バイオマス発電、FITなければ単体での事業は困難、地域社会への効果に着目する必要

2017年10月04日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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9月28日、NEDOは「バイオマスエネルギー地域自立システムの導入要件・技術指針」を公表しました。 バイオマスエネルギー事業は単体での経済効果には限界があるため、持続的に地域社会で必要とされる事業を追求する必要があるとしています。

バイオマス事業、持続的に地域社会で必要とされる事業を追求する必要性

これまで廃棄物処理の一環として行われてきたバイオマスエネルギー事業が、FIT制度の開始により、収益性の面で注目を集めています。しかしながら、FIT制度における電力買取は時限的であり、買取期間が終了する20年後には、バイオマスエネルギー事業が継続しない可能性もあります。

このような事態を避けるためには、FIT制度に依存しない、長期的に持続可能なバイオマスエネルギー事業の実現を目指すことが重要であると考えられます。そうした点で、NEDOは「バイオマスエネルギー地域自立システムの導入要件・技術指針」を公表しました。

バイオマスエネルギー事業は単体での経済効果には限界があるため、持続的に地域社会で必要とされる事業を追求する必要があるとしています。その内容について、下記にて見ていきます。

木質系と湿潤系バイオマスの収益特徴

バイオマスには木質系と湿潤系があり、木質系バイオマスは国内の森林に由来し、湿潤系バイオマスは畜産農業に由来します。それぞれの収益性における特徴について、下記にて見ていきます。

木質系バイオマス事業、FIT制度に依存する収益性

木質系バイオマス発電は、基本的に、発電規模が大きくなるほど生産コストが低下していくという特徴があります。その理由として、発電所が大きくなるほど発電効率が高くなるため、発電量あたりの燃料費や設備の減価償却費等が低下することが挙げられます(図1)。

一方で、競合である石炭、天然ガス火力発電は、スケールメリットの効果が生じやすい上、燃料自身の熱量あたりの単価がバイオマスより安価であるため、圧倒的な価格競争力を有しています。

木質系バイオマスは大量に燃料調達をすることが難しいため、単体での大型化には限界があります。図1における750MWといった大型発電所の試算事例では、石炭とバイオマスの混焼を想定していますが、混焼率は1%であるため大半が石炭による発電となります。そのため、石炭火力発電の発電コストとほぼ同様の約13円/kWhとなっています。

これに対し、規模が小さくなるとバイオマスの比率が増え、小型の5,700kWでは約20円/kWhをバイオマス調達費が占めることとなります。このケースでは発電コストが上昇し、バイオマスの調達費のみで石炭火力発電全体のコストを超える結果となります。

そのため、バイオマス単体で競争力を確保することは困難であり、FIT制度が終了する20年後には、地域社会との連携といった対策を取っていくことが、持続的な発電事業に重要であることが分かります。

木質バイオマス発電の規模別発電コスト試算例

図1 木質バイオマス発電の規模別発電コスト試算例 出典:NEDO

湿潤系バイオマス事業、廃棄物処理の収益が重要

湿潤系のメタン発酵事業の収益のうち、最も大きいのは廃棄物処理であり、エネルギーの販売費用ではありません(図2)。そのため、FIT制度により発電事業という側面が強化されたものの、事業の社会的役割としては廃棄物処理の方が大きいです。

木質系バイオマスの発電とは異なり、規模の拡大に応じて収入は増加しますが、支出は緩やかな増加しかしません。したがって、廃棄物処理等の事業を軸とし、事業が成立する規模を見出すことが可能です。

湿潤系バイオマスの機能である廃棄物処理機能は、地域にとって持続的に必要であるため、FIT制度の有無に関わらず事業成立するように計画することが重要となります。

メタン発酵事業の収支試算例

図2 メタン発酵事業の収支試算例 出典:NEDO

エネルギー生産に加え、地域で必要とされる事業に

バイオマス発電においては、これまで見てきたように、電力供給を行う事業の場合、FIT制度における買取期間終了後も事業を継続するのが容易ではないといった課題があります(図3)。また、熱供給を行う事業の場合、販売先を見出すのが難しいだけでなく、競合資源である原油の市況が変動するなかで長期的に継続する事業とするのは容易ではありません。

このような課題があるなかで、バイオマスエネルギー事業を持続可能なものとするためには、バイオマス事業が地域社会で必要とされ、その実施の意義を関係者全員が感じられる必要があります。すなわち、事業を通じて地域の産業や社会インフラの拡大あるいは創出を実現することが鍵となります。

地域で必要とされる事業のイメージ

図3 地域で必要とされる事業のイメージ 出典:NEDO

4つの要素で地域自立が可能なシステムに

バイオマス事業者は、「バイオマス調達」、「エネルギー変換」、「エネルギー利用および副生物の処理・利用」のすべてのプロセスについて検討を行う必要があります。それだけではなく、これら3つのプロセスを統合し、地域産業や社会と連携する「システム」という要素が重要です(図4)。この4つの要素すべてについて十分に検討することで、持続的な事業実現に近づくことができます。

