政府も注目する次世代エネルギー、核融合の仕組みと可能性 【第1回】核融合“超入門” 地上に「小さな太陽」をつくる挑戦

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地上に“小さな太陽”をつくる、そんな壮大な計画が世界各地で進んでいます。 核融合とは、太陽の内部で起きているように、軽い原子が結びついてエネルギーを生み出す反応のことです。燃料は海水から取り出せる水素の一種で、CO₂をほとんど出さず、石油や天然ガスよりもはるかに効率的にエネルギーを取り出すことができます。 かつては「夢の発電」と呼ばれてきましたが、近年は技術の進歩により、研究段階から実用化を見据える段階へと進化しています。 2025年6月当時は、高市早苗経済安全保障担当大臣のもと、政府が核融合推進を本格的に強化しました。 同月に改定された「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」では、研究開発から産業化までを一貫して支援する体制が打ち出されています。 今回はその第1回として、核融合の基本的な仕組みや核分裂との違い、主要な研究方式をわかりやすく解説します。

1.核融合とは? 核分裂との違いと基本原理

ここではまず、核融合の基本的な仕組みと、現在の原子力発電(核分裂)との違い、安全性や技術的な課題について整理します。

(1)核融合の基本的な仕組み

核融合とは、軽い原子核(例えば水素)同士が、高温・高圧という特別な環境の中で衝突し、くっついてより重い原子核になる反応です。図1のように、この反応が起こると原子核の質量の一部がエネルギーに変わり、理論的にはたった1グラムの燃料から石油数トン分の熱量を得ることができます。

一方、現在の原子力発電で使われている「核分裂」は、ウランなどの重い原子核を割ってエネルギーを取り出す方法です。核分裂は一度始まると連鎖的に進むため、反応の制御が難しいという特徴があります。

図1 核融合反応のしくみ 出典:文部科学省「核融合エネルギーとは」

(2)核融合の安全性と課題

核融合反応は、燃料の供給や電源を止めればすぐに反応が停止します。そのため、万が一の事故で爆発したり、放射能によって人が住めなくなるといった心配はほとんどありません。

ただし、燃料に使われる「三重水素(トリチウム)」は放射性物質であり、反応せずに残った分は分離・回収して再利用する仕組みが必要です。
また、核融合反応では放射線の一種である中性子が発生し、炉の内部構造が放射化したり、もろくなったりする可能性があります。そのため、こうした影響を抑えるための新しい材料開発が欠かせません。

さらに、運転中に放射能を帯びた部材は「低レベル放射性廃棄物」として適切に管理・処分することが求められます。

このように、核融合は安全性の面で従来の原子力よりも優れている一方で、実現のためには細やかな安全対策と高性能な材料技術が必要です。

2.三つの方式とそれぞれの特徴

図2に示すように、核融合を実現するための方法は大きく三つあります。
どの方式も「1億度を超えるプラズマをどう安定的に閉じ込めるか」が共通の鍵であり、世界中の研究者が異なるアプローチで実現を目指しています。

図2 核融合の主な3方式
出典:量子科学技術研究開発機構/文部科学省「核融合研究‐核融合反応を起こす方法(主な3つの方式)」

(1)トカマク方式

世界で最も研究が進んでいる方式で、ドーナツ型の容器(トーラス)に磁場を発生させてプラズマを閉じ込めます。磁場の中を電流が流れ、プラズマがぐるぐると回転しながら高温を維持する仕組みです。
フランスで建設中の国際共同プロジェクト「ITER(イーター)」には、正式メンバー7極に加え、協力関係国を含め約35カ国・地域が関与しています。ITERは「実験炉」として、将来の発電実証に必要なデータを集めることを目的としています。

トカマク方式は長年の研究で最も成果を上げており、プラズマを高温に加熱する技術や制御の安定性が高い点が特徴です。
ただし、プラズマを維持するためには装置内部に強い電流を流す必要があり、長時間連続で運転することが難しいという課題があります。今後は、超伝導コイルやAI制御を活用して、より安定的な運転を目指す研究が進んでいます。

(2)ヘリカル(ステラレーター)方式

日本が得意とする方式で、磁場の形を複雑にねじったコイルそのもので作り出すため、電流を流さなくてもプラズマを閉じ込められます。岐阜県土岐市にある「大型ヘリカル装置(LHD)」は世界最大級のヘリカル装置で、安定した長時間運転の実験を成功させています。

この方式は、装置構造が非常に複雑で製造や保守に高い精度が求められますが、定常的(連続的)な運転がしやすいという大きな利点があります。
その特性を生かし、近年では日本のスタートアップ「ヘリカルフュージョン社」は、ヘリカル方式を用いた原型炉の開発を進めており、2030年代の発電実証を目指しています。

(3)慣性核融合方式

磁場ではなく「レーザーの力」で燃料を圧縮する方法です。直径数ミリの燃料ペレット(重水素と三重水素の混合体)に数百本の高出力レーザーを一斉に照射し、一瞬で1億度以上に加熱して融合反応を起こします。

アメリカのローレンス・リバモア国立研究所は、2022年12月に核融合で投入エネルギーを上回る出力を達成したと発表しました。この成果は「点火」の達成として世界的に注目されました。

慣性核融合の強みは、短時間で高温高圧を作り出せることです。しかし、反応が瞬間的であるため、連続運転が難しく、発電用に安定したエネルギーを取り出すには多くの改良が必要です。また、レーザー装置のコストやエネルギー効率の面でも課題が残っています。
それでも、宇宙防衛技術や医療分野との応用研究が進んでおり、幅広い分野で波及効果が期待されています。

3.いま核融合が注目されている理由

かつての“夢の技術”が、政策と市場が動かす“国家プロジェクト”へと進化しました。核融合が再び注目を集めている背景には、技術革新・エネルギー安全保障・政策と投資の後押しという三つの大きな潮流があります。

(1)技術の進歩

近年、高温超伝導やAIによるプラズマ制御技術の導入によって、かつて不可能とされた安定的な核融合反応の維持が現実味を帯びてきました。これまで実験炉は数十メートル級の巨大施設が前提でしたが、現在では磁場の強度向上と計算最適化によって装置の小型化が進み、民間企業でも実証可能なスケールに到達しています。

たとえば、米国のCommonwealth Fusion Systems社は高温超伝導コイルを用いて装置の体積を大幅に縮小し、日本のヘリカルフュージョン社も同様の技術を基盤に2030年代の発電実証を目指しています。これらの動きは、「実験室から産業へ」という流れを明確にしています。

図3 高温超伝導磁石(HTS)を組み込んだ核融合実験装置の内部構造
出典:MIT Plasma Science and Fusion Center/Commonwealth Fusion Systems(CC BY-NC-ND 4.0)

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