー量は1m2当たり約1kWです。仮に、地球全体に降り注ぐ太陽エネルギーを100%変換できるとしたら、世界の年間消費エネルギーを、わずか1時間でまかなうことができるほど巨大なエネルギーとなります。

地球の表面で吸収される太陽エネルギーは、概ね半分が水の蒸発を引き起こし、これによって生態系と水資源、気象、気候が影響を受けています。この蒸発をエネルギーに変換できることは、複数の研究で実証されていますが、蒸発エネルギー資源の利用可能性と信頼性、潜在力についての解明はほとんど進んでいません。

そのような中、英科学誌Nature Communicationsにて、水の「蒸発」を利用する新しい再エネ発電方法が掲載されました。バクテリアが空気中の水分を吸収・放出する際に、膨張と収縮をする特徴を利用して電力を生成する仕組みとなります。

アメリカの池や湖の蒸発を電力に、国内の年間発電量の7割に相当

今回の研究においては、水の蒸発というプロセスから回収できるエネルギー量の評価が行われています。研究グループによると、米国内に現存する面積0.1 km2以上の湖沼と貯水池(五大湖を除く)からの水蒸発によって、最大325ギガワットの電力を利用できる可能性があるとしています(図1)。

これは、2015年における米国の年間発電量の約7割に相当するという計算になります。また、今回の研究結果では、太陽光や風力発電と異なり、気象条件の変化による悪影響はさほど大きく受けないことも示されています。

蒸発エネルギーの場合は、太陽の出ていない夜間であっても、十分なエネルギー量を期待できます。その主な理由は、水自体が熱を蓄えることができるからです。日中の時間帯では、日光に由来する熱が水に蓄えられ、夜間はそのエネルギーにより、継続的に水が蒸発していきます。

蒸発エネルギーの密度

図1 蒸発エネルギーの密度 出典:コロンビア大学

湖などの蒸発量を半減、水不足への応用可能性

蒸発駆動のシステムは電力を生産するだけではなく、蒸発による水の損失をほぼ半分に減らすことが可能です。そのため、水不足に悩まされている地域においては、こうしたエネルギー回収装置が有利に働く可能性もあります。

蒸発からエネルギーを収穫することは、必然的に蒸発速度を低下させます。したがって、貯留槽(灌漑や水力発電などのため作られたもの)があれば、水の損失を減らすことが別の重要なメリットを生み出します。例えば、水の損失を少なくすることで、農家などが潤沢に水を使用することが可能となります。

今回の研究による、米国内の湖等を利用したモデルでは、年間25兆ガロン、すなわちアメリカ人が消費する水の約5分の1が節約できる計算となりました。

芽胞を塗布したテープの伸縮で発電

蒸発エネルギーを実際に利用するには、空気と水の境界面にエネルギーを摂取する装置を設置する必要があります。湖などから蒸発する水蒸気が、大気中に拡散する前に、特殊な装置で捕捉することになります。

蒸気をエネルギーに変換するプロセスは、細菌の芽胞が利用されます。芽胞は水を吸収すると膨れて、水分がなくなると縮むため、筋肉のように振舞うことが可能です。今回の研究では、胞子を塗布処理したビニールテープが伸び縮みすることによって、エネルギーを採取する構造が考えられています。伸縮するテープの端に発電機を接続することで電気を生み出します。

コロンビア大学のOzgur Sahin氏の研究室で開発された蒸発駆動エンジンは、シャッターを開閉することで湿度を制御し、細菌の胞子を膨張させたり収縮させたりします(図2)。胞子が膨張と収縮を繰り返すことで、発電機により電気を生成することも可能です。

水蒸気で伸縮する.胞子を塗布したビニールテープ

図2 水蒸気で伸縮する.胞子を塗布したビニールテープ 出典:コロンビア大学

今回の研究成果を活用し、世界初の蒸発駆動エンジンを搭載したミニカーが試作されています。ミニカーが動く様子については、以下の動画にて確認することができます。なお、今回の研究については、「U.S. Department of Energy」、「David and Lucile Packard Foundation」、「National Science Foundation」、「Wyss Institute for Biologically Inspired Engineering」によって資金提供されて実施されています。