4つの要素の安定

図4 4つの要素の安定 出典:NEDO

持続的なバイオマス事業において期待される効果

持続的な事業実施によって期待される効果は、大きく分けて「事業性」、「環境」、「社会」の 3 つの側面からとらえることができます。例えば環境面においては、木質系では「森林の公益的機能」、湿潤系では「物質循環 、悪臭低減」等が挙げられます(図5)。どの側面での効果を最も重視するかについては、事業の内容や各関係者の立場によって異なります。

バイオマスエネルギー事業実現によって期待される効果

図5 バイオマスエネルギー事業実現によって期待される効果 出典:NEDO

地域産業との連携、持続的な取り組み

バイオマス事業において、地域社会や産業との信頼関係を醸成し、協力体制を築くことは非常に重要です。例えば、調達コストの削減、熱供給先の創出のいずれに取り組む場合も、地域の産業や社会との協働が欠かせません。

地域としての将来像が定まり、地域で力を入れる産業を見出すことができれば、エネルギー需要や木材資源の活用方法が明らかになっていきます。下記にて、木質系と湿潤系のバイオマス事業における地域との連携イメージを見ていきます。

木質系バイオマス

地域の産業や社会との協働を具体的に進めるに先立ち、目指す地域の絵姿について関係者間で合意形成をはかることが重要です。目指す地域の絵姿として検討すべき内容は、ひとつは将来の地域の森林のあり方であり、もうひとつは将来の地域の産業のあり方です。

森林の現状とあり方が定まることで、素材生産量や素材生産費用が将来に向けてどのように推移していくかを検討することが可能となります。また、地域の産業の現状とあり方が定まることで、熱需要や木材資源の出荷先の将来を検討することが可能となります。

例えば、製材品や集成材のような、比較的高付加価値の木材加工品の製造を、地域の産業として育てていくとします。その場合、工場の大規模化が進んでいくと期待されます。バイオマスについては、その大規模化に合わせた素材生産量・乾燥熱需要拡大を検討することができます。その他、バイオマス事業との連携で森林を整備することで、観光業を発展させていく、といった可能性も検討できます(図6)。

将来の産業のあり方実現のための取組例

図6 将来の産業のあり方実現のための取組例 出典:NEDO

湿潤系バイオマス

湿潤系バイオマス事業において、地域の産業や社会との協働を具体的に進めるに先立ち、目指す地域の絵姿について、関係者間で合意をとることが重要です。目指す地域の絵姿として検討すべき内容の一つは、将来の地域の廃棄物処理のあり方です。

目指す姿としては、焼却に依存しない社会、低炭素社会、循環型社会のような価値観に基づくものがあります。そのほか、最終処分場の延命化、廃棄物処理コストの削減など、経済性に結びつくものなど多様です。

産業面については、地域の主要産業の目指すべき方向性を考える必要があります。たとえば、畜産農業が主要な市町村では、家畜ふん尿処理の負荷が減るほか、消化液を利用して良質かつ安価な飼料を生産できるため、畜産農業の活性化につながります。

また、観光業に重点を置く地域では、家畜ふん尿の堆肥化施設から発生する悪臭を低減し、生活環境を改善することにも可能です。その他、食品産業については、食品リサイクル率の向上や、CO2排出量の削減を目指すうえで、メタン発酵は導入意義が大きいです。

エネルギー利用については、再生可能エネルギーの比率を高めることを目指す地域にとっては、バイオガスによる発電は、太陽光等の出力変動を緩和する調整電源として重要な役割を果たす可能性があります。また、メタン発酵施設は常時一定量のガスを貯留しているため、災害時のBCP電源としても期待できます(図7)。

地域産業およびエネルギー等に関する絵姿検討の例

図7 地域産業およびエネルギー等に関する絵姿検討の例 出典:NEDO

時限性のFITに頼らない持続的な事業に

現状、国内においてバイオマスエネルギー事業を支える基盤は発達しておらず、事業を将来にわたって長期的に継続するには相応の知恵と工夫を要します。一方で、大型火力発電事業は長年にわたる投資や競争を経て、燃料調達、電力利用、発電を支える社会構造や技術、設備、人材などの安定した基盤が、産学官の絶え間ない努力によって整備されてきました。

このように、長期間にわたりハードウェアおよびソフトウェアの両面の基盤が整えられた既存の電力事業に比べ、バイオマスエネルギー事業は歴史が浅く、事業を行うための基盤整備は発展途上といえます。したがって、持続的な事業として成功させるには、バイオマスエネルギー利用をきっかけに地域との協力が重要だと考えられます。

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