この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。

無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
電力の補助金

補助金情報

再エネや省エネ、蓄電池に関する補助金情報を一覧できます

電力料金プラン

料金プラン(Excel含)

全国各地の料金プラン情報をExcelにてダウンロードできます

電力入札

入札情報

官公庁などが調達・売却する電力の入札情報を一覧できます

電力コラム

電力コラム

電力に関するコラムをすべて閲覧することができます

電力プレスリリース

プレスリリース掲載

電力・エネルギーに関するプレスリリースを掲載できます

電力資格

資格取得の支援

電験3種などの資格取得に関する経済支援制度を設けています

はてなブックマーク

執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センターの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。

企業・団体名 一般社団法人エネルギー情報センター
所在地 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F
電話番号 03-6411-0859
会社HP http://eic-jp.org/
サービス・メディア等 https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET

関連する記事はこちら

2024年度にも国内で初導入が計画される潮流発電。世界の先進的な事例や、その仕組みと可能性とは!?の写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年08月17日

新電力ネット運営事務局

2024年度にも国内で初導入が計画される潮流発電。世界の先進的な事例や、その仕組みと可能性とは!?

排他的経済水域世界第6位という海洋国である我が国において、海洋エネルギーは大きなポテンシャルを有しています。潮流発電は一定の規則性を持った潮汐力により、年間を通じて安定的で、予測可能な発電方式であることから今後の可能性として期待がされます。今回は、潮流発電(潮汐力発電)について紹介します。

太陽光パネルの廃棄とリユース・リサイクルの現状と課題の写真

一般社団法人 環境エネルギー循環センター(EECC)

2023年07月31日

EECC運営事務局

太陽光パネルの廃棄とリユース・リサイクルの現状と課題

導入が進んだ太陽光パネルの廃棄に関する問題について、政府が検討会を通じで業界団体にヒアリングをしています。その中で、実態が浮き彫りになってきた太陽光パネルのリユース・リサイクルの現状と課題についてご紹介します。

日本はポテンシャルが高い!?地熱発電を地域観光や企業の自家発電に活用の写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2022年12月07日

新電力ネット運営事務局

日本はポテンシャルが高い!?地熱発電を地域観光や企業の自家発電に活用

電力高騰や原発再稼働などがメディアで取りざたされている電力業界。カーボンニュートラル社会に向けて、これから考えれることは何か。今回は、日本にはまだポテンシャルのあるクリーンエネルギーの一つである地熱発電を取り上げ、国内外の事例をご紹介します。

風力発電の最新の国内動向や、課題と解決策についての写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2022年09月29日

新電力ネット運営事務局

風力発電の最新の国内動向や、課題と解決策について

三菱商事の洋上風力の入札案件や豊田通商の陸上風力開発など、風力発電関連のニュースが多く取り上げられています。再生可能エネルギーとして日本では太陽光に次ぐ導入ポテンシャルがある風力発電の最新の国内動向をご紹介。また、課題や解決のための取り組みについても取り上げます。

世界で太陽光パネル廃棄に関する議論が加速。日本は24年にリサイクル義務化検討への写真

一般社団法人 環境エネルギー循環センター(EECC)

2022年09月08日

EECC運営事務局

世界で太陽光パネル廃棄に関する議論が加速。日本は24年にリサイクル義務化検討へ

今後、寿命を迎えた太陽光パネルの大量廃棄が起こるという懸念が世界中で広がっています。日本では、環境省が太陽光リサイクル義務化の検討にはいりました。そこで今回は、現状のリサイクル設備やパネル回収システムについてご紹介しながら、今後の廃棄・リサイクルの動きについて考えていきます。

 5日間でわかる 系統用蓄電池ビジネス ビジネス屋と技術屋が一緒に考える脱炭